医学界新聞

対談・座談会

2009.09.21

【座談会】

褥瘡管理のいま
専門性を生かし,さらなる連携をめざす

岡田晋吾氏(北美原クリニック理事長)=司会
真田弘美氏(東京大学大学院教授 老年看護学/創傷看護学分野)
板倉洋子氏(国立病院機構 村山医療センター)
仙石真由美氏(函館五稜郭病院)


 高齢社会となり,疾病を持ちながらの生活を余儀なくされる人の増加や,QOLや予防医学の概念の普及に伴い医療のあり方も多様化するなか,褥瘡対策はいち早くその意義が認められ,診療報酬にも反映された。このような実践が実を結び,褥瘡の予防については効果が出ているが,療養の場が広がるなかで,褥瘡を持つ患者をいかに切れ目のない連携でケアしていくかなど,新たな課題も出てきている。

 本紙では,褥瘡対策における地域連携体制構築に取り組む岡田晋吾氏(北美原クリニック),褥瘡治療や管理について多くの研究結果を提示してきた真田弘美氏(東大大学院),皮膚・排泄ケア認定看護師の板倉洋子氏(国立病院機構村山医療センター),仙石真由美氏(函館五稜郭病院)にご登場いただき,看護職の役割や,褥瘡の予防・治療戦略の今後の組み立て方などについて,お話しいただいた。


岡田 2002年度の診療報酬改訂で「褥瘡対策未実施減算」が定められ,褥瘡対策チームでの活動が取り組まれるようになりました。さらに,2004年度に「褥瘡管理加算」,2006年度には「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」が新設されましたが,これらの新設は,チーム医療が診療報酬上で初めて認められた機会であったと思います(MEMO1)。褥瘡ハイリスク患者ケア加算は現在どのような状況にあるでしょうか。

MEMO1

 2002年度「褥瘡対策未実施減算」では,1)専任の医師,看護師を含む褥瘡対策チームの結成,2)褥瘡対策の実施,3)褥瘡対策に必要な体圧分散式マットレス等の使用体制,が整備されていない場合には,入院基本料から所定点数を減算するとされた。2004年度診療報酬改定ではこの見直しが行われ,「褥瘡患者管理加算」(1回の入院につき20点)が新設。2006年度には,急性期入院医療において,重点的な褥瘡ケアが必要な患者に対して総合的な褥瘡対策を実施する場合の「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」(1回の入院につき500点)が新設。施設基準(専従の褥瘡管理者の配置,アセスメントからケアの実施状況までの記録,カンファレンスや研修の実施など)や褥瘡管理者の業務の指針(褥瘡対策チームと連携した褥瘡アセスメントの実施・総合的な褥瘡管理対策,褥瘡予防治療計画の立案,褥瘡ケアの実施・評価など)が示された。また,処置料として重度褥瘡処置と老人処置も新たに加わった。褥瘡対策が入院基本料の施設基準となったことから,「褥瘡対策未実施減算」は廃止された。

真田 今年4月時点で褥瘡ハイリスク患者ケア加算を取得している施設は約370です。現在300床以上の病院が約1500あり,皮膚・排泄ケア認定看護師数は1132人(2009年6月時点)であることから,当初は500施設を見込んでいたのですが,施設基準に適合する施設が想定よりも少ないことが指摘されています。ただ,認定看護師となっても,褥瘡対策チームなどの活動を軌道に乗せていくには3年はかかるというデータもあります。ですから,褥瘡ハイリスク患者ケア加算の新設後に,皮膚・排泄ケア認定看護師が約500人増加したことを考えると,評価はこれからだと思います。

岡田 そうですね。同じようなケアを行っていても,管理者が専任でないなど,条件がそろわずに褥瘡ハイリスク患者ケア加算を取得していない施設もあると考えられます。

真田 厚労省が行った2006年度診療報酬改定項目の評価では,加算の新設後1年で,褥瘡の発生率がわずかながら減っているというデータが出されました。また,同時期に日本ET/WOC(創傷・オストミー・失禁ケア)協会が費用対効果を計算したところ,DESIGN(後述)の点数を1点下げるのに,専任の看護師がいる場合にはそうでない場合の2分の1のコストに抑えられることがわかりました。ですから,今後専任については担保されていくのではないかと考えています。

岡田 村山医療センターでは,褥瘡管理にどのように取り組んでいますか。

板倉 当院は303床の慢性期病院で,褥瘡ハイリスク患者ケア加算の対象となるのは毎月30-40件です。また,脊髄損傷病棟が80床あり,回復期の脊髄損傷の患者さんのうち褥瘡がある患者さんは常時20-25人います。

 私は2007年10月の褥瘡ハイリスク患者ケア加算取得と同時に当院に入職したのですが,最初の1年目は褥瘡回診,褥瘡外来,褥瘡対策委員会の運営,褥瘡ハイリスク患者ケア加算のシステムづくり,院内の褥瘡ケア認定看護師研修の立ち上げなどに暗中模索していました。2年目に入って,コンサルテーションなどを通して他の職種との信頼関係ができ,連携がスムーズになったことが喜びのひとつです。また,300床という規模も,皮膚・排泄ケア認定看護師として細かいところにも目が届き,かつ全体を見渡すことができる規模だと感じています。

岡田 褥瘡対策チームでは,どのような活動をされていますか。

板倉 当院の褥瘡対策委員会は,専任の整形外科医,リハビリ科医,薬剤師,栄養士,看護師長・副師長を含む各病棟のリンクナースの18名で構成されています。そのなかで,私は褥瘡管理者として委員会を引っ張る立場にあります。委員会では,勉強企画担当,褥瘡ケアの院内認定看護師研修担当,褥瘡対策マニュアル見直しのためのワーキンググループという3つに分かれ,グループごとに活動しています。

 また,褥瘡回診を,医師が必ず同行するIII度以上の方と,私が中心になってみるII度以下の方に分けて週2回行っています。さらに,ほかの病院から形成外科医に月1-2回,アセスメントや処置に来ていただき,それに合わせて1時間程度の褥瘡カンファレンスを開きます。その後薬剤師と栄養士を含めた回診を行っています。

岡田 函館五稜郭病院はどうですか。

仙石 当院は一般病床580床の急性期病院で,2001年に褥瘡対策チームを結成しました。私は当初からのメンバーとして,褥瘡管理のマニュアル作成や医療材料の整理などの基盤づくりにかかわってきました。ですから,褥瘡ハイリスク患者ケア加算を取得するにあたっても,スムーズに開始できたと思います。

 褥瘡ハイリスク患者ケア加算の算定数は,2007年が945件,2008年が1024件,2009年は7月末の時点で既に1021件です。急性期病院のため,在院日数の短縮に伴い手術件数が増加しており,年間約3000件の全身麻酔手術が算定数の増加につながっていると考えられます。新入院患者数は月に約1000人で,そのうち褥瘡管理が必要な方が約200人です。すでに褥瘡を持って入院してきた「持ち込み」の患者さんも年間80-100人程度います。

 患者さんの全体の傾向としては,すでに褥瘡の危険因子を持つ高齢者が,大腿頸部骨折,肺炎などの感染症,心疾患などの急性期の病態で入院してくるという場合が多いです。

岡田 褥瘡対策チームを2001年から継続してこられた秘訣は何ですか。

仙石 立ち上げの段階から,看護部長や病棟師長など管理者が一緒に参加してくれたことが非常に大きいです。例えば,体圧分散寝具やクッションなどの物品に関することでも,必要性を理解して素早く対応してもらえます。

岡田 医療マネジメントにおけるチーム医療は非常に重要ですし,病院機能評価Ver6.0でもチーム医療が多く取り上げられています。ですから,チームの活動に理解を示す病院管理者も増えているのでしょう。

真田 褥瘡の発生率は,どれくらいですか。

仙石 現在約0.6%です。

板倉 当院は,0.8%前後です。

真田 すごいですね。皆さんの日々のモニタリングが,このような成果を生んでいるのだと思います。

“痛み”も褥瘡予防の重要な鍵

真田 昨年,日本褥瘡学会が在宅診療に携わっている医療者向けに『在宅褥瘡予防・治療ガイドブック』を出しました。これは,厚労省2007年度老人保健健康増進等事業の一環として日本褥瘡学会が実施した「在宅褥瘡ハイリスク患者ケア体制確立のための在宅版褥瘡予防・治療ガイドラインの策定・普及に関するモデル事業」の成果として出されたものですが,その作成段階で2002年と2006年の褥瘡発生率を比較したところ,病院が3.6%から2.2%に下がっているのに対して,在宅は5.8%から8.2%に上昇していることがわかりました。いままでは「持ち込み」といって,在宅で褥瘡をつくって病院に入院してきた患者さんを問題にしてきましたが,病院で褥瘡をつくって在宅に帰る,いわば「持ち帰り」が増加していると考えられます。

 というのは,入院中に発生あるいは救急を受診された人たちに褥瘡があるとわかるまでには4-5日,DTI(Deep Tissue Injury)の場合は深くなるのに2週間かかります。そうすると,退院後に悪化することもあるわけです。ですから,病院でどの状態までみたら,自宅なり施設へ帰っていただくかについてのコンセンサスを日本褥瘡学会のなかで形成すべき時期が来ているのではないでしょうか。

岡田 DTIは最近出てきた概念ですね。少しご説明いただけますか。

真田 DTIは米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel;NPUAP)による定義で,直訳すると「深い組織の損傷」という意味です。従来褥瘡評価には4段階の分類が使用されており,皮膚表層から深部組織に向かって悪化していくという病態が示されていました。しかし近年,皮膚に発赤やびらんなどがなく一見障害がないように見えても,深部組織のほうが損傷していて何らかの治癒過程が働かない場合には,深部から表層へ進行することがわかってきました。そこで,NPUAPは2007年に,このような褥瘡をDTIと名付け,Suspected Deep Tissue Injuryという,どのステージにも属さない新たな分類を作成したのです。現在NPUAPの分類は,これに判定不能(Unstageable)という項目を加えた6段階から成っています。NPUAPがDTIの定義を明確にし,発赤でないものを褥瘡とした背景の一つには,2008年10月から褥瘡を院内で発生させた場合はMedicareからは保険を一切給付しないという,非常に厳しいペナルティが課せられたことが考えられます。

 このDTIの概念を日本に取り入れることになったのは,褥瘡対策のターゲットが急性期や終末期の患者さんに広がってきたためです。DTIは深部組織の損傷ですから,殿筋がしっかり発達した急性期の患者さんが多く発症します。DTIが褥瘡の急性症状だということをとらえておく必要があります。

岡田 DTIのリスクアセスメント上の注意点はありますか。

真田 DTIのいちばんの特徴は痛みがあることです。褥瘡はこれまで痛くないといわれてきましたが,DTIは痛み止めを使っても効かないほど痛みます。ですから,急性期の患者さんが術後に「お尻が痛い」などの症状を訴えたときには,皮膚硬結や浮遊感がないかを必ず確認することが重要です。

岡田 一般病棟の看護師にもそういうみかたが必要ですね。予防のためにはリスクアセスメントをこれまで以上に行う必要がありますが,入院患者さんのリスクアセスメントはどのように行っていますか。

板倉 当院では,入院時のリスクア...

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