医学界新聞

2010.03.08

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


透析療法事典 第2版

中本 雅彦,佐中 孜,秋澤 忠男 編

《評 者》酒井 糾(北里大名誉教授)

専門技術と総合的解説を兼ね備えた内容

 透析療法が腎不全の治療として認知され,40年以上が過ぎようとしている。その間積み上げられた知識と技術が,今では治療医学の一角を占めるほどに進化した。オックスフォードの医学辞典では,20世紀の治療医学で目覚ましい発展を遂げた領域の一つであると評価されていると聞く。

 わが国の慢性透析患者数も年々増加の一途をたどり,2008年末には28万人を超えた。透析医療に携わる医療従事者の職種も広がりを見せ,最近では福祉・介護関係の人たちも関与する機会が増えている。治療医学の面からすると,医師のみならず,理工学者の参加,社会学者の参加すらも必要とされる分野として発展を続けている。また医療のシステム化,社会化といった流れからすると,それこそ一般業界,行政機関,政府関係者の間にあっても透析医療の意味と価値を知ってもらうことが不可欠となりつつある。このように医療界のみならず社会とのつながりの中で展開,発展している領域になっている。

 こうした医療環境の中で必要とされるのが,正しい知識と技術,その意味と価値を知らしめる情報提供手段ということになる。専門技術として,また総合的解説の両者を兼ね備えた内容として書かれた本書はまさしく時宜を得たものである。

 わが国の透析医療を含む腎臓学を先頭に立って引っ張っておられる執筆陣により書かれている本書の内容は,見事なまでに充実している。編集にあたられた中本雅彦先生,佐中孜先生,秋澤忠男先生の構想力に敬意を表すとともに,素晴らしい書を世の中に送り出していただいたことに感謝したい。

 21世紀に入ってこの方,医療界は持続可能な成長を期待するにはあまりにも社会環境,経済環境が悪すぎると言わざるを得ない。透析療法もこうした影響下にあることは間違いない。それでも“経験と意欲が創造を生み出す”と言われているように,日々の業務に必要とされる技術と知識を身近で支えてくれる本書の果たす役割は極めて大きい。理論武装だけにとどまらず,意味と価値,特に新たな知見を知り,標準的知識と技術を身に付ける,こうした医療プロフェッショナルに必要とされるアイテムについてわかりやすく記述してある。私が本書に対して大きな感動を覚えたゆえんである。

 世の習わしとして世代継承は大切であるが,医療,特に透析医療にあっては眼下に迫った現象にも見える。なぜなら,患者数の増加はまだ止まっていないからである。今後,増加率は減少に入るかもしれないが,医療を支えるプロフェッショナルの意欲と創造力を持続できるかが心配である。そうした世代継承,時代継承にも本書が役立つものと確信している。

 極めて時宜を得たもので,本書の持つ意味と価値には絶大なものを感じている。本書から得られる知識と技術が透析療法の広がりと進化に大きく寄与すると確信するとともに,本書が広く活用されることを祈念してやまない。ぜひ座右の書として手元に置いていただけることを期待したい。

A5・頁592 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00845-7


市中感染症診療の考え方と進め方
IDATEN感染症セミナー

IDATENセミナーテキスト編集委員会 編

《評 者》山中 克郎(藤田保衛大准教授・内科学)

感染症教育の真髄に出合える

 「いだてん」って,韋駄天(増長天八将軍の一神,小児の病魔を除く足の速い神)? いやいや日本感染症教育研究会こそ「IDATEN」なのである。歴史は古くなんと……大野博司先生(洛和会音羽病院)がまだ研修医だった2002年に,麻生飯塚病院で始められた「病院内感染症勉強会」にさかのぼるという。現在は大曲貴夫先生(静岡県立静岡がんセンター)が代表世話人を務められ,年に2回感染症セミナーが全国で開催される。私は2008年の夏に参加させていただいたが,市中感染症のreviewを豪華講師陣から聞くことができ,実に充実した感動の3日間だった。

 「IDATENセミナーの本が発売されるらしい」との噂を聞き,居ても立ってもいられず馴染みの本屋に注文した。「お~,これぞまさにIDATENセミナーではないか!」 冒頭の「感染症診療の基本原則」では,青木眞先生が「発熱=感染症の存在ではない」こと,「CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度ではない」ことを熱く語られている。

 各論ではIDATENセミナーにも登場する著名講師陣から「肺炎」「髄膜炎」「急性腹症」など市中でよく遭遇する疾患14ケースについて,診断への具体的アプローチ,鑑別診断,治療がしなやかに語られる。どの項目も非常に具体的で日常診療の即戦力となる。さらに「グラム陽性球菌」「グラム陰性桿菌」「嫌気性菌」というカテゴリーからみた臨床で重要な微生物,「ペニシリン系」「セフェム系」「マクロライド系」「キノロン系」抗菌薬特性の解説が続く。

 私は救急診療の場で研修医教育を行っている。感染症は進行が早く重症化しやすいので,極めて重要な分野であるが,系統立てて理論的に教えることはなかなか難しい。抗菌薬使用前の血液培養(2セット),感染症が起こっている臓器を特定し起炎菌を想定,迅速な治療の開始,さらに広域から狭域抗菌薬への変更という「感染症のベー シックアプローチ」をこの本では学ぶことができる。

