MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2010.07.05
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


影山 幸雄 著
《評 者》村石 修(聖路加国際病院泌尿器科部長)
術野のイメージに役立つイラストが発揮する学習効果
本書は,著者影山幸雄氏が自己の豊富な手術経験に基づいて理解した外科解剖と,その解剖学的知識を駆使することで到達し得た最良の手術手技を,イラストで伝えようとする実践的な手術書である。記された内容はすべて著者が実際に行っている手術手技であり,長年の経験から得た細かなコツから思いがけない失敗に対する対処法まで,著者の手技を正確に伝えようとするものである。
日ごろ滞りなく行われている手術も場面を細かく分解すると,「次に現れてくる術野をイメージして決断された操作の連続」と言える。手術に携わる者が「術者の手が止まってしまった」と表現する場面は,術者が次の理想的な術野とそこに至る手術操作をイメージできずに困っている状態である。誰でも初心者時代に経験した記憶があろう。本書に多用されているイラストは,単に手術の手順を伝えるだけでなく,手術の進行に合わせて術者がイメージすべき次の場面を教えてくれる。エキスパートの手術ビデオを見て同じ手技で行おうとしても実際に執刀する場面でつまずくことが多いのは,静止画像的な次の術野をイメージしにくいことが一つの理由だと考える。手術ビデオを静止画像に分解したような本書のイラストが今までの手術書になかった学習効果を発揮すると期待できる。また,熟練した医師が若い泌尿器科医に手術を教えようとする場合の解説書としても最適であろう。
直接の手術手技ではないが,「よりよい手術をするためのアドバイス」と題して挿入されたコラムも魅力的である。「手術中冷静さを保つために」,「スタッフの力を最大限に引き出すもの」,「不測の事態に対して」,「手術を終えて」などの見出しで書かれているが,著者の理想的な手術をめざす真摯な姿勢と熱意が示されている。同感することばかりであり,よりよい術者をめざす若い泌尿器科医にぜひ伝えたい内容である。
A4・頁312 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01021-4


木村 彰男 編
里宇 明元,正門 由久,長谷 公隆 編集協力
《評 者》橋本 圭司(国立成育医療センターリハビリテーション科医長)
リハビリテーション医学の学び方を最短ルートで提示
評者が医学部を卒業して間もなく,まだ右も左もわからず,しかし志だけは大きく「リハビリテーション医学を究めたい」などと思っていたころに,本書初版に出合った日のことを今でも鮮明に覚えている。
さまざまなリハビリテーション医学関連書籍の中から,真っ先に同書を購入したものだが,同じ病院の研修医の中でも,この貴重なマニュアルを手にしていたのは,ごく一部であったと思われる。しかし,それゆえに,ほかの分野の医師たちとは違うベクトルでの医療の理解・実践に心を躍らせることができたのも事実であった。
あの日から10年以上が経過して,もう1度,初版を手にとってみると,コンパクトな白いマニュアルの余白にはわれながら初々しい書き込みがあり,表紙の裏にはさまざまな評価スケールの切り貼りがしてあり,本は手あかで汚れている。
さて,このたびの第3版は,編集の木村彰男先生をはじめ慶應義塾大学リハビリテーション医学教室や関連病院の諸先生方による改訂版である。最近のトピックス(高次脳機能障害やがんのリハビリテーション,転倒予防や廃用予防などの予防的リハビリテーション,社会的リハビリテーションなど)や評価や治療のポイントを,項目ごとに要約形式で見事にまとめられている。
評者自身は,まず項目ごとに収載されている「臨床上のコツ」を拝読し,その上で,各執筆者の先生方と,まさに実際に対話をしながら教えをいただいているような感覚で理解を進めることができた。
リハビリテーションは,その解釈によってさまざまな対象をも含むことがあり,一臨床医学としては,とっつきにくい側面がある。そのような中で,本書は,わが国のこの分野のリーダーたちが読者に実際に語りかけるような息吹を感じとることができる良書と言えよう。
リハビリテーション医療は,机上の勉強だけでは理解できない要素を多面的に意識する必要がある。あまりに高度に情報化された社会において,何がスタンダードで何が先進的なのかといったことを理解する間もなく,次の情報が押し寄せてくる。
本書はそのような時代に,われわれリハビリテーション医療にかかわる人間一人ひとりが,何を理解し,どう歩んだらよいのかを,最短ルートで端的に示してくれているように感じた。リハビリテーション医学を志すレジデントのみならず,リハビリテーションチームにかかわるあらゆるスタッフにとって必読・必携の書である。
B6変型・頁544 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00844-0


