医学生へのアドバイス(29)(田中和豊)
連載
2009.10.12
連載 臨床医学航海術 第45回 医学生へのアドバイス(29) 田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長) |
(前回よりつづく)
臨床医学は大きな海に例えることができる。その海を航海することは至難の業である。吹きすさぶ嵐,荒れ狂う波,轟く雷……その航路は決して穏やかではない。そしてさらに現在この大海原には大きな変革が起こっている。この連載では,現在この大海原に起こっている変革を解説し,それに対して医学生や研修医はどのような準備をすれば,より安全に臨床医学の大海を航海できるのかを示したい。
前回に続き,今回もハリソン内科学書について考える。
Principle
ハリソン内科学書の原書名は,“Harrison’s Principles of Internal Medicine”である。これを直訳すると,『ハリソンの内科学原理書』ということになる。つまり,ハリソン内科学書は,単に内科学書ではなく内科学原理書という表題なのである。それでは,いったいなぜ初版の編著者であるTinsley Randolph Harrisonはこんな題名をつけたのであろうか?
その事情については,ハリソン内科学書の編集過程が記録された『ハリソン物語 かくして「ハリソン」はグローバル・スタンダードになった』1)に記載されている。まずこの中で,ハリソン内科学書初版出版当時の内科学書についてはこう記載されている。
話し合いの最初の部分は,構成についてだった。その場にいた全員が,既存のテキストの構成が時代遅れであるという認識で一致していた。なにしろこれらの教科書は,疾患の生理学や生化学について何も知られていなかった時代に出版されたOslerの医学書の初版から,ほとんど何も変わっていなかったのだ。当時の臨床医学は主として経験的なものであり,第1に病理解剖学,第2に微生物学の観点から論じられていた。疾患や診断がどんなものかという点については多くのことが知られていたが,どうしてそうなるのかという点や治療についてはほとんど何も知られていなかった。
これを読むと,当時の内科学書のバイブルであったOsler内科学書とはいったいどんなものであったのかと思う。もしかして,基礎医学の教科書とほとんど変わりがなかったのではなかったのか,と。それは無理もない。基礎医学が十分に発達しておらず,疾患の病因が明らかにされていない時代に,臨床医学の教科書は一体全体何を記載していたのであろうか? 確立された診断学などあるはずがなく,疾患学も病因が明らかな疾患はごく少数であったので,まだまだ体系化されていなかったに違いない。
そんな時代にハリソンは新しい内科学書を,最初に疾患の症候学をもってきて,次に診断した疾患についての体系的な疾患学を記載する2段構成にした。そして,その新しい内科学書をPrinciples of Internal Medicineと名付けたのである。ここで,なぜハリソンは新しい内科学書の表題を単にInternal MedicineとかTextbookとかにせずに,“Principle”という言葉を用いたのか,そして,この“Principle”という言葉は一体どういう意味なのかを考えてみたい。
試し...
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