医学界新聞

連載

2010.05.17

在宅医療モノ語り

第2話
語り手: 目標に向かって任務を果たすチーム採血さん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「チーム採血」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


チーム採血と,その任務後の姿
チーム採血の中には,何種類かの針とシリンジ,検査スピッツ,駆血帯,アルコール綿などが入っている。採血が終わると,医療廃棄物,検体,一般ゴミとして別々の道を歩む。
 近ごろ話題のチームといえば,チーム青森。カーリング日本女子代表のクリスタル・ジャパンですね。メンバーのそれぞれが役割を持ち,目標に向かう姿に日本中が注目しました。チームとは単なる集まりでなく,同じ目標を達成するために集まった集団です。私たちは,在宅で血液検査を行うために集まったモノ集団「チーム採血」です。医療機関での採血は日常的に行われる検査ですが,「ザイタクで」となるとそれなりの準備が必要で,「チーム採血」では常にメンバーをそろえ,出陣のときに備えています。

 私たちのメンバーを紹介しましょう。まず注射針とシリンジ。注射針は22Gの通常タイプから翼状針や控え選手までベンチ入りです。あとは検査項目によって出番が回ってくる検査スピッツと検査伝票。伝票はあらかじめ記名され,採血後,すぐその場で名前シールを貼れるように準備。その他,駆血帯,個装されたアルコール綿,採血痕に貼るパッチかテープもスタンバイです。

 そして,いざ出陣。医療者が患者さんに優しく声をかけている間に私たちは近づき,ちくっと任務を遂行します。事後は医療者が針刺しに気をつけながら,検体をスピッツに分け,検体入れに立てて保管。検体は大切に医療機関に持ち帰られ,検査室や検査会社に回されます。夏場に何件かをまとめて訪問する場合は,保冷剤を使うなど温度にも注意が必要です。

 採血という職責を果たすと,悲しいことに私たちの大半はゴミと呼ばれます。特に血液が付着した器具や注射針は,「医療廃棄物」というレッテルが貼られ,強制的に医療機関に返されます。医療廃棄物は周りを傷つける乱暴者。往診鞄の中で飛び出して大暴れしないように,お弁当箱のような密封できる容器に監禁されます。医療廃棄物以外のゴミとなると,扱われ方はかなり違い,シリンジの入っていたビニール袋,アルコール綿のアルミ袋などは,患者宅の家庭ゴミになることもあります。その場でのゴミの分別は,後の作業が楽になり,かつ針刺し事故などのリスクも減るので医療者は大喜び。

 検査を外注する場合,採血の検査結果は,当日の夜にファックスやメールで医療機関に報告され,正式な結果レポートは翌日,というのがよくあるパターンです。結果レポートは2部あって,1部は医療機関のカルテに,もう1部は患者さん宅に大切に保管されます。

 私たちのチームの目標は単に「血を抜くこと」と誤解されやすいのですが,本当は「患者さんがご自宅で快適に療養を続けられるために診断や治療の手助けをすること」です。主治医はよく患者さんに「採血の結果は,今度来たときに説明しますね。でも悪くなっていたら,すぐ電話しますよ」なんて言っていますが,私たちとしては「大丈夫。変わりないよ。安心して」の結果こそ,本当は一刻も早く教えてあげてほしいと思っています。

つづく

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