医学界新聞

対談・座談会

2009.09.21

【座談会】

褥瘡管理のいま
専門性を生かし,さらなる連携をめざす

岡田晋吾氏(北美原クリニック理事長)=司会
真田弘美氏(東京大学大学院教授 老年看護学/創傷看護学分野)
板倉洋子氏(国立病院機構 村山医療センター)
仙石真由美氏(函館五稜郭病院)


 高齢社会となり,疾病を持ちながらの生活を余儀なくされる人の増加や,QOLや予防医学の概念の普及に伴い医療のあり方も多様化するなか,褥瘡対策はいち早くその意義が認められ,診療報酬にも反映された。このような実践が実を結び,褥瘡の予防については効果が出ているが,療養の場が広がるなかで,褥瘡を持つ患者をいかに切れ目のない連携でケアしていくかなど,新たな課題も出てきている。

 本紙では,褥瘡対策における地域連携体制構築に取り組む岡田晋吾氏(北美原クリニック),褥瘡治療や管理について多くの研究結果を提示してきた真田弘美氏(東大大学院),皮膚・排泄ケア認定看護師の板倉洋子氏(国立病院機構村山医療センター),仙石真由美氏(函館五稜郭病院)にご登場いただき,看護職の役割や,褥瘡の予防・治療戦略の今後の組み立て方などについて,お話しいただいた。


岡田 2002年度の診療報酬改訂で「褥瘡対策未実施減算」が定められ,褥瘡対策チームでの活動が取り組まれるようになりました。さらに,2004年度に「褥瘡管理加算」,2006年度には「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」が新設されましたが,これらの新設は,チーム医療が診療報酬上で初めて認められた機会であったと思います(MEMO1)。褥瘡ハイリスク患者ケア加算は現在どのような状況にあるでしょうか。

MEMO1

 2002年度「褥瘡対策未実施減算」では,1)専任の医師,看護師を含む褥瘡対策チームの結成,2)褥瘡対策の実施,3)褥瘡対策に必要な体圧分散式マットレス等の使用体制,が整備されていない場合には,入院基本料から所定点数を減算するとされた。2004年度診療報酬改定ではこの見直しが行われ,「褥瘡患者管理加算」(1回の入院につき20点)が新設。2006年度には,急性期入院医療において,重点的な褥瘡ケアが必要な患者に対して総合的な褥瘡対策を実施する場合の「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」(1回の入院につき500点)が新設。施設基準(専従の褥瘡管理者の配置,アセスメントからケアの実施状況までの記録,カンファレンスや研修の実施など)や褥瘡管理者の業務の指針(褥瘡対策チームと連携した褥瘡アセスメントの実施・総合的な褥瘡管理対策,褥瘡予防治療計画の立案,褥瘡ケアの実施・評価など)が示された。また,処置料として重度褥瘡処置と老人処置も新たに加わった。褥瘡対策が入院基本料の施設基準となったことから,「褥瘡対策未実施減算」は廃止された。

真田 今年4月時点で褥瘡ハイリスク患者ケア加算を取得している施設は約370です。現在300床以上の病院が約1500あり,皮膚・排泄ケア認定看護師数は1132人(2009年6月時点)であることから,当初は500施設を見込んでいたのですが,施設基準に適合する施設が想定よりも少ないことが指摘されています。ただ,認定看護師となっても,褥瘡対策チームなどの活動を軌道に乗せていくには3年はかかるというデータもあります。ですから,褥瘡ハイリスク患者ケア加算の新設後に,皮膚・排泄ケア認定看護師が約500人増加したことを考えると,評価はこれからだと思います。

岡田 そうですね。同じようなケアを行っていても,管理者が専任でないなど,条件がそろわずに褥瘡ハイリスク患者ケア加算を取得していない施設もあると考えられます。

真田 厚労省が行った2006年度診療報酬改定項目の評価では,加算の新設後1年で,褥瘡の発生率がわずかながら減っているというデータが出されました。また,同時期に日本ET/WOC(創傷・オストミー・失禁ケア)協会が費用対効果を計算したところ,DESIGN(後述)の点数を1点下げるのに,専任の看護師がいる場合にはそうでない場合の2分の1のコストに抑えられることがわかりました。ですから,今後専任については担保されていくのではないかと考えています。

