医学界新聞

2009.11.30

第37回日本救急医学会開催

さまざまな情報を取り入れた豊かな医療の実現を


 第37回日本救急医学会が10月29-31日,遠藤重厚会長(岩手医大)のもと,盛岡地域交流センター・マリオス(岩手県盛岡市)他にて開催された。今学会のテーマは「アートとしての救急医療をイーハトーヴォから」。救急医療のみならず,さまざまな領域の専門家による講演が開かれるなど,幅広い視点からの充実した内容のプログラムが組まれ,活発な議論が交わされた。


急性期DIC診断基準の問題点

遠藤重厚会長
 播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)は,種々の原因によって広範な血管内凝固亢進を来し細小血管内に微小血栓が多発する重篤な病態である。従来DICの診断には「旧厚生省DIC診断基準」(1979年作成)が使用されてきたが,臨床症状が出ないとDICと診断されにくい,感染症に合併したDICの診断ができない,などの問題があり,早期診断に不向きと指摘されていた。そこで2005年に作成されたのが日本救急医学会DIC特別委員会による「急性期DIC診断基準」で,救急医療の現場などで広く用いられるようになった。しかし,感度を高めたことにより特異度が低下した,感染症には有用だが造血器悪性腫瘍や固形がんに合併したDICには適応できない,転帰予測指標としての優位性に疑問がある,などの問題が挙がっている。これらを検証するシンポジウム「急性期DIC 診断基準の検証」(座長=川口市立医療センター・小関一英氏,北大大学院・丸藤哲氏)では,「急性期DIC診断基準」の意義や今後の課題が議論された。

 はじめに後藤由和氏(金沢大)が,「急性期DIC診断基準」が生命予後を予測し得るかについて検証結果を提示。生命予後予測には診断時点でのアンチトロンビンIII(Antithrombin III: AT)値のほうが適していると述べた。

 高山泰広氏(川口市立医療センター)も後藤氏と同様の見解を示し,治療前のAT値とプロトロンビン時間(Prothrombin time international ratio:PT-INR)が予後予測因子になり得るとした。また,昨年5月にDIC治療薬として保険収載されたリコモジュリン®については,AT値やTAT,t-PA・PAI-1複合体が投与効果判定の指標となる可能性を示した。

 小倉裕司氏(阪大病院)は,急性期DICにおける性差について,60歳未満,DICスコア5-6点(中等度)では死亡率に性差がみられたことを明らかにするとともに,そのメカニズム解明の必要性を指摘した。

 座長の小関氏は,重症臓器不全を伴う予後不良のDICに対して提唱されているSIRS-Associated Coaglopathy(SAC)仮説についての検証結果を報告。ICU入室後48時間以内に「急性期DIC診断基準」を満たす症例は“SAC型”“臓器不全型”“重症DIC型”に分類できるとし,DIC重症化に至るには出血,組織低灌流,低酸素血症,脳損傷などの臨床的因子やPT-INR,FDP,アンチトロンビン,血小板数などの凝固学的因子が関与しているとした。

 呉教東氏(河内総合病院)は,外傷後の凝固線溶病態に対する「急性期DIC診断基準」の意義について考察。DICスコアは患者の重症度とは相関するが,SIRS陽性項目数,APACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)スコア,ISS(Injury Severity Score)とは相関しないことから,外傷後の凝固線溶とDICには異なる病態があると述べた。その上で,外傷後の凝固線溶異常には抗線溶療法が治療の選択肢として有用だとした。

 久志本成樹氏(日本医大)は,「急性期DIC診断基準」はすべての急性病態に適応可能となっており,基礎疾患ごとの病態が明らかにされていないと指摘。氏が行った感染症と外傷症例を対象にした検討では,凝血学的指標や重症度の時間的推移が異なることが明らかになるとともに,「急性期DIC診断基準」が感染症における治療開始基準として有用であることが示された。

 日本血栓止血学会は本年1月に科学的根拠に基づいたエキスパートコンセンサスを発表した。これについて和田英夫氏(三重大大学院)が,治療の推奨度を報告。今後の課題として,トロンボモデュリンの推奨度の決定と治療効果の判定基準の追加を挙げた。

 齋藤大蔵氏(日本救急医学会DIC特別委員会)は,同委員会が実施している第3次多施設共同前向き試験の経緯を説明。2005年の第2次試験では,「急性期DIC診断基準」を用いた症例の治療効果を検証し,未分化ヘパリンとAT3製剤の有効性が示唆された。そこで,国内のエビデンスが少ないAT3製剤を用いた第3次多施設共同前向き試験を実施したとし,理解を求めた。

小児救急のよりよい在り方とは

 パネルディスカッション「小児救急のあり方」(座長=聖マリアンナ医大病院・箕輪良行氏,順大浦安病院・山田至康氏)では,各演者から小児救急医療をめぐるさまざまな問題を解決するための具体的な実践が語られた。

 夜間の小児診療が困難となった熊本県荒尾市では医師会が中心となり,2006年より隣接する大牟田市の協力を得て小児初期救急の夜間輪番体制を構築した。西芳徳氏(西整形外科医院)は,小児救急体制は地域に合った解決策を模索しながらも,全国レベルでの各医療圏の実態をデータ化し今後の解決策を見出すべきと提言した。

 北九州市立八幡病院では,特別な診療機器を使わずに行えるPediatric Assessment Triangle(PAT)を導入し,看護師がトリアージを行っているという。同院の西山和孝氏は,医師と看護師が共通言語を持つことで緊急度・重症度に対する認識を共有できるという利点を示した。

 大阪府の泉州2次医療圏では,2006年に救命救急センターへの重症患児搬送基準を策定。府立泉州救命救急センターの問田千晶氏は,内因性疾患患者の搬送の増加など,患者の的確な搬送が可能になったとの見解を示した。今後の課題としては,重症患児の明確な定義,医療圏全体での検討,搬送適応評価項目の見直しなどを挙げた。

 重篤な小児患者に対する救急医療体制について厚労省が検討会を開催するなど再検討が行われるなか,座長の山田氏は統一された教育カリキュラムによる小児救急専門医制度,救命救急センターにおける1-2床の小児用ICU病床の設置,小児専門施設などのPICUとの連携が重要だと述べた。

 本多ゆみえ氏(東海大病院)は,同院の高度救命救急センターに搬送された多発外傷患者について,学童未満の患者は小児外科,学童以上は小児外科以外が主科となり,専門的治療が必要な際には各専門科が手技を施行していると紹介。小児外科医を疲弊させないためには救急医が中心となった各科間の協力体制の構築が必要だと訴えた。

 岩田充永氏(日本救急医学会小児救急特別委員会)は,同委員会が行った,救急科専門医の小児救急医療への参画状況についての調査結果を報告。「内因性疾患について自信がない」「生涯学習の必要性を感じている」人が多いことが明らかになった。この結果を受け,氏は内因性疾患を含む生涯学習支援システムの構築が重要だと提言した。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook