医学界新聞

2009.09.14

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


聴神経腫瘍 [DVD付]
Leading ExpertによるGraphic Textbook

佐々木 富男 編
村上 信五 編集協力

《評 者》端 和夫(太平洋脳神経外科コンサルティング代表新さっぽろ脳神経外科病院名誉院長)

聴神経腫瘍を摘出するための本

 佐々木富男先生の『聴神経腫瘍』が医学書院から出版された。

 第一の特徴は,よくぞ日本語で出版してくださった,ということである。佐々木先生は米国の留学経験が長く,英語には抵抗はなかったはずで,もし先生がその気になれば,ひょっとすると英語の本になっていたかもしれない。しかし,読む側には日本語のほうがありがたい。基礎医学と違って,臨床医学は国民医療が問題である。発展途上国ではあるまいし,そのための情報を英語で読まなければならないバカバカしさは,英語になったNeurologia medico-chirurgicaを読むときの感じと同じである。国際的名声を求めず,日本語で出版されたことに拍手を送りたい。

 第二は,本書はまさに聴神経腫瘍を摘出するための本であるということである。摘出に必要な知識は詳しく書かれているが,それ以外のことは最小限にとどめてあり,読むほうは,煩雑な知識の羅列,例えば発生学や組織学的分類などにうんざりすることなく,すぐに摘出の問題に集中できる。この腫瘍は上手に摘出さえできれば解決する,それを決めるのは術者の技量である,という著者の気概が感じられる,真にケレンミのない記載は好感が持てる。そして,きれいな術中写真と図が多く,読みだすと止まらなくなり,思ったより簡単に最後まで読める。

 第三は,解説が具体的で,豊富な経験に基づくことが感じられることである。「内減圧中の出血を凝固したのち,生理的食塩水で頻回に洗浄して熱で顔面神経が障害されるのを防ぐ」という記載や,「細心の注意を払って顔面神経を腫瘍から剥離してゆくと,突然,透見できるほど薄くfanningした顔面神経が内耳孔方向へ立ち上っていた」などの記載の背景には,それぞれ苦労した経験があることが感じられる。まるで手術場で,佐々木先生から直接感想を聞いているようである。

 顔面神経や聴神経の機能を温存するために,腫瘍の被膜を残して,「subcapsularあるいはsubperineurial dissectionをする」という記載が多くの場面で登場する。組織学的な理論づけもある。これは大変重要な戦略で,建前にこだわらず,勇気を持ってこのことを強調された書き方には共感を覚える。おそらくある程度の経験を持つ脳神経外科医が読めば,自分が行った手術の場面が自然に目に浮かんできて,今度はうまくやろうとあらためて思うかもしれない。

 第四は,従来あまり触れられていなかった術後の耳鳴りや味覚障害について書かれていることである。読者は今後,聴神経を下手に残すと耳鳴りだけが温存される,という俗説に惑わされずに済むことであろう。また,顔面神経麻痺が残ったときの対応の記載も具体的である。ガンマナイフ治療の章もあり,正直な効果と問題点が明らかにされている。

 第五は,translabyrinthineとmiddle fossa approachによる手術が,名古屋大学耳鼻科の村上信五先生によって書かれていることである。やはりきれいな写真と図がたくさんあり,歯切れのよい村上先生の解説は非常にわかりやすい。ところどころに手術のコツがアドバイスとして書かれていて,ひとつ自分でもやってみようかという誘惑に駆られるほどである。しかし,教科書を読んだだけでこのアプローチをやってみようというのは蛮勇で,やはり最初の数回は耳鼻科の先生と共同で行うほうが無難であろう。その後は,本書を読みDVDもよく見れば,おそらく大丈夫ではなかろうか。

 最後は何といっても手術のDVDが付いていることである。術野に出血の少ない手術はMalis先生やSamii先生のビデオが有名であったが,佐々木先生,村上先生の手術も大変きれいな術野である。

 聴神経腫瘍に関係する解剖学的構造は複雑ではあるが,十分把握できる程度であり,規則性もかなり高い。画像診断やモニタリングも進歩した。正しい計画と戦略で手術し,出血に煩わされずに切除や剥離すべきものをよく見て,心を落ちつけて,慎重,丁寧に操作すれば,聴神経腫瘍の摘出に成功する確率は高い。そのために本書を読んで患者の役に立ってほしいというメッセージが読後に伝わってくるようである。

A4・頁160 定価23,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00806-8


摂食障害 第2版
食べない,食べられない,食べたら止まらない

切池 信夫 著

《評 者》古川 壽亮(名市大大学院教授・精神医学)