岡田 村山医療センターでは,褥瘡管理にどのように取り組んでいますか。

板倉 当院は303床の慢性期病院で,褥瘡ハイリスク患者ケア加算の対象となるのは毎月30-40件です。また,脊髄損傷病棟が80床あり,回復期の脊髄損傷の患者さんのうち褥瘡がある患者さんは常時20-25人います。

 私は2007年10月の褥瘡ハイリスク患者ケア加算取得と同時に当院に入職したのですが,最初の1年目は褥瘡回診,褥瘡外来,褥瘡対策委員会の運営,褥瘡ハイリスク患者ケア加算のシステムづくり,院内の褥瘡ケア認定看護師研修の立ち上げなどに暗中模索していました。2年目に入って,コンサルテーションなどを通して他の職種との信頼関係ができ,連携がスムーズになったことが喜びのひとつです。また,300床という規模も,皮膚・排泄ケア認定看護師として細かいところにも目が届き,かつ全体を見渡すことができる規模だと感じています。

岡田 褥瘡対策チームでは,どのような活動をされていますか。

板倉 当院の褥瘡対策委員会は,専任の整形外科医,リハビリ科医,薬剤師,栄養士,看護師長・副師長を含む各病棟のリンクナースの18名で構成されています。そのなかで,私は褥瘡管理者として委員会を引っ張る立場にあります。委員会では,勉強企画担当,褥瘡ケアの院内認定看護師研修担当,褥瘡対策マニュアル見直しのためのワーキンググループという3つに分かれ,グループごとに活動しています。

 また,褥瘡回診を,医師が必ず同行するIII度以上の方と,私が中心になってみるII度以下の方に分けて週2回行っています。さらに,ほかの病院から形成外科医に月1-2回,アセスメントや処置に来ていただき,それに合わせて1時間程度の褥瘡カンファレンスを開きます。その後薬剤師と栄養士を含めた回診を行っています。

岡田 函館五稜郭病院はどうですか。

仙石 当院は一般病床580床の急性期病院で,2001年に褥瘡対策チームを結成しました。私は当初からのメンバーとして,褥瘡管理のマニュアル作成や医療材料の整理などの基盤づくりにかかわってきました。ですから,褥瘡ハイリスク患者ケア加算を取得するにあたっても,スムーズに開始できたと思います。

 褥瘡ハイリスク患者ケア加算の算定数は,2007年が945件,2008年が1024件,2009年は7月末の時点で既に1021件です。急性期病院のため,在院日数の短縮に伴い手術件数が増加しており,年間約3000件の全身麻酔手術が算定数の増加につながっていると考えられます。新入院患者数は月に約1000人で,そのうち褥瘡管理が必要な方が約200人です。すでに褥瘡を持って入院してきた「持ち込み」の患者さんも年間80-100人程度います。

 患者さんの全体の傾向としては,すでに褥瘡の危険因子を持つ高齢者が,大腿頸部骨折,肺炎などの感染症,心疾患などの急性期の病態で入院してくるという場合が多いです。

岡田 褥瘡対策チームを2001年から継続してこられた秘訣は何ですか。

仙石 立ち上げの段階から,看護部長や病棟師長など管理者が一緒に参加してくれたことが非常に大きいです。例えば,体圧分散寝具やクッションなどの物品に関することでも,必要性を理解して素早く対応してもらえます。

岡田 医療マネジメントにおけるチーム医療は非常に重要ですし,病院機能評価Ver6.0でもチーム医療が多く取り上げられています。ですから,チームの活動に理解を示す病院管理者も増えているのでしょう。

真田 褥瘡の発生率は,どれくらいですか。

仙石 現在約0.6%です。

板倉 当院は,0.8%前後です。

真田 すごいですね。皆さんの日々のモニタリングが,このような成果を生んでいるのだと思います。

“痛み”も褥瘡予防の重要な鍵

真田 昨年,日本褥瘡学会が在宅診療に携わっている医療者向けに『在宅褥瘡予防・治療ガイドブック』を出しました。これは,厚労省2007年度老人保健健康増進等事業の一環として日本褥瘡学会が実施した「在宅褥瘡ハイリスク患者ケア体制確立のための在宅版褥瘡予防・治療ガイドラインの策定・普及に関するモデル事業」の成果として出されたものですが,その作成段階で2002年と2006年の褥瘡発生率を比較したところ,病院が3.6%から2.2%に下がっているのに対して,在宅は5.8%から8.2%に上昇していることがわかりました。いままでは「持ち込み」といって,在宅で褥瘡をつくって病院に入院してきた患者さんを問題にしてきましたが,病院で褥瘡をつくって在宅に帰る,いわば「持ち帰り」が増加していると考えられます。

