各科コンサルテーションへの対応(1)消化器外科術後の発熱の考えかた(大野博司)
連載
2009.11.09
ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー
[ アドバンスト ]
〔 第8回 〕
各科コンサルテーションへの対応(1)消化器外科術後の発熱の考えかた
大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)
(前回からつづく)
今回から数回にわたって,「各科からのコンサルテーションにどのように対応するか」を考えます。感染症医が普段どのようにアプローチしているか,手の内を見せます。まず最初は,外科系全般にかかわる“術後の発熱”についてです。
■CASE現病歴:肺気腫・直腸癌のある78歳男性。アルコール大酒家であり重喫煙者である。直腸癌手術目的で入院し,4日目に低位前方切除術施行。術後は経過良好であったが入院7日目に39℃の発熱あり。早期離床をめざしていたが創部痛のため思うようにはかどらなかった。抗菌薬は周術期にセフメタゾール1g×2が入院4-7日目まで使用されていた。発熱評価でコンサルト。診察所見:発熱時のバイタルサイン〔血圧140/70mmHg,心拍数110/分,呼吸数25/分,SpO290%(RA)〕。診察上は腹痛あり,呼吸状態は浅く速い。現在のルートは末梢,中心静脈ライン,創部ドレーンと尿カテーテル。 →発熱の原因として何を考え,どのようにアプローチしていくか? |
◆術後の発熱へのストラテジー
術後の発熱にアプローチする際には,(1)患者の状態,特にバイタルサイン(呼吸数も含め)を重点的にチェックすること,(2)患者の背景(基礎疾患・社会歴含む)を余念なく情報収集すること,(3)患者に入っているルート類すべてに注目し,特に創部ドレーン排液の性状・量に注意を払うこと,の3つを守れば発熱の原因を見つけ出すことができます。その上で,術後の発熱の原因は,(1)非感染症によって起こる発熱,(2)感染症によって起こる発熱に分けて考えることが大切です。
なお,術後の発熱の原因として,感染症について考える場合,術前の状態から以下の3つに分けて考えるとよいと思います。
待機的手術で基礎疾患なし→創部感染を含めた病院内感染症
・待機的手術で基礎疾患あり→創部感染を含めた病院内感染症+基礎疾患に関連した感染症
・緊急手術で基礎疾患あり→創部感染を含めた病院内感染症リスク↑↑+呼吸・循環不全からの要素(気道トラブル,腸管虚血からのバクテリアル・トランスロケーションなど)
◆術後のバイタルサインの異常
まずはバイタルサインの異常として,連載第6回「敗血症へのアプローチ(1)」で取り上げたSIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome)の状態であるかどうかをまずは確認することから始めます。SIRSを満たす場合,迅速に対応していく必要があります。術後にバイタルサインが異常を来したときに考える疾患は,感染症も含め7つあります(表1)。これらを迅速に鑑別し対応していきます。
表1 術後の患者でバイタルサインが異常を来すときに考える7疾患 | |
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◆術後の発熱の第1歩:Fever work up3点セットから
術後の発熱に対しては,まずはFerver work up3点セット((1)血液培養2セット,(2)胸部X線,(3)尿一般・培養)から始めます。Fever work upの適応については表2を参照してください。
表2 術後のFever work upの適応となる状態(重症感染症の可能性がある場合) | |
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◆術後の発熱へのアプローチ
1.基本情報のチェック
基本情報チェックのキーワードは,“人となりを知る!”です。表3の9つの項目をチェックします。
表3 術後の発熱患者での基本情報チェックシート | |
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2.すべてのルートチェック(挿入日の確認も)
術後の発熱が感染症による場合,ルートに関連していることがほとんどなので,入院後,術後,そしてコンサルトを受けた時点で,すべてのルートを挿入日も含めて確認する必要があります。その上で,挿入部での発赤,腫脹,熱感といった局所所見がないかどうかを診察で確認していきます。不要なルートはコンサルトされた時点ですべて抜去してもらうよう主治医に相談します。表4に主なルートと関連した感染症を示します。
表4 主なルートと関連の感染症 | |
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3.病院内感染症と基礎疾患に関連した感染症
病院内感染症としては表5の6つを意識します。また情報収集から患者基礎疾患に伴う感染症としては表6のようなものがあります。
表5 代表的な病院内感染症 | |
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表6 術後の発熱:基礎疾患に関連した感染症 | |
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4.非感染症
非感染症の術後の発熱の原因でよくみるものとして表7があります。そのなかでも,術後早期48時間以内の発熱は手術侵襲が大部分であり,必ずしもFever work upの適応にならないことがあります。また,SSI(Surgical Site Infection:術後創部感染症)との鑑別が難しい創部出血・血腫,臥床に伴う深部静脈血栓症・肺塞栓,アルコール多飲者での入院後禁酒によるアルコール離脱,睡眠薬常用者での術後絶食によるベンゾジアゼピン離脱症候群などはよく遭遇する一方,知らないと不要な検査を多々行うことにもつながるため,ぜひ頭に入れておく必要があります。
表7 術後の発熱:非感染症でよくみられるもの | |
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◆ケースをふりかえって
今回のケースの基本情報をチェックすると以下のようになりました。
┣(1)既往のチェック
┣アルコール大酒家,重喫煙による肺気腫,直腸癌
┣(2)手術のチェック
┣直腸癌への低位前方切除術
┣(3)発熱時のルート
┣末梢,中心静脈ライン,創部ドレーン,尿カテーテル
┣(4)使われた抗菌薬
┣セフメタゾール
診察上は呼吸状態が不良で,腹痛があり,離床が進まない状態でした。この時点で,呼吸器系およびルート挿入部分の創部(腹腔内),尿路,カテーテル関連血流感染症が感染症フォーカスとして挙がると思います。その一方で,アルコール大酒家であるためアルコール離脱症候群,そして離床が進まなかったことによる深部静脈血栓症・肺塞栓などが非感染症として鑑別に挙がります。そのため,以下のようなフォローアップを行いました。
感染症の可能性のある臓器
呼吸器,腹腔内,尿路,創部,ルート刺入部,肺塞栓。
行うべき検査・フォローアップ
Fever work up3点セット,喀痰グラム染色・培養,心・腹部エコー,胸部・腹部造影CT,下肢静脈エコー。
Take Home Message
●術後の発熱のアプローチを確認する。
|
(つづく)
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