医学界新聞

連載

2009.09.07

小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第9回】 嘔吐=消化管,とは限らない

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

嘔吐の原因といえば,まず胃腸炎などの消化管疾患が思い出されるでしょう。しかしながら,実際はさまざまな原因で嘔吐は出現します。今回は,小児の嘔吐について,どのようにアプローチしたらよいのかを勉強しましょう。

Case1

 8か月男児。自宅で「ゴトッ」という音がしたので母が見に行くと,床の上に倒れていた。その後,数回嘔吐したあと,ぼんやりした状態が続くためER受診。

Case2

 1歳女児。1週間前からの感冒症状,昨日からの発熱。食事もきちんととれており,機嫌も悪くない。母「夜になると,何回か吐くんです。胃腸炎ですか?」。

Case3

 11か月女児。昨日からの発熱。ぐったりはしていないが,機嫌が悪い。母「食べても,すぐに吐くんです。」

臓器別:嘔吐の原因

 嘔吐の原因は,消化管のほかにもたくさんあります。小児の場合,年齢によっても異なりますが,臓器ごとに覚えておくとよいでしょう(図)。というよりも,ほぼ全身の臓器が原因となるので,診断がつかない場合は上からひとつずつ順に考えていく必要があります。

 臓器別の嘔吐の原因

 発熱・嘔吐が主訴でも,尿路感染症ということがあります。例えば尿管鏡検査の際,うまく腎臓のレベルまで麻酔がかかっていないと嘔吐してしまうことがあります。これは尿管の内圧が高くなると,反応性に嘔吐が出るためです。意外なところでは,心不全があります。乳児の場合,ほかにまったく症状がない場合があるので,肝腫大がないか,むくみがないかも確認しましょう。

 また,小児の場合,外から入ってくる原因についても注意が必要です。なかでも,原因不明の突然の嘔吐は,薬物中毒ということもあります。最近はあまり使用しなくなりましたが,テオフィリンを内服している児が,マクロライド系の抗菌薬を併せて服用したりすると,血中濃度が上昇してしまうことがあります。また,乳幼児では,異物誤嚥・誤飲にも注意が必要です。突然嘔吐が出現し,その後ニコニコしながら一日数回嘔吐し,三日後に500円玉が食道にひっかかっていたことがわかった児もいました。

お母さんの言う「嘔吐」

 乳幼児の場合,自分で症状を表現することができないため,お母さんなどの家族が症状を説明することになります。その際に問題になるのが,お母さんの言う「嘔吐」です。問診をしている際,「吐くんです」と表現しているものが,客観的には「嘔吐」と呼べないようなものの場合もあります。お母さんの言う「嘔吐」には,表の三つが挙げられます。

 お母さんの言う「嘔吐」とは

 (2)の「咳き込み後の嘔吐」については,マイコプラズマ・百日咳・喘息のように,強い咳嗽によって出てしまう場合と,副鼻腔炎による後鼻漏や胃食道逆流による胃酸により食道が刺激されることで嘔吐してしまう場合(より正確には,「むせ込み後嘔吐」)があ

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