 というのは,入院中に発生あるいは救急を受診された人たちに褥瘡があるとわかるまでには4-5日,DTI(Deep Tissue Injury)の場合は深くなるのに2週間かかります。そうすると,退院後に悪化することもあるわけです。ですから,病院でどの状態までみたら,自宅なり施設へ帰っていただくかについてのコンセンサスを日本褥瘡学会のなかで形成すべき時期が来ているのではないでしょうか。

岡田 DTIは最近出てきた概念ですね。少しご説明いただけますか。

真田 DTIは米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel;NPUAP)による定義で,直訳すると「深い組織の損傷」という意味です。従来褥瘡評価には4段階の分類が使用されており,皮膚表層から深部組織に向かって悪化していくという病態が示されていました。しかし近年,皮膚に発赤やびらんなどがなく一見障害がないように見えても,深部組織のほうが損傷していて何らかの治癒過程が働かない場合には,深部から表層へ進行することがわかってきました。そこで,NPUAPは2007年に,このような褥瘡をDTIと名付け,Suspected Deep Tissue Injuryという,どのステージにも属さない新たな分類を作成したのです。現在NPUAPの分類は,これに判定不能(Unstageable)という項目を加えた6段階から成っています。NPUAPがDTIの定義を明確にし,発赤でないものを褥瘡とした背景の一つには,2008年10月から褥瘡を院内で発生させた場合はMedicareからは保険を一切給付しないという,非常に厳しいペナルティが課せられたことが考えられます。

 このDTIの概念を日本に取り入れることになったのは,褥瘡対策のターゲットが急性期や終末期の患者さんに広がってきたためです。DTIは深部組織の損傷ですから,殿筋がしっかり発達した急性期の患者さんが多く発症します。DTIが褥瘡の急性症状だということをとらえておく必要があります。

岡田 DTIのリスクアセスメント上の注意点はありますか。

真田 DTIのいちばんの特徴は痛みがあることです。褥瘡はこれまで痛くないといわれてきましたが,DTIは痛み止めを使っても効かないほど痛みます。ですから,急性期の患者さんが術後に「お尻が痛い」などの症状を訴えたときには,皮膚硬結や浮遊感がないかを必ず確認することが重要です。

岡田 一般病棟の看護師にもそういうみかたが必要ですね。予防のためにはリスクアセスメントをこれまで以上に行う必要がありますが,入院患者さんのリスクアセスメントはどのように行っていますか。

板倉 当院では,入院時のリスクアセスメントは日常生活自立度の判定から危険因子の評価までを病棟の看護師が行っています。日常生活自立度の低いBランク以上の患者さんについては,看護計画を立ててから私に連絡をもらう形になっています。褥瘡が発生している患者さんは私が必ず関与しますが,褥瘡ケアマニュアルや褥瘡ケア実施表などが整っているので,褥瘡の発生リスクが高くなければまったく関与しない場合もあります。

■QOLを含めたケア方針の整備が必要

岡田 褥瘡治療のトピックスとしていちばんに挙げられるのは,日本褥瘡学会が今年2月に「褥瘡予防管理ガイドライン」を公表したことですね。

真田 今回のガイドラインの特徴は,治療だけでなく,褥瘡の発生後に最も重要になる退院後を含めたケアのシステムについても言及できた点です。ただ,ガイドラインに足りなかったことも挙がってきています。実は今年の後半に,NPUAPとEPUAP(European Pressure Ulcer Advisory Panel;ヨーロッパ褥瘡諮問委員会)が共同で「国際褥瘡ガイドライン」(The International Pressure Ulcer Guidelines)を出す予定です。この国際褥瘡ガイドラインに含まれていて「褥瘡予防管理ガイドライン」に入っていないのが,緩和ケアとペインコントロールです。つまり,今後は発生率の減少を主眼に課してきた褥瘡管理から,QOLを含めたケア方針の構築への転換の必要性を感じています。