 「間断(かんだん)の 音なき空に 星花火(ほしはなび)」

 窓を閉ざしているため音のない花火……それが満点の星よりも美しく空に咲く。27歳の若さで白血病のため早世した女優,夏目雅子の絶句である。

 セミナーで教育を受けたIDATEN魂を持つ若者が全国で大花を咲かせようとしている。この本は,これから感染症の勉強を始めたいと思っている医学生,感染症診断・治療の実践を学びたい研修医,どのように感染症を教えればよいか迷っている指導医にとって大変参考となる。豊穣の時を刻み続けるIDATEN,感染症教育の真髄に出合える,そんな魅力がこの本にはある。しんと静まり返った秋の夜長こそ,夏目雅子の句に想いをはせながら,この良書をじっくりと楽しみたい。

B5・頁216 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00869-3


見逃さない・見落とさない
スタンダード 胃内視鏡検査

細井 董三 編
東京都多摩がん検診センター消化器科 執筆

《評 者》細川 治(横浜栄共済病院院長)

より盲点の少ない,見逃し,見落としの少ない撮影法を提唱

 一度の胃内視鏡検査で極めて多くの画像情報が得られるようになった。白色光画像以外に色素散布,酢酸散布,拡大,構造強調,NBI,AFI,FICEとあふれるような情報が供給される。しかもファイリング装置で撮影コマ数に制限がない。内視鏡医は手元スイッチを切り替え,処理しきれないほど多くの画像情報を得て,見落とし,見逃しの危険などないと思いがちである。しかし,その画像情報の収集過程に問題がある。胃内腔の構造は複雑で,噴門,胃体部の皺襞,胃角,偽幽門輪などの部位ごとの形態的な違いがあり,さらに胃底腺領域,幽門線領域,萎縮領域といった粘膜腺も異なり,一筋縄ではいかない。

 本書前書きに述べられているように,編者の細井先生は消化管のX線検査に長く携わってきた。その技量は達人の域であろう。卓越した撮影技術を有することにとどまらず,胃X線標準撮影法を確立し,この数年はその普及と精度管理に尽力している。本書では,X線検査で実現された標準化や精度管理が胃内視鏡で遅れていることに対する苛立ちが表れている。

 A5判168ページの本書で多くのページを割いているのは,もちろん観察・撮影順序の項である。最近一般的に行われている幽門まで一気に進み,引き抜きながら撮り上げてくる観察法は編者の賛同を得られない。胃体部の皺襞が重なり合ったままで噴門部も観察が不十分になりやすいことが理由である。自己流の撮り方をやめ,より盲点の少ない,見逃し・見落としの少ない撮影法を提唱している。咽頭から始まり,食道,食道胃接合部へと進み,胃内では胃体上部から幽門部に順に撮り下げていき,十二指腸は2コマのみ,次いで角裏から体部Jターン,穹窿部Uターンと進み,全体で45コマの記録が推奨される。咽頭反射の強い場合やより簡便に施行する方法も追記されている。

 さらに,残胃の観察撮影に12ページが割かれ,Billroth I法とII法に分けて要点が記載されている。その項で描かれている図では残胃小彎の向きがI法とII法で異なっており,多数の残胃X線検査に携わった編者の面目躍如である。

 部位ごとの撮影上の注意,色素内視鏡の手順,生検のコツ,覚えておきたい内視鏡画像と,初学者にとって必須の内容が記載されている。類書との違いは,編者がX線検査から得た手法を用いている点である。ストマップという模擬図を用い,検査医が観察している箇所を容易に頭に描くことができる手法を取っており,胃透視を行う放射線技師が広く用いている。また7ページに被検者身体の軸方向,12ページに食道と胃内腔の軸方向が記載されており,身体と臓器の軸の認識は,X線検査で体外から胃を透かし見た編者ならではと思われた。

 内視鏡医は種々の特殊画像を弄ぶ前に,スタンダード胃内視鏡検査に通じることが必要である。その点において,本書は大いにその力添えをしてくれるであろう。

A5・頁168 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00964-5


白衣のポケットの中
医師のプロフェッショナリズムを考える

宮崎 仁,尾藤 誠司,大生 定義 編

《評 者》岩﨑 榮(NPO法人卒後臨床研修評価機構)

プロフェッショナリズムを現実的に考えさせる巧みさ

 本書は「医師のプロフェッショナリズムを考える」として,医師という職業(プロフェッション)のあり方を問いかけながら,プロフェッショナリズムは日常診療の中にあることを気付かせる。なぜ自分は医師を続けているのかという自らの問いに答える形で,「医師というプロフェッション」とは何かを明らかにする。それは実証的ともいえる探求に基づいた実に印象深い実践の書となっている。編者の一人である尾藤誠司氏は「教条的なことを書いた本ではない」と述べている。「国民は,立派な教条ではなく,医療専門職の意識と行動の変化を求めているのだ」というのである。

