医学界新聞

連載

2009.12.07

小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第12回】 子どもの病気は外からやってくる

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

 今回は,重症度判定からは離れて,成人ではめったに診ることのないような症例を勉強してみたいと思います。なお,各論は今回が最後となり,次回最終回では,「研修医教育におけるKLRモデルの応用」についてご紹介したいと考えています。

Case 1

 1歳男児。自宅で食事中,突然喘鳴が出現したためER受診。気管支喘息の既往はない。発熱もなし。中等度呼吸促迫があり,聴診にてびまん性に喘鳴を認める。採血で異常は認めず。胸部X線で右下葉に透過性低下部位あり。

Case 2

 3歳女児。3日前に自宅で兄弟と遊んでいるときに突然数回嘔吐した。その後も1日に2,3回嘔吐するため近医受診,急性胃腸炎の診断で加療されていた。本日になっても時折嘔吐を認めるためER受診。全身状態は良好。脱水所見はなく,腹部所見にも異常なし。腹部X線施行するも異常は認めず。

Case 3

 9歳の兄と6歳の妹。叔父宅に遊びに行って帰ってきた後,ぼーっとしているとのことでER受診。会話はできるが反応が鈍く,ヘラヘラしている。

Case 4

 3歳女児。自宅で突然ふらつくようになり,眠りがちになってきたためER受診。傾眠傾向ではあるが,発熱・項部硬直なし。他に神経学的異常なし。

Case 5

 5歳男児。2時間前より腹痛を訴えているとしてER受診。母は「自宅で近所の小学生と遊んでいたから,お腹に乗られたのかもしれない」と言っているが,呂律が回っていない。脈拍160回/分と著明な頻脈あり。腹部所見では,びまん性に圧痛があり,筋性防御・反跳痛も認める。

「何かおかしい」ときは外からの原因を考える

 小児科において,突然の発症やよく説明がつかない症状については,外からやってくる原因について考える必要があります(図)。成人ならば,突然の発症の場合「血栓・出血・狭窄」などを考えますが,小児の場合は外からやってくる原因が圧倒的に多いのが特徴です。また,急激発症ではなくても,よく説明のつかない症状が続く場合,成人では癌や膠原病などを考慮しますが,小児では異物誤飲/誤嚥などを考える必要があります。

 「外からやってくる」原因

「何かおかしい」と気づくためには,正常所見をたくさん診ること

 図のように感染症も含めると,小児の疾患では外からやってくる原因が圧倒的に多いのがわかりますね。成人と違って,加齢による変性疾患がないことも影響しているでしょう。今回Caseとして挙げた5例は,すべて私が研修医時代に経験した症例です。小児を診ることが多いと,「何かおかしい」ということがよくわかる例なのですが,あまり診たことがないとピンときませんよね。エコーなどの画像検査もそうですが,正常所見をたくさん診ていると,たとえ病気の所見がわからなくても,「何かおかしい」ことに気づきます。小児科独自の概念として,「成長・発達の異常」というものがありますが,これに関しても正常例を多く診ていないと見逃してしまいます。

 初期研修で小児科の研修をすることは多いと思いますが,将来小児科医にならない先生が大部分だと思います。へき地など置かれた状況にもよると思いますが,一般的に小児科医以外の先生方に期待されるのは,小児の病気をきちんと診断・治療できることよりも,「何かおかしい」ことがわかって,適切なタイミングで小児科医に相談できることだと思います。ですので研修時には,病棟で病気の子を診るよりも,外来や健診などで元気な子をたくさん診たほうが,「何かおかしい」場合との違いもわかり,本来はよいのかもしれません。

マネジメント――Case 1

 気管支喘息中発作にて治療を開始するも改善せず。母に話を聞くと,ピーナッツを食べていて,むせこんだ後から喘鳴が出現したとのこと。異物誤嚥を疑い,麻酔科管理にて手術室で気管内挿管,気管支鏡にて右下葉枝よりピーナッツを摘出。ピーナッツは,アラキドン酸カスケードを惹起し,喘息と同様の発作を来す。

マネジメント――Case 2

 たまたま施行した胸部X線にて,縦隔に円形の異物あり。異物誤飲を疑い消化器科に相談,内視鏡にて食道内に500円玉を見つけ摘出。食道粘膜に潰瘍を認めたため2日間絶食管理の後,食事再開して問題なく退院。

マネジメント――Case 3

 叔父宅で何かあったかと聞くと「変な臭いがした」とのこと。母に聞くと,この叔父が,以前にシンナーを使っていたという。軽いシンナー中毒を疑いERにて経過観察,2時間程度して症状は改善。子どもだけでは叔父宅に行かせないよう指導し帰宅とした。

マネジメント――Case 4

 異物誤飲を疑い,母に確認したところ,祖母が服用している睡眠薬が3錠なくなっているとのこと。誤飲後,数時間が経過していたため胃洗浄は行わず経過観察,徐々に意識レベルが改善傾向となったため,再発防止について説明し帰宅とした。

マネジメント――Case 5

 急性腹症の状態で,緊急開腹術が必要と判断。母にその旨説明したが,「何とか家に帰れませんか?」と言って手術に同意しない。看護師が本人に尋ねたところ,「お母さんに蹴られた」とのこと。緊急開腹術にて十二指腸に穿孔あり修復。すぐに児童相談所に通報した。

Check! KLRモデル

Knowledge:異物誤飲/誤嚥の症状や所見を勉強しておこう
Logic:突然の発症や,よく説明がつかない症状には,「外からの原因」を考えよう
Reality:虐待を疑ったときの院内での動き方を確認しておこう

Closing comment

 新聞やドラマだけではなく,実際の臨床現場でも虐待事例を診ることがあります。虐待を疑ったときにどうするか,ということについてはスタッフ間で知識を共有しておかないと,担当したスタッフの価値観に大きく左右されてしまいます。院内で取り決めを作ったり,普段から対応を話し合っておいたほうがよいと思います。特に小児科医のほか,救急専門医をめざす人はきちんと対策を学んでおくべきでしょう。単純な考えで,すぐに「母子(父子)分離」となりがちですが,一度引き離してしまうと戻すのは大変です。ただもちろん,手遅れになってしまうケースもあるので,注意が必要です。いずれにしても,子どもの一生を左右してしまうような重大な判断になるので,焦りや思い込みで決めてしまうことなく,上級医や児童相談所のスタッフとよく相談して行動する必要があります。

つづく

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