仙石 当院は今年3月に地域がん診療連携拠点病院になり,緩和ケアチームを立ち上げたところですが,院内で褥瘡が発生する患者さんの半数以上が終末期の方です。

岡田 今後がんで亡くなる人が3人に1人といわれるなか,緩和ケアやペインコントロールは重要な課題です。緩和ケアチームやNST(Nutrition Support Team;栄養サポートチーム)との連携もこれまで以上に必要ですね。

仙石 当院ではほぼ毎朝,緩和ケア,がん性疼痛看護,がん化学療法看護,乳がん看護の認定看護師と私とで,緩和ケアチームが関与している患者さんの情報を共有する時間を30分ほど設けています。新しい患者さんが入院する際には,褥瘡の予防や対策の視点からケアの提案をしたり,乳がんであれば皮膚潰瘍の創傷管理などの相談を受けたりします。とにかく患者さんの情報を共有して,自分たちが最も得意とする内容のアプローチ方法について話し合っています。また,病棟の看護師に対しても,患者さんの予後や疼痛コントロールの状況によって,褥瘡の治癒をめざすのか,現状を維持して悪化させないことをめざすのかなど,目標をきちんと伝えて,それに合った形でケアを行ってもらえるように働きかけています。

岡田 認定看護師が横断的にいろいろな患者さんをみられるというのは素晴らしいですね。これからも認定看護師は増えていきますから,このような取り組みが必要だと思います。

共通言語が地域連携の促進につながっている

真田 日本の褥瘡管理の強みは,DESIGNという共通言語を持っていることです。特に最近,訪問看護師の方たちが病院と在宅の連携には共通言語が必要だということに気付き,積極的にDESIGNを用いていると聞きます。そもそもDESIGNは,日本褥瘡学会が2002年に治癒過程を評価するためのツールとして作成しました。日常のケアのなかで簡便な評価を行うための重症度分類用と,治癒過程の流れを詳細に示すための経過評価用の2つがあり,Depth(深さ),Exudate(滲出液),Size(大きさ),Inflammation/Infection(炎症/感染),Granulation(肉芽組織),Necrotic tissue(壊死組織),Pocket(ポケット)の7つを用いて判定します。

岡田 昨年12月には,DESIGN‐R褥瘡経過評価用が公表されましたね。

真田 DESIGN‐Rは褥瘡経過を評価するだけではなく,深さ以外の6項目からその重症度を予測するためのツールです。これまでのDESIGNの点数は絶対的評価ではなかったので,患者さん個人の変化は追えても,患者さん同士を比較すると,例えばポケットのあるIII,IV度の患者さんよりも,II度(真皮までの損傷)の5cmほどの広さの褥瘡がある患者さんのほうが点数が高くなってしまうというような問題がありました。ですから,DESIGN‐Rができたことによって,例えば病院間の褥瘡の重症度を比較することも可能になるので,ケア,治療の質の担保ができるようになったといえます。

岡田 これからは,治療だけではなく療養環境を含めた管理の必要性があるということと,治癒過程を比較検討して質を保証していくという方向性があるということですね。

真田 はい。それから,もう1点重要なのが栄養管理です。先ほどの『在宅褥瘡予防・治療ガイドブック』を作成する際に行った2008年1月の実態調査で明らかになったのは,在宅の褥瘡発生に最も関与しているのは栄養だということでした。介護保険が導入された2000年以降,使用機器などが非常に豊かになり,これまで問題にされてきた体圧分散やスキンケアは改善されてきました。ですから,次の段階として,マンパワーが必要となる在宅における栄養管理の徹底が急務といえます。

岡田 患者さんの皮膚をみる機会がいちばん多いヘルパーの方が,予防のキーパーソンとなるのではないでしょうか。毎日のように患者さんの様子をみているので,栄養状態もわかりますよね。ですから,講習会などを開くのも有効だと思います。

ラップ療法にも学会の指針を

岡田 もう1つ治療のトピックスとして,在宅を中心にラップ療法が広がっていることが挙げられます。訪問看護師の方からラップ療法について質問や相談を受けることはありますか。

仙石 治療法や被覆材の使用法についての質問のなかで,ラップ療法についての質問を受けたことがあります。ただ,以前「持ち込み」で入院してきた患者さんがラップ療法をされていたのですが,不適切な処置により,状態が悪化したと思われるものがありました。ですから,ラップ療法を行うにしても,傷がよくなっているのか,感染の兆候はないのかなど,傷の状態をきちんと観察して判断できる人がケアを行う必要があると思います。

