電解質異常へのアプローチ(後編)(谷口俊文)
連載
2010.03.08
レジデントのための 【15回】 電解質異常へのアプローチ(後編) 谷口俊文 |
(前回よりつづく)
前回はカリウム(K)の異常について学びました。今回は同様に重要なナトリウム(Na)の異常です。ワークアップ,補正の仕方は内科の基本ですが,そのピットフォールに迫ります。
■Case
50歳の男性で慢性アルコール依存症。体重60kgである。意識障害にて来院。入院したときの血清Na値は102mEq/Lであった。血清浸透圧は210mOsm/kgで尿Na値は21mEq/Lである。生理食塩水(0.9%)に40mEq/LのKを加えた輸液点滴静注。翌日血清Na値は119mEq/Lまで上昇。入院4日目には136mEq/Lまで上昇していた。このときには全身の脱力感を訴えていたが,退院となる。その5日後に再び意識障害と構語障害,運動失調などで入院となる。MRI(T2とFLAIR)では橋,基底核と視床の高信号域を認めた。
Clinical Discussion
Na値の補正を正しく行うためにはどのように補正すればよいのだろうか? その基本的な考え方をここでは学ぶ。この患者はアルコール依存に見られる慢性低Na血症を呈しており,急激な補正により浸透圧性脱髄症候群(ODS:Osmotic Demyelination Syndrome)を発症した症例である。どのようにすれば正しい補正ができたのだろうか?
マネジメントの基本
低Na血症で一番問題になるのは心不全の患者である。これらの患者層にて低Na血症が死亡率,心不全による入院の独立したリスクであることがESCAPE Trialのサブ解析(Arch Intern Med. 2007[PMID:17923601])にて示されている。また,なんら既往のない患者でも低Na血症は予後不良のデータ(Am J Med. 2009[PMID:19559171])を示すものもある。故に決して無視してはいけない。
高Na血症は入院患者においては若者にもみられ,正しく治療されていないことが指摘されている(Ann Intern Med. 1996[PMID:8533994])。
ワークアップ
Naの異常をみたら基本となる以下の4点をそろえる。アルゴリズムは図1,2を参照。その他の検査はそれぞれのアルゴリズムの結果次第で追加する。
図1 低張性低Na血症へのアプローチ |
図2 高Na血症へのアプローチ |
1)血清浸透圧(Posm)(実測値)の測定
2)体液量の推測(バイタルサイン,身体所見,JVP,皮膚ツルゴール,BUN,クレアチニン,尿酸値などより)
3)尿浸透圧(Uosm)の測定
4)尿Na値の測定
Na補正のポイント
●無症候性低Na血症:血清Na値の補正は0.5mEq/L/時以下とする。
●症候性低Na血症:症状がなくなるまで最初だけ迅速投与(最初の2-3時間の血清Na値補正は2mEq/L/時)。
●補正するNaの上昇は1日に10mEq/Lを超えないこと。特に慢性的な低Na血症だった患者のNaを補正する場合に気をつける。これは浸透圧性脱髄症候群を起こさないために重要である。
●高Na血症の補正もゆっくり行う。0.5mEq/L/時以下で1日に10mEq/Lを超えないようにする。高Na血症により脳が縮んだ状態から回復する過程で脳浮腫を起こさないようにするためである。
●どの濃度の食塩水を使用すると1Lあたり患者の血清Na値がどの程度変動するかは,以下の数式を使用して大まかな目安を計算する。詳細は文献(1)(2)参照。
●高Na血症における水分欠乏量の目安は以下の通り。
●海外の教科書や文献にみられる高張食塩水(3%)は,生理食塩水(0.9%)400mLに10%NaCl(20mL)を6アンプル追加することにより作ることができる。
低Na血症
最も多い
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