喘息の治療薬について(森本佳和)
連載
2009.11.09
知って上達! アレルギー
【第8回】喘息の治療薬について
森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)
(前回からつづく)
今回は,喘息の長期管理における薬剤治療について書かせていただきます。前回,(アレルギー性)鼻炎と喘息は同様の病態によるというOne Airway, One Diseaseについてお話ししましたが,喘息でも鼻炎と同じように薬剤治療の三角形を書いて考えましょう。
喘息治療のキーワードは「び-す-ろ」
図 喘息の治療薬を考えるトライアングル |
ご存じのとおり,β2作動薬は気道平滑筋を弛緩させ,気道狭窄を改善する働きを持ちます。これには短時間作用型と長時間作用型があります。短時間作用型は即効性を持ちますが,効果は短時間で失われてしまいます。長時間作用型は即効性には劣るものの,効果が長時間持続します。つまり,喘息症状をすぐに改善したいときには短時間作用型を用います。商品名の例としてはメプチン®,サルタノール®などがあります。
鼻炎で三角形の一番上にあった「ひ」の抗ヒスタミン薬は,即効性がありながらも抗炎症作用がほとんどないのが欠点ですが,喘息での「び」の短時間作用型β2作動薬も即効性を持つものの基本的に抗炎症作用はありません。このような症状を短時間抑制するための喘息治療薬を発作治療薬(リリーバー)といいます。
喘息症状の頻度が間欠型,前回でいう「たまに」(軽症間欠型)程度であれば,短時間作用型β2作動薬を必要時に使用すればよいでしょう(註1)。それより重い持続型の喘息であれば,後述の長期管理薬(コントローラー)の併用が必要です。長時間作用型β2作動薬(例:サルメテロール)は喘息症状をすぐに改善するのには役に立ちませんが,長期にわたって喘息をコントロールする長期管理薬として有用です。ただし,この長時間作用型β2作動薬を単独で用いることは勧められず,次にお話しする吸入ステロイド薬と併用します。
ステロイド薬とロイコトリエン阻害薬
次に,三角形の底辺にある2つは鼻炎のときと同じく,「す」はステロイド薬,「ろ」はロイコトリエン阻害薬です。喘息管理におけるカギは,喘息の実態である気道粘膜の炎症を抑えることです。粘膜上の白血球を主体とした炎症細胞やケミカル・メディエーター,サイトカイン,ケモカインなどの炎症物質を抑えたいわけです。先ほどの短時間作用型β2作動薬で喘息症状はラクになりますが,気道平滑筋を一時的に緩めて症状を軽くしたところで,炎症はよくなりません。この抗炎症作用を持つのが,鼻炎のときと同様,三角形を支える底辺の2つで,これらには長期管理薬としての役割が期待できます。三角形の土台となるくらいに,喘息の管理において重要な薬剤です。
ステロイド薬は,ここでは吸入剤をメインに考えます。吸入ステロイド薬は喘息の長期管理の柱となります。その安全性と治療効果からみると,吸入ステロイド薬を超える喘息の長期管理薬はないといってよいくらいです。鼻炎治療での点鼻ステロイド薬も優れているのですが,喘息は生死にかかわるので,吸入ステロイド薬の使用はさらに積極的に考えていただきたいと思います。前回でいうと,喘息症状が「毎週ある」(軽症持続型)以上の喘息には吸入ステロイド薬を使うようにしましょう。
吸入ステロイド薬と先述の長時間作用型β2作動薬の合剤は大変使いやすいと思います(例:アドエア・ディスカス®:フルチカゾン+サルメテロール)。プライマリ・ケア医に吸入薬が敬遠される理由のひとつには,用量がわかりにくい,ということがあるかと思います。例えば,このアドエア・ディスカス®には含有されるステロイド薬の量が少ないものから100,250,500のものがあります。喘息発作の頻度と気道閉塞(前回の十字線の下段からの情報)から考えると,「毎週」なら100,「毎日」なら250,「毎日+喘鳴あり」なら500といったイメージがわかりやすいと思います。もちろん,さらにコントロールの状態によって調整すべきですが。
3つめのロイコトリエン阻害薬は効果としてはマイルドなのですが,抗炎症作用を持つため長期管理に適しています。持続型喘息には吸入ステロイド薬を優先して用いていただきたいので三角形の配置では最後に置きましたが,ロイコトリエン阻害薬は喘息に合併しやすいアレルギー性鼻炎にも効果があり,ステロイド吸入薬として併用しても使いやすい薬です。市販薬の例としてはオノン®,キプレス®,シングレア®があります。
テオフィリン薬の使用は縮小傾向に
テオフィリン薬(キサンチン誘導体)については,特に1990年代の臨床研究において,吸入ステロイド薬やβ2作動薬などと比較して副作用事象の発生が多いのに治療効果の優位性が明らかでなく,また,ほかの薬剤に追加して投与しても効果の増強が少なく,有害事象の増加からみて使用が正当化されにくいといった結果が多数を占めました(註2)。このため,米国においては,喘息にテオフィリン薬を用いることはかなり少なくなっています。先に挙げたような薬剤を先に使用し,それでもコントロールが難しいときに使用を考える薬といった位置付けです。日本においてもテオフィリン薬の使用は縮小傾向にあります。本稿では,このような背景をもとに使用には消極的です。
将来的には,即効性の長時間作用型の吸入β2作動薬とステロイド薬との合剤吸入薬が使用できるようになれば,長期管理薬として定期使用できるだけでなく,症状のあるときに発作治療薬として使うことで,即効性に症状を緩和しながら抗炎症薬をさらに追加投与できることが期待されます。このような薬剤が現れたとしても,持続型の喘息の治療には,「長期管理薬+発作治療薬」の組み合わせが基本となることをご理解いただければと思います。
(つづく)
註1)新しいガイドラインでは,重症度ではなくコントロールレベルの評価を用いますが,喘息の重症度から発作治療薬・長期管理薬を理解していただきたく,従来のガイドラインを参考にしていますことをご了承ください。
註2)Adkinson, Middleton's Allergy;Principles and Practice, 7th ed. St. Louis:Mosby; 2008.
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