岡田 ラップ療法については,褥瘡予防管理ガイドラインでは言及されていないのが現状ですが,先日行われた第11回日本褥瘡学会学術集会ではラップ療法をテーマにしたシンポジウムも開かれました(MEMO2)。ラップ療法は,在宅ではデフェクト・スタンダードになっていますが,医療用として認可されていない材料を使用することへの抵抗を示す専門家もいます。しかし,ラップ療法を行っている医師たちは,高価なドレッシング材を置いているところがほとんどない環境のなかで,試行錯誤を繰り返しながらラップ療法にたどり着き,患者さんを一生懸命みています。ですから,その人たちの情熱をうまく生かしながら,病院が行っている治療法と在宅で行われている治療法をうまく連携していくことが大切ではないかと思います。しかし,中途半端にラップ療法の一部を勉強して,何でもラップをしておけばいいというのでは困るので,日本褥瘡学会としてもきちんと指針を示していくべきだと考えています。

MEMO2

 第11回日本褥瘡学会におけるシンポジウム「ラップ療法使える? 使えない? どう使う!」(座長=北美原クリニック・岡田晋吾氏,関西労災病院・幸野健氏)では,湿潤療法の一種であるラップ療法をテーマに議論された。食品用ラップの使用に始まるラップ療法は,簡便で低コストであることから在宅医療を中心に普及し,現在は穴あきポリエチレン袋や紙おむつなども使用されている,医療材料ではない物品の使用について抵抗感を示す人も少なくないため,シンポジウムでは,患者や家族にきちんと説明を行い,同意を得る必要性が示された。また,安易に行われているラップ療法に対して警鐘が鳴らされ,的確な褥瘡評価に基づいた治療法を選択できる医療者が不可欠であること,ホームページなどで安易に学ぶのではなく体系的な学習機会を得る必要性があることなどが再確認された。最後に,2011年に改訂予定の褥瘡予防管理ガイドライン編集委員長を務める坪井良治氏(東医大)が,臨床における比較試験などを行い,ラップ療法に関するエビデンスを蓄積してほしいと呼びかけた。

認定看護師を中心とした地域支援体制づくりを

岡田 私は在宅診療に携わっていますが,病院の褥瘡対策がこれだけ進んできていても,在院日数が短縮されるなかで,これまで以上に褥瘡が十分治癒しないうちに患者さんを自宅や施設に帰さざるを得ない現状があると感じます。ですから,これまで病院で行ってきた教育を含めたシステムを地域でつくり,切れ目のない地域連携をさらに強化する必要があります。

 私たちは今年3月に全国在宅療養支援診療所連絡会を発足しました。在宅専門クリニックには,褥瘡診療を行える医師も多くいますが,一般診療に携わりながら在宅診療を行う医師のなかには,褥瘡の勉強をしたことがない人が少なくありません。ですから,例えば認定看護師による相談窓口や,メールで相談できるような体制を地域で整備することも有効ではないでしょうか。

仙石 道南地域では,医療者を対象とした道南創傷治癒研究会を4年ほど継続して行っています。ここでは,在宅診療にかかわる医療機関や介護施設の方たちを対象に,主に褥瘡予防と治療についての講習会を年に3回,定期的に続けています。また,昨年在宅スキンケア部会を立ち上げ,スキンケア方法や体圧分散寝具の選択の仕方などをテーマに,演習を中心とした少人数制の講習会を行っています。希望者も多いので,今後は私たち皮膚・排泄ケア認定看護師が地域に出向くことで,よりたくさんの人に効率的に知識や技術を伝えることができるのではないかと考えています。

岡田 確かに,勉強会の情報が入らない,勤務があって参加できないなど,さまざまな事情を抱えた方が地域にはいるので,認定看護師自らが地域での活動を増やしていくことが求めらますね。

