解剖を実践に生かす
図解 泌尿器科手術

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著者が20数年かけて積み上げてきた泌尿器科手術の知識・技術を1000枚近いオリジナルイラストに結実! 低侵襲手術を安全かつ手際よく進めるために必要な、剥離の際の指標となる膜構造・層構造を明確に示すとともに、手術のプロセスを仔細に解説。若手からベテランまで、泌尿器科手術のスキルアップに必須となる待望の手術書!
影山 幸雄
発行 2010年04月判型:A4頁:312
ISBN 978-4-260-01021-4
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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推薦の序(木原 和徳)/はじめに(影山 幸雄)

推薦の序
 手術は人を傷つけて行う治療であるがために,よい手術を受けたい,よい手術をしたい,という思いは,手術室に向かう患者さんと医師の双方にとって切実である.どうしたらよい手術ができるのか,どうしたら患者さんの負担を最小にできるのか,思いは脳裏を駆け巡る.未知のことは先達に学び,学びつつ検証し,体験に基づいて自分流を作り上げる.これはよい手術をするためにすべての術者が行っていることであろう.
 優れた臨床医かつ研究医である影山幸雄先生が,長年かけて行った泌尿器科手術の研鑽で得た結果と提言を詰め込んだのがこの本である.初心者はこの本のとおりに行えばよい手術ができる.ベテランは自分の手術の検証と洗練に利用できる.術者の経験レベルに合わせて相応の響きで応える,間違いなく明日からの手術に有益な本である.
 手術は,数知れない先達の勇気と試行錯誤と不屈の意思により築かれ,受け渡されてきた技術であり,トールワルド著『外科の夜明け』には,近代外科を切り開いた医師たちの苦闘が活写されている.切り開かれた手術は,後に続く術者の研鑽により「誰が行っても同一の結果が得られるサイエンス」へと洗練されていく.「決まった目印に従って,決まった操作を行えば,誰にでもできる」という到達点に近づくことで,少数の個人から社会全体に貢献できる手術へと変貌していく.
 この「決まった目印,決まった操作とは何か」を念頭におき,これまで受け渡されてきた財産を踏まえ,影山先生が自らの豊富な体験に基づいて思いを込めて書き上げたのが本書である.日々,緊張感をもって手術室に向かう数知れない最前線の泌尿器科医のための実践の書として,「膜構造」に視点をおき,「学問的な検証よりも実際の手術」を重視するという立場を明確にして,①外科解剖,②外科解剖に基づいた手術の実際,③臓器損傷への対応,を丁寧かつ詳細に図解している.議論の余地のある部分も,手術現場に立脚して,影山流にあえて言い切ってわかりやすく解説している.言い切ることで読者の検証意欲や思索が刺激され,生じうる反論がまた,手術の洗練の糧となることが期待される.
 人を傷つけて行う治療である手術は,その低侵襲化が宿命である.本書を読むと,新しい低侵襲手術の開発に没頭していた頃,第一助手の影山先生と行った数多くの手術が走馬灯のように目の前に浮かんでくる.開放手術も多様な低侵襲手術もその基本は同じであり,本書は巧まずして,よい泌尿器科低侵襲手術への手引書ともなっている.
 医療は健やかな社会の保持に直接かかわる行為である.わが国を筆頭に全世界が迎える超高齢化社会において,CO2ガスを使わない,コストをかけない,シングルポートの内視鏡下手術は,最も貢献できる低侵襲手術のひとつと考えられ,本書はこの夢の実現にもつながっている.
 今,この文章を読んでいただいている貴方に,著者に代わって,本書を手術に役立てていただくことを心よりお願いする.

 2010年2月
 東京医科歯科大学大学院泌尿器科学
 木原 和徳


はじめに
 手術を手がける方であれば誰でも感じていることだと思いますが,初心者が独り立ちしてどのような状況にも対応できるようになるためには,大きな山を何度か越える必要があります.患者さんの体は1人ひとり異なり,また病気の状況も千差万別であり,手術解説書や先輩の手技を真似てもなかなか思いどおりにはいかないのが現実だと思います.もともと腹腔のような広い操作腔がなく,自分で?離,展開していかなければならない後腹膜手術においては,術者が要求される技術レベルはさらに高くなります.
 これまでたくさんの方々と一緒に手術をこなし,自分自身も多くのことを学び,また自分のもてるものを若い先生方に伝えてきましたが,膜構造を中心とした臨床解剖学的な指標を理解することで手術の内容が格段に洗練されたものになることを実感しています.経験が浅くとも理論立てて手術操作を覚えることにより,ベテランに引けをとらない手際のよい手術が可能となります.しかしながら,手術現場での個別の指導ではたくさんの方にノウハウを伝えることができません.そこで今回イラストを駆使し,自信をもって手術を行うためのヒントをまとめてみることにしました.患者さんに最もよい手術を提供するための技術を1人でも多くの先生方に身に付けていただきたいとの思いを込めました.この本の内容が読者の先生方の診療に少しでも貢献できれば幸いです.

