心不全へのアプローチ(後編)(谷口俊文)
連載
2010.06.07
レジデントのための 【18回】 心不全へのアプローチ(後編) 谷口俊文 |
(前回よりつづく)
前回は急性期におけるマネジメントを解説しました。今回は慢性心不全の管理について学びます。症状が落ち着いた後にどのような管理をすれば退院後まで考えた治療を行うことができるのか。蓄積されたエビデンスに目を通していきます。
■Case
69歳の女性。高血圧,糖尿病,脂質異常症を治療中。3年前に前壁の心筋梗塞の既往あり。呼吸苦のために救急外来に来院。心拍数74回/分,血圧は122/76 mmHgで身体所見では頸静脈怒張,両下肢の浮腫,両下肺野のラ音などがみられる。胸部X線写真は肺うっ血像がみられる。心エコーが行われ,左室拡大,左室駆出率33%と低下,全体的に収縮が低下している。
Clinical Discussion
前回紹介した急性心不全に対するアプローチを利用しよう。本症例では心電図,心筋マーカーなどの検査の結果,急性心筋梗塞は否定的,収縮機能不全による急性心不全で全身性の体液貯留がみられるため,酸素投与,利尿薬にて治療して症状は改善した。今回のテーマはここから先の管理。心不全の長期的な経過を改善するために,また死亡率や今後の入院率を改善するためにはどうしたらよいだろうか?
マネジメントの基本
収縮機能不全による心不全
心不全の治療へのアプローチを理解するためには,まずNYHA心機能分類とACC/AHAの心不全ステージ分類を知る必要がある(これら分類は各自で調べてほしい)。アルゴリズムの一例を図に示す。治療の目標は心不全の症状緩和,入院率の低下,そして早期死亡の予防である。
1)症状緩和:ループ利尿薬(フロセミド)が基本。心不全の経過,死亡率改善などにはつながらないとされる。心不全の患者は浮腫のない状態の体重(Dry-Weight)を知る必要がある。毎日体重を計測して,Dry-Weightを目標に利尿薬を調節する。
図 収縮機能不全による心不全へのアプローチの一例 |
2)病状緩和:症状がなくても高リスク患者(ステージA)や既にエコーで心不全の構造変化を認める患者(ステージB)は治療対象と考える。高血圧,脂質異常症,糖尿病のコントロールに努め,ACE阻害薬を低用量から使用する(咳などのためACE阻害薬の服用が難しい場合はARBを使用)。症候性の心不全を呈した場合にはβ遮断薬を加える。この2剤が標準治療である。
◆ACE阻害薬は左心収縮機能不全による心不全の経過を改善するため,全症例が適応となる第一選択薬である。死亡率,入院率,心筋梗塞の発生率のすべてを有意に低下させる。
◆β遮断薬(カルベジロールなど)は症候性心不全患者における基本治療薬のひとつで,ACE阻害薬と併用する。収縮機能を改善,死亡率や入院率も改善する。急性心不全でβ遮断薬を服用していなかった患者はまず急性症状が改善してから,徐々にβ遮断薬を開始する。既にβ遮断薬を服用していた患者は循環動態が不安定,低灌流などの場合を除きなるべく継続する。人種差,個体差のためか,β遮断薬に対して反応しやすく低用量でも著しい血圧の低下を招く患者がいるので,十分な観察と注意が必要である。
◆アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトンなど)はNYHAクラスIII-IVの重症心不全患者に対して標準治療に加えることを考慮する。これはRALES(N Engl J Med. 1999[PMID : 10471456])で示された通り,死亡率と入院率を有意に低下させるためである。
◆ジゴキシンは利尿薬とACE阻害薬との併用にて入院率を28%減少させることができるとしたが,直接の死亡率低下にはつながらないことがDIG(N Engl J Med 1997[PMID : 9036306])にて示された。ACE阻害薬,β遮断薬や利尿薬投与にもかかわらず症候性である左室駆出率(LVEF)の低下した心不全(NYHAクラスII-IV)に対して,使用を試みてもよい。
非薬物療法
収縮機能不全による心不全の死亡の半数以上は心室性不整脈とされる。不整脈による突然死を予防(一次予防)するためにICD(植え込み型除細動器)の適応が欧米では広まっている。欧米では数多くの臨床試験(表)が行われ,積極的にICDが適応となっている。現在そろっているエビデンスを大まかにまとめてみることにしよう。
表 ICD(植え込み型除細動器)の主な臨床 |
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