真田 板倉さんは訪問看護師の経験もあり,在宅,病院両方の問題点をご存じだと思いますが,どのようなことを感じていらっしゃいますか。

板倉 さきほど真田先生がおっしゃった,どこまで創が治ったら在宅へ帰すのかということについては,いまの職場にいてよくみえるようになりました。患者さんを取り巻く療養環境はそれぞれ異なるので,「この創の状態なら在宅で管理できる」と判断をしたときに問題になるのは,マンパワーや環境です。ですから,病院の看護師がもっと関心を持って,支援体制を整えていく必要があると感じています。というのは,脊髄損傷の方は長期入院になってしまうことが多いので,患者さん自身の地域へ帰る気力が失せてしまうことがあるのです。ですから,訪問看護師の支援体制や病院の外来でのフォローアップ体制を整え,褥瘡を在宅で管理できるようになれば,QOLを考えて在宅へ帰すべきだと思うようになりました。そこで,最近は訪問看護師や介護福祉士,ケアマネジャー,ヘルパーなど,多職種で退院前カンファレンスを行っています。

岡田 お互いが遠くにいてやりとりしている限り,連携はうまくいかないので,退院前カンファレンスは非常に重要ですね。これまでは,質の担保をすることなく,空いているところに患者さんを帰すということも多かったのではないでしょうか。

 ほかにも,褥瘡だけを理由に入院させてくれる病院がなかなか見つからないという現実もあります。ですから,地域を挙げた取り組みにおける仲介役として,皮膚・排泄ケア認定看護師の役割は非常に大きいといえますし,訪問看護師と病院の看護師がより近い関係になってほしいと感じます。

板倉 多摩地域では,約10年前から「S.O.Wクラブ」という地域での自主学習会を開催しています。年に約10回開かれる勉強会のなかで,現場の訪問看護師たちのさまざまな意見を聞くことができます。また,訪問看護師を交えたケアミーティングの時間を設けて事例検討を行っており,在宅看護を担う方がいま何を必要としているのかを知る貴重な機会になっています。

岡田 道南地域にも,道南在宅ケア研究会というヘルパーやケアマネジャーなどの在宅診療のスタッフを主体にした会がありますが,そこでも褥瘡や緩和ケアの話がよく話題にのぼります。このように,多職種による研究会などで成果を出していくことが大切ですね。

真田 ただ,いま問題なのは,病院に勤務する皮膚・排泄ケア看護師たちが積極的に外に出ることができない仕組みになっていることです。というのは,診療報酬上,病院に勤務する看護師が訪問看護に同行しても点数が得られないので,管理者の理解を得にくいのです。しかし,皮膚・排泄ケア看護師と訪問看護師が退院前カンファレンスを行い,例えば1か月後にもう一度一緒に患者さんのところに行って,コンサルテーションの機会を設けることができたらいいなと思っています。そのためにも,今後現場の看護師の方たちにも協力してもらいながら,モデルケースを示し,成果を出していきたいと考えています。

(了)


岡田晋吾氏
1986年防衛医大卒。同大病院,92年公立昭和病院,96年函館五稜郭病院を経て,2004年に開業。在宅診療に携わりながら,病院と在宅の切れ目のない連携をめざし,地域における褥瘡予防・治療の研究会や,地域連携パスを推進している。日本褥瘡学会理事。編著に『地域連携パスの作成術・活用術――診療ネットワーク作りをめざして』(医学書院)など。

真田弘美氏
1979年聖路加看護大卒。聖路加国際病院,金沢大病院勤務を経て,81年金沢大医療技術大学部,89年イリノイ大看護学部大学院。95年金沢大助教授,98年同大教授を経て,2003年より現職。皮膚・排泄ケア認定看護師。現在日本創傷・オストミー・失禁管理学会理事長,日本褥瘡学会評議員。『よくわかって役に立つ新褥瘡のすべて』(永井書店,編著)など著書多数。

板倉洋子氏
1978年都立公衆衛生看護専門学校卒。小児科勤務を経て,97年皮膚・排泄ケア認定看護師を取得。訪問看護師,介護支援専門員として,約10年間地域で看護に携わった後,2007年より現職。認定看護師は相談窓口として,地域連携の鍵を握っていると感じている。「組織の中で,皮膚・排泄ケア認定看護師としてどう動くか」と「知識・技術向上のための自己研鑽」が課題。

仙石真由美氏
1988年愛知県立総合看護専門学校卒。86年名古屋第二赤十字病院,96年より函館五稜郭病院勤務。2006年皮膚・排泄ケア認定看護師を取得。「認定看護師の役割を果たすためには調整力や指導力も必要だが,何でも抱え込みがちだった自分自身を見つめ直すことができ,ターニングポイントとなった」とのこと。「褥瘡対策について地域で共有できる資料作り」が今後の課題。

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