日々工夫を重ねる専門家の臨床経験に学ぶ

 大阪市立大学大学院神経精神医学教授,切池信夫氏の名著『摂食障害――食べない,食べられない,食べたら止まらない』の第2版が出版された。2000年に出版された初版のタイトルを見たとき,「なんと上手にエッセンスをサマライズしたサブタイトルなのだろうか」と,その洒脱さに脱帽し,そこに至る背景にあるに違いない臨床経験の厚みにひそかに感嘆した。そしてその数年後,大阪市大を訪問して切池氏と親しく話をさせていただき,「なるほど,この先生にしてこの名著あり」と,ひざを打つ思いがしたことを今でも覚えている。その切池氏が,ライフワークとしてさらに研鑽を重ね,氏ご自身の第2版の序の言葉を借りれば「初版を上梓してから,日常診療において日々工夫を重ね実施している治療法を中心に改訂」されたのが,第2版である。

 何を隠そう,私自身は摂食障害と聞くと,「う~~ん,大変そうだな」という考えがまず頭をよぎり,そこはかとなくいすの上で居住まいを正してからでないと患者さんに会えない,普通の精神科医であるが,そういう精神科医であるからこそ,本書とそのバックボーンとなっている大阪市大での臨床と臨床研究にさまざまな示唆をいただきながら日々の診療をさせてもらえる。

 まず私が励まされるのは,第VIII章にある,摂食障害の予後研究である。海外のデータでは意外にも摂食障害の予後が悪くないことは知っていたが,大阪市大に通院,あるいは入院するほどの患者ですら,10年後予後が良好とされるものが,神経性食思不振症制限型で82%,過食/排出型で50%,神経性過食症で66%とのことである。大阪市大での治療のおかげであることはもちろんだが,しかし,大阪市大の専門治療に来るほどの重症例でもこのような結果が得られるということに,私は大いに励まされている。

 次に役立ちそうなのは,Introductionとして今回加筆された,「はじめて摂食障害患者を診る医師のQ&A」で,何をもって病的なダイエットといえるか,摂食障害が治るとは,学校などから相談を受けたときには,など,「あぁ切池氏をはじめとする大阪市大の専門家たちもこのような質問を受けてきっと考え込みながら臨床経験を積まれたのだろうなぁ」と,これまた励まされるのである。

 そしてもちろん一番役立つのは,第V章に詳述されている患者の評価方法,第VII章の治療方法(「治療は難しい」と銘打たれた章を読んで,励まされない臨床家がいようか!),そして付録に収載された患者用パンフレットであろう。本書をもって私の臨床が,そして私の教室の臨床が,そして日本中の臨床がまた前進することを祈っている。

A5・頁288 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00818-1


外科の「常識」
素朴な疑問50

安達 洋祐 編

《評 者》森 正樹(阪大大学院教授・消化器外科学)

その「当たり前」は本当に正しいのか?

 これまで外科学の中で当たり前と考えられてきたことに対し,本当にそうかという素朴な疑問を投げかけ,それを多くの医学論文で検証し,その成果を本にまとめてこられたのが安達洋祐先生です。安達先生は医学という硬くなりがちな分野に,柔らかい発想で新しい感覚の本を提供し続けています。これらの本は多くの若い医師の心をつかみ,愛読する外科医が急増していると聞いています。その安達先生がまたもやってくれました。雑誌『臨床外科』の「外科の常識・非常識:人に聞けない素朴な疑問」という連載を一冊の本にしたのです。

 本書は今までの安達先生の本と同様に,とてもインパクトが強く,なるほどと思わずひざを打ちたくなるところが多々あります。序文に記されているように「将来,外科の歴史を振り返るときの『里程標milestone』になると自負して」いることが,うなずけます。本当に痒いところに手が届く内容で,若い医師だけでなく,指導者にもぜひ一読していただきたいと思います。そして間違いなく読む価値のある本です。

 その題目の一部を挙げると,「風邪にうがいは有効か」「腹膜炎手術でドレーンは必要か」「手術後のCT検査は必要か」「胃腸切離断端の消毒は必要か」「乳癌手術は生検後2週間以内か」「手術野の消毒は必要か」「抜糸はなぜ7日目か」「減圧ストーマは結腸が標準か」「鼠径ヘルニアの手術は必要か」など本当に素朴な疑問が並んでいます。しかし,私たちの多くはそのような疑問を感じても,先輩から引き継いできた外科の歴史の中で,検証することなく従来の方法を踏襲してきました。あらためて「それはなぜか?」と問われて,「どうしてだろう」と思う内容ばかりです。安達先生を筆頭にその分野で活躍中の若い先生が関連の医学論文を探して吟味し,質問に小気味よくコンパクトに答えているため,わずかの時間で読破することができます。慣習としてやってきたことが本当に正しいのか,あらためて考える癖をつけてほしいとの編者の願いが具現化された本といえます。そしてそのような志こそがより良い医療の提供につながっていくと期待していると思います。

 また,国立病院機構九州医療センター名誉院長の朔元則先生や済生会八幡総合病院院長の松股孝先生などのベテランが安達先生とともに「番外編」として12編のエッセーを書いています。「外科医に異動は迷惑か」「医師は理系か」「外科医は単なる職人か」「『先生』に『御侍史』は必要か」など,執筆者らの長年の思いが凝集されており,大変読み応えがあります。(安達先生はもとより)朔先生,松股先生ともに,文筆家顔負けの素晴らしくわかりや...

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