論理的思考(1)思考技術の基本(井村洋)
連載
2009.10.19
医長のためのビジネス塾
〔第9回〕論理的思考(1)思考技術の基本
井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)
(前回からつづく)
今回からは,論理的思考(ロジカルシンキング)について紹介します。論理的思考は,これまでのマーケティングや戦略と比べれば,私たち医師にとって非常に親和性の高いものです。なぜならば,日常の業務で使用している思考技術そのものだからです。例えば,鑑別診断,診療方針の選択・実行,臨床研究などの主たる場面で,頻繁に活用しています。ですから,この機会に論理的思考に対する興味を深めて,会議,教育,交渉,業務企画などの診療以外のあらゆる場面においても,この技術が有用であることを理解していただければ幸いです。
4つの基本をマスターする
論理的思考の技術には,4つの基本があります。ひとつは「論点から外れない」ようにするということです。そのほか,「論点を分解する」こと。さらには「論理展開の基本を理解しておく」こと。そして「因果関係の確認をする」ことです。
◆論点から外れない
論点とは「何を考えるべきか」ということです。論点が外れるパターンは2つあります。ひとつは,論点がずれていく場合です。病院会議においても例外でありません。例えば「新型インフルエンザ受診者増加への対策」という議題の会議では,本来は「地域住民への情報提供や啓蒙」「対応できるマンパワーの調整」「重症患者の受け入れプロセスの設定」など,早急に具体策を画策しておくための会議だったにもかかわらず,参加メンバー全員がその議題に参画することを怠っていると,いつしか「予防効果の是非の医学的知識の確認」などの異なる視点にずれてしまっていることがあります。このようなずれは,意識していないと意外と多発しているのではないでしょうか。
もうひとつは,論点が不明瞭な場合です。研修医の鑑別診断やサマリーの考察で,このパターンによく出合います。症例の情報やデータはきれいに整っていても,それをどう解釈して何を提言したいのかまで踏み込めていないため,聞き手は「結局あなたの考えはどうなの?」という疑問を抱いてしまいます。調査結果をきれいにまとめただけで,結論が欠落しているからです。
◆論点を分解する
論点を分解することで,結論を導くための根拠を過不足なく提示できるようになります。論点を上手に分解するための手段として,枠組み(前回・前々回に紹介したフレームワークのことです)がよく利用されます。
例えば,後期研修プログラムを準備して募集開始したにもかかわらず,十分な応募が得られない場合には,「後期研修医の応募者数が伸びない原因は?」という論点について検討が必要です。しかし,個々の検討課題が多数あるため,どこから手をつければいいのかわからず途方にくれることや,手当たり次第に策を講じてみるけれども効果につながらない,という顛末にいたることも少なくありません。
まずは,論点を分解して整理してみましょう。以前に,マーケティングの中で紹介した4Pを使ってみます(図1)。教育のプロダクトの問題について検討するならば,「教育内容やカリキュラムは妥当で十分なものなのか」ということが外せません。同様に,教育のプライスでは「給...
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