 この手術書はこれまで私を支えてくれた諸先輩方から受け継いだものを集大成したものです.とりわけ恩師である前東京医科歯科大学泌尿器科教授の大島博幸先生,現東京医科歯科大学泌尿器科教授の木原和徳先生のお力添えがなければ実現不可能であり,お2人の綿密な指導と,惜しみない技術の伝授に心から感謝いたします.また現在の上司である埼玉県立がんセンター副病院長の東 四雄先生をはじめ,これまで支えて下さった諸先輩方,同僚の皆さんにも心よりお礼を述べたいと思います.最後に原稿の校正を手伝ってくれた福井直隆先生,井上雅晴先生,河野友亮先生にも感謝の意を捧げたいと思います.

 2010年2月
 影山 幸雄

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1 術野展開に必要な層構造の知識
 1-1 骨盤部腹壁の層構造
 1-2 側腹部腹壁の層構造
 1-3 男性の鼠径部から外陰部の層構造

2 手術を円滑に進めるための膜構造の知識
 2-1 膀胱・前立腺周辺の膜構造
   A 前立腺周辺の膜構造
   B 膀胱周辺の膜構造
 2-2 腎臓・副腎周辺の膜構造
 2-3 男性の鼠径部から外陰部の膜構造

3 出血を最小限にとどめるために必要な血管走行の知識
 3-1 膀胱・前立腺(膀胱・子宮・腟)周辺の血管走行
 3-2 腎臓・副腎周辺の血管走行
 3-3 男性の鼠径部から外陰部の血管走行

4 臨床解剖学的知識に基づいた主な泌尿器科手術の実際
 4-1 前立腺全摘術
 4-2 骨盤リンパ節郭清
 4-3 根治的膀胱尿道全摘術:男性
  4-3-1 膀胱前立腺摘出
  4-3-2 尿道摘除
  4-3-3 回腸導管造設
 4-4 膀胱尿道全摘術:女性
 4-5 経腰的根治的腎摘術:右腎
 4-6 経腰的根治的腎摘術:左腎
 4-7 腹膜外アプローチ腎尿管全摘術:下部尿管の処理
 4-8 経腰的副腎摘除術:右副腎
 4-9 経腰的副腎摘除術:左副腎
 4-10 陰茎部分切除術
 4-11 鼠径リンパ節郭清

5 主な術中損傷への対応
 5-1 直腸損傷修復
 5-2 胸膜損傷修復

参考文献
索引

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「症例から学ぶ」真摯な態度に基づく良書
書評者: 冨田 善彦 (山形大教授・腎泌尿器外科学)
 これまで,特に和文で書かれた手術書については個人的に苦い経験がある。あまりに自信たっぷりで思い入れが強すぎ,アートのみが先行して論理的な思考が欠落した,科学的でないものや,現場で場数を踏んでいない医師の執筆による,お話にならないものが多く,大枚をはたいて入手しても使い物にならないという経験をした。英語で書かれたものにも良書はあるが,なにせ白人や黒人を主な手術対象として書かれているわけで,われわれ東アジア人の解剖にはマッチしない面も少なくない。

 そのため筆者は,とかく学会のビデオ演題,DVD,ネット配信画像,AVソースを利用したり,手術後は囲碁将棋のごとく,検討会において手術後の「感想戦」を行ったり,あるいは場所を変えて(居酒屋などで)の「雑談学」により手術のスキルアップを図るほうが合理的と考えてきた。

 本書は従来の手術書とは異なるもので,著者の影山幸雄氏のこれまでの経験に基づいた論理的な思考と実践的な眼により著されている。69頁と71頁を見てほしい。尿道後面の2つの膜をこのように理解して手術できる術者は果たして何人に1人いるだろうか。年間何例と多数の症例を誇ってみても,楽曲のネット販売のダウンロード数ではあるまいし,手術の質はその「数」では担保できず,1例手術するごとに解剖学,および手術学の良書をその都度参照し,反省し,次例に生かすような「症例から学ぶ」真摯な態度がなければ,何例やっても質の低い手術しかできるようにならない,と個人的には思っている。本書はそのような真摯な態度に基づく良書の1冊と考え,自信をもって推薦する。
泌尿器科医のあらゆるニーズに対応した好著
書評者: 大家 基嗣 (慶大教授・泌尿器科学)
 手術は記録を通して客観性をもつのではないだろうか。手術記事では個々の症例でどのような手技がどのような時間軸で施行されたかが記録され,第三者が読んで手術の過程がわかるように記載されている。