小西 文雄 監修
自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科 編著
《評 者》志田 晴彦(東京厚生年金病院外科部長/副院長)
若手を育成し外科の発展のために貢献する本
2005年に発刊された『消化器外科レジデントマニュアル』が待望の改訂を迎えることになった。この間に多くの外科レジデント,研修医の必携の書として彼らを育てた実績を持っての改訂である。不肖私が“『外科レジデントマニュアル』からさらに一歩消化器外科へ進む本”として本書初版の書評に記したように,日進月歩の外科分野のマニュアルとして改訂には大変なご苦労があったものと察する。
実際にこの第2版を見ると,小西教授のもと自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科のスタッフが,最新の情報を求めながら日々診療されているご苦労がそのままマニュアルに反映されていると感じた。それぞれの項目で5年間の新しい知見が盛り込まれているが,特に「内視鏡下手術の基本」「stapling deviceの種類と使い方」の項や,各種の消化器癌取り扱い規約やガイドラインなどの更新に応じたそれぞれの章での改訂に医局員のきめ細やかな配慮が印象的である。
私自身も若いころから小西教授には多くのご指導をいただき,また教授が大腸癌や炎症性腸疾患の診療,研究に熱意をもって立ち向かわれ,さらにその後腹腔鏡手術の発展に主導的立場で貢献され,今日の消化器外科を作り上げてこられた経過を目の当たりにしてきた。開腹手術で名を挙げてきた多くの先輩たちの中にあって,当初より腹腔鏡手術の将来を見据えた立場でのお仕事は,常に科学に新しいものを求める教授の姿勢の現れであり,真に敬意を表するばかりである。教授の信念が医局の先生方に浸透して教室として数多くの優れた実績を挙げてこられたものと思うが,中でもこのマニュアルはその小さな形に比して存在意義は極めて大きいものと言えよう。
今日多くの外科系学会では,「外科医を志望する学生の減少」「女性外科医が働けるための環境づくり」「専門医制度の意義」などが強調され,厳しい課題が山積みではあるが,問題の解決と発展のためには若手外科医の指導,育成が基本であることは自明である。このマニュアルが研修医,レジデント,ならびに時間的制限から経験のみに頼りがちになる医長,部長クラスの指導医にも引き続き必携の書であり,若手の育成を通じて外科学の発展に貢献するものであることを確信している。
B6変型・頁368 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00851-8


臨床家が知っておきたい「子どもの精神科」 第2版
こころの問題と精神症状の理解のために
市川 宏伸,海老島 宏 編
《評 者》大南 英明(放送大客員教授)
特別支援教育や障害児・者の教育,福祉をめざす人へ
医療と教育との連携,協力の必要性,重要性については,編者である市川宏伸先生をはじめ,幾人もの先生方が,都立青鳥養護学校の分教室における長年にわたる実践により,成果を示してこられました。
都立青鳥養護学校の分教室は,1972年4月,小児精神科の専門病院である都立梅ヶ丘病院の中に設置され,入院中の患者の中から教室での学習が可能と医師から診断された児童生徒(義務教育段階)を対象としていました。
記録をたどりますと,当初は,自閉症,情緒障害の児童生徒が中心でしたが,1990年には医師と教員がLD(学習障害)について,1994年ごろにはADHD(注意欠陥・多動性障害)についての研究・研修を開始し,分教室の教育の中心は,LD,ADHD等の発達障害の児童生徒へと変化し,現在に至りました。2010年2月,分教室は病院の統廃合により閉室となりましたが,新しい医療機関,特別支援学校で,医療...
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