医学界新聞

連載

2009.10.26

腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第13回 〕
高齢者専用賃貸住宅での緩和ケア

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

介護者のいない高齢者の看取りをどうするか

 当院のがん総合診療部門の外来には,がんと診断されている方が一日平均約15人程度受診します。手術後の経過観察だけの方,抗がん剤治療を行っている方,がんがかなり進行し症状緩和治療を行っている方など,その病状は多様です。病状が進行し,通院がつらくなった方には“療養の場”を選択してもらうことになりますが,そのときに同居している介護者の有無と介護力の詳細な情報が得られます。

 十和田市に赴任して驚いたのは,一人暮らしの高齢者が多いことと,家族全員が働いているために日中は介護力がなくなる家庭が多いことです。このような場合,動けなくなったら病院に入院させれば事は済むと多くの家族が思っているようですが,急性期病院では介護のための入院は在院日数が長くなるために歓迎されず,入院できたとしても一定の期間が経つと退院(あるいは転院)の話を持ち掛けられます。この場合の“療養の場”の選択肢は療養病床,自宅,居宅となります。現在十和田市の療養病床は削減され,非常に少なくなっているので,自宅で介護できなければ居宅が第一選択となります。

 しかし,居宅としての特養,老健施設や有料老人ホームは希望者が多く簡単には入所できません。また,医療的な処置や治療がある場合には入所を断られることも少なくありません。そこで,現在注目されているのが介護付き高齢者専用賃貸住宅(“高専賃”)です。医療事業所や介護事業所が併設されている住居も増えてきました。十和田市やその周辺の自治体にも多くの高専賃があり,当院の紹介患者の多い急性期病院では入院が長くなると“関連施設”としての高専賃の利用を勧められるようです。

“終の住処”としての高齢者専用賃貸住宅

 この高専賃での看取りが可能になれば,今後の日本における有力な“終の住処”となりうるものと考えます。将来人口推計では年間死亡者数が毎年増えてゆき,2038年にはそのピークを迎え約170万人となると推定され,その約半数ががん死亡となる可能性も示唆されています。

 また,40歳以上の未婚の男女が増えることも予測されており,これは家族に介護を委託することが困難となることを示し,特に都市部でその傾向が顕著となるものと予測されています。介護者が身内にいない人の介護体制をどうするか,その延長上である看取りをどうするのかはあと10年後には日本社会の深刻な問題となる可能性が高いものと思われます。

 私が,高専賃での看取りを初めて経験したのは2007年5月でした。この住宅の経営者は元看護師で,住宅での看取りに理解を示してくれました。入居している部屋の構造は,病院の個室よりやや広く,病院の個室との違いは生活空間であるという点です。専属のヘルパーが常駐し,介護保険サービスも使えます。訪問看護は併設の訪問看護ステーションや系列の訪問看護ステーションで,すでに多くの看取りを経験している看護師が担当し,また担当するケアマネジャーも同様に自宅での看取りを経験している人ですので,不安はあまりありません。症状緩和治療である,オピオイドによる疼痛治療,腸閉塞に対するサンドスタチン®持続注入,中心静脈輸液なども病院と同じように管理してくれます。

 これまで10人を4か所の高専賃で看取りました。その他,認知症のため自宅での看取りに不安があり入居させたものの,付き添っているうちに自宅で看取ることを決意し,自宅に連れて帰り,そのまま自宅で看取った家族もありました。また,その逆に症状(嘔気)が出たことで家族が極度に不安となり,入院を希望して,そのまま病院で亡くなった方もいました。家賃は当地では月額5万-10万円のようです。このような看取りの場として,地域内に多様な居住空間を用意することも,地域づくりの重要な課題だと思います。

つづく

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