 本書を手にしたとき正直言って,『白衣のポケットの中』という表題に,“それって何なの?”と思ったのも事実である。かつて医学概論の論者であり医学教育者でもあった中川米造氏との白衣論議で,必ずしも白衣に対しては良い思い出がないからでもある。その中川さんは,「古典的にはプロフェッションとよばれる職業は,医師と法律家と聖職者の三つだけであったが,いずれも中身がわからない職業であるうえに,質の悪いサービスを受けると重大な結果を招くおそれのあるものである」と言っている。とかくプロフェッショナリズムという言葉からはヒポクラテスにまでさかのぼる医療倫理という堅苦しさをイメージさせたからでもある。

 だがそのような読み物となっていないところに本書の特徴がある。読者をして,日常診療の場で身近に起こり得る現実の問題に直面させながら問題解決をしていくプロセスの中で,プロフェッショナリズムを考えさせていくという巧みな執筆手法(むしろ編集といったほうが良いのかもしれない)がとられている。決して難しくもなく,そんなに易しくもなくプロフェッショナリズムが論じられている。

 本書の構成において,Part1は大生定義氏の概論に始まり,執筆者の一人である永山正雄氏による新ミレニアムが紹介され,いわば総論部分である。Part2は宮崎仁氏がタイトルしたそのままの白衣のポケットの中からあふれだした医師たちの「物語り」である。それは今日的に医療の現場で起こっている事例をあえて想定問題として提起し,問題解決型で考えていく記述となっている。必ずしも医師でなくとも専門職である読者に対して,プロフェッションとしてどう解決するかを問うパートである。目の前にいる患者さんの問題解決のためのヒントが与えられる。

 そしてPart3は現代医療が抱えているすべての問題に果敢に立ち向かう医師の姿を追い求めて,解決への示唆に富んだ問題がプロフェッショナリズムとの関係性において十分な文献をも紹介しつつ,学術的にも究めた論述となっている。最終のコラムは中途に組まれた尾藤氏,錦織宏氏のものを含め現状の日本の医療におけるプロフェッショナリズムが論じられていて興味深い。

 すべての医師をはじめ,ことに臨床研修医の皆さん,そして医師以外の医療職の方々,できれば一般の人たちにも必読の書としてお薦めしたい本である。

A5・頁264 定価2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00807-5


膝MRI 第2版

新津 守 著

《評 者》宗田 大(東医歯大大学院教授・整形外科学)

完読するたびに新たな事実を教えてくれる本

 MRIが日本の臨床で用いられるようになって20年余り,私自身これまでに何千もの膝MRIを読影してきた。同時に添付される読影医の診断やコメントも数多く目にしてきた。そんな中,唯一参考になるコメントを書いてくださる読影医を発見した。それが本書の著者である新津守氏である。新津氏のコメントには私の読みの上を行く,有益な内容や情報が常に含まれている。プロのコメントである。日本には骨関節系のMRI読影専門医が少ない。一方,MRIの撮像に対して日本の医療制度は非常に寛大であり,膨大な数のMRIが撮られている。その画質や読影医の読影能力の差はすさまじいものがあり,同じ医療費でよいものなのか,と日ごろから感じている。そのような日本の中で私たち整形外科医にとって新津氏の存在は貴重である。

 本書は長年にわたる新津氏の膝MRIの仕事をまとめた書物の第2版である。好評だった初版の7年後の改訂であり,時代の,主にMRI撮像技術の変化に応じた改訂である。膝をこよなく愛する著者の,膝関節の外傷や障害に対する理解の深まりが手に取るように伝わってくる。初版の精神を引き継いだ著者のライフブックである。

 膝の専門医,膝に興味のある医師,研修医,膝に興味がありさえすれば,どのような経験や読影力の持ち主でも,まず最初から最後まで完読していただきたい。読むというよりも画像をどんどん見ながら,ページを繰っていく。目に付いた画像があったら説明を読んでみる。そのような斜め見でも,膝全体の問題が身に付くような気がする。MRIを通じた幅広い膝関節の外傷・障害の総合的教科書としても手ごろな読み物(図鑑)といえる。特に前十字靭帯損傷と半月板障害の項目は詳しい。数多くの症例が発生する2つの疾患は,同じ病名や障害部位であっても,いろいろな問題や障害の側面があることを,新津氏の幅広い経験を通したMRIが教えてくれる。ただ単にMRIにとどまらず,膝の読み手のレベルと興味に応じて間違いなく脳裏に残る情報があるに違いない。またMRIにおける解剖もあらためて見直す価値がある。私たちは常に正常解剖にかえり,現在を振り返る必要がある。現在の診断は正しいのか,治療法は本当に正しいのか。

 学会の往復,当直時,時間の取れるときに繰り返し,読み返してみたい。繰り返し完読すると,そのたびに新たな事実を教えてくれる本である。MRIの読影法のみならず,膝に興味のある若いドクターにはトピックごとに示されている質のよい参考文献が役に立つ。値段も手ごろであり,膝のMRIに接する機会のある多くの医療関係者にお勧めする良書である。

B5・頁228 定価5,670円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00914-0

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