 さらに,手術を行う医師は,自分自身の手術の習熟のために,手術記事に記載するにはあまりに主観的な「手術ノート」を作り,先輩の医師に習ったこと,今後改善すべき点などを詳細に記載し,後生大事に持っていることが多いのではなかろうか。手術前にノートの記載とスケッチを眺めながらイメージを描き,手術に臨む。手術の終了後は加筆を行い,ノートの「改訂」は繰り返されていく。この地道な過程こそが上達への定石であり,この記録を通して,先輩の医師は後輩に技量を伝授してきたのではないだろうか。

 個々の症例では手術は1回きりである。なんとしてでも全力を尽くさなければならない。より良い手術を継続的に実践するためには,手術自体の客観性を担保しなければならない。そのためには,学会で勉強し,意見を交換するだけでなく,手術書あるいは文献を紐解き,常に自らの手技に批判的な視点をもつ必要がある。

 おそらく著者はより良い手術を求める過程で,自らが集積してきた詳細な術中のスケッチを通して技術を磨いてきたのだと思う。著者は東京医科歯科大学の木原和徳教授とともにミニマム創手術の確立に多大なる貢献をしてきた。本書では膜の解剖を徹底的に理解し,これ以上の解析は無理であろう,あるいは手術にはそれ以上必要はないであろうというレベルまで考察して泌尿器科手術に応用している。この考察はミニマム創手術の確立に必要な過程であったのかもしれない。

 学問の方向性の1つとして,錯綜する知識から共通の原理を発見するということがある。おそらく著者が泌尿器科手術をそういう学問としての立ち位置から解析して,たどり着いた原理が,「血管の分布は人によって異なるものの,膜構造のうちのどの層を走行しているかについては例外がない。血管そのものが今どこを剥離しているかを教えてくれる」ということであったと思う。本書を通じて具体的な手術手技を学ぶだけでなく,この原理を知った読者が手術をどのように変貌させていくかを著者は読者に問いかけている気がする。

 本書の特徴の1つとして,手術の行程を示していくイラストに省略がない。1つずつの行程を丁寧に記載してある。そのことが,若い医師でも,あるいは熟練した医師にでも新たな発見を享受できる基盤となっている。

 手術を系統的に学びたい若い医師にとっても,手術に客観性を持たせたい上級医師においても学ぶことの多い書であるといえる。本書はミニマム創手術を行っている泌尿器科医だけでなく,通常の切開手術あるいは腹腔鏡手術を行う医師においても参考になるエッセンスが詰め込まれている。泌尿器科医のあらゆるニーズに対応した好著といえるのではなかろうか。
術野のイメージに役立つイラストが発揮する学習効果
書評者: 村石 修 (聖路加国際病院泌尿器科部長)
 本書は,著者影山幸雄氏が自己の豊富な手術経験に基づいて理解した外科解剖と,その解剖学的知識を駆使することで到達し得た最良の手術手技をイラストで伝えようとする実践的な手術書である。記された内容はすべて著者が実際に行っている手術手技であり,長年の経験から得た細かなコツから思いがけない失敗に対する対処法まで,著者の手技を正確に伝えようとするものである。

 日ごろ滞りなく行われている手術も場面・場面を細かく分解すると,「次に現れてくる術野をイメージして決断された操作の連続」といえる。手術に携わる者が「術者の手が止まってしまった」と表現する場面は,術者が次の理想的な術野とそこに至る手術操作をイメージできないで困っている状態である。誰でも初心者時代に経験した記憶があろう。本書に多用されているイラストは,単に手術の手順を伝えるだけでなく,手術の進行に合わせて術者がイメージすべき次の場面を教えてくれる。エキスパートの手術ビデオを見て同じ手技で行おうとしても実際に執刀する場面でつまずくことが多いのは,静止画像的な次の術野をイメージし難いことが一つの理由だと考える。手術ビデオを静止画像に分解したような本書のイラストが今までの手術書になかった学習効果を発揮すると期待できる。また,熟練した医師が若い泌尿器科医に手術を教えようとする場合の解説書としても最適であろう。

 直接の手術手技ではないが,「よりよい手術をするためのアドバイス」と題して挿入されたコラムも魅力的である。「手術中冷静さを保つために」,「スタッフの力を最大限に引き出すもの」,「不測の事態に対して」,「手術を終えて」などの見出しで書かれているが,著者の理想的な手術をめざす真摯な姿勢と熱意が示されている。同感することばかりであり,よりよい術者をめざす若い泌尿器科医にぜひ伝えたい内容である。

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