医学界新聞

対談・座談会

2010.05.31

【座談会】

臨床現場で起きる暴力にどう向き合いますか?


 勤務中に何らかの暴言,暴力を受けたとき,「自分の対応が悪かったから」と,その事実を自分の胸におさめてはいないでしょうか。また,管理職の方はスタッフから報告を受けたとき,「あなたの対応に問題はなかったの」と問うてはいないでしょうか。本紙では,このほど発行された『医療現場の暴力と攻撃性に向き合う――考え方から対処まで』の監訳者である出口禎子氏(北里大教授),暴力に関する研究の第一人者である三木明子氏(筑波大大学院准教授),臨床現場で日々さまざまな暴力に対処している川谷弘子氏(北里大病院看護部NICU係長),有山ちあき氏(済生会横浜市東部病院医療安全管理室看護師長)による座談会のもようをダイジェストでお送りします。暴力を適切に回避し,組織としていかに職員を守っていくか,再考するきっかけになれば幸いです。

 

写真左下から時計回りに,出口禎子氏,有山ちあき氏,川谷弘子氏,三木明子氏


出口 近年,臨床現場での暴力――患者-医療者間だけでなく医療者同士でも――が,スタッフへの大きなストレスとなっていることが明らかになってきています。しかしながら,臨床現場で起きている暴力の実態はいまだ正確に把握できておらず,これといった対策もないのが現状です。今,現場では何が起きているのでしょうか。

三木 臨床での暴力や攻撃的な場面というと,従来は救命救急や精神科の領域でしか話題に上がってきませんでしたが,この10年で診療科を問わず暴力の実態が報告されるようになってきています。

 私は看護職の方の協力を得て700例ほどの患者暴力の被害事例を分析しましたが,慢性疾患の患者から毎日言葉の暴力を受け耐えていたという事例や,ターミナル期の病棟で身体的な暴力を受けていたという事例もあります。また小児科でも,患児から引っ張られたり,つねられたりといった身体的な暴力を受けたり,親から言語的・身体的暴力を受けていたという事例もありました。今やどの臨床現場においても暴力を受ける可能性があるということです。

有山 しかし,まだ多くの職場で暴力や攻撃について報告する風土や場がないのが現状です。実際,病棟によって暴力の報告数はまったく違いますし,現場での対応や認識もそこの管理職に一任されていると思います。

 なかでも言葉による暴力については,報告自体だけでなく,カンファレンスなどで取り上げる場もほとんどありません。看護師自身も傷ついた経験は言いたくないという気持ちがありますし,言葉による暴力は本人の主観的なものとして認識されている傾向があるからです。

川谷 特に病棟での看護は患者とずっと向き合っていかなければいけません。そうした状況で,患者から受けた暴力を報告することにためらいを感じる看護師は少なくありません。つまりそれを暴力と認識すること自体に心理的なブレーキがかかっているというのが現状だと思います。

出口 つまり臨床のレベルで起きている暴力の存在自体は認識しているし,そうしたことでスタッフが悩んだり疲弊してしまうという事実はわかっているものの,実際に暴力が起きた際の一連の対処策や何をもって暴力と定義するかといった本質的な理解が不足しているということですね。

暴力に耐えてしまう看護師

出口 私はこのほど刊行された『医療現場の暴力と攻撃性に向き合う――考え方から対処まで』という書籍の監訳を務めました。著者のポール・リンズレー氏は英国急性期精神保健看護のスペシャリストです。臨床での豊富な経験をもとに,医療現場での暴力と攻撃性について,そのメカニズムから対処方法,心構えやサポートシステムの構築までを書いています。非常に興味深いことに,本書には暴力や攻撃性の定義は,主観的で非常に難しいものだが,それらの予防には医療者自身が「暴力」や「攻...

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