フォーカス不明の発熱:FWLS(土畠智幸)
連載
2009.08.03
小児科診療の Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の 【第8回】 フォーカス不明の発熱:FWLS 土畠智幸 |
(前回からつづく)
救急外来にWalk-inで来る小児の最も多い主訴は,発熱です。今回は,小児の発熱のなかでも,問診・診察したがどこに発熱の原因があるのかわからない,というときのアプローチについて勉強します。
Case1
9か月男児,今朝から最高38.5℃の発熱。機嫌はよく,食事も摂取できている。診察上,呼吸促迫なく,咽頭・鼓膜の発赤も認めず,肺音もクリア。
Case2
2か月女児,今朝から最高38.5℃の発熱。哺乳はいつもの半分程度で,あまり泣かない。診察上,ややぐったりしているが,呼吸促迫・脱水所見なし。咽頭・鼓膜の発赤認めず,肺音もクリア。
FWLSって何?
胸部X線で浸潤影がある,明らかな膿尿がある,などというように,感染巣(フォーカス)がどこかわかっている場合にはそれに対する治療を行いますが,フォーカスがわからない場合は,成人とは異なったアプローチが必要です。このような状態を,FWLS:Fever without localizing sourceといいます。乳幼児の場合は,フォーカスがよくわからないうちに状態が急速に悪化することがあります。急速に悪化する可能性の高い細菌感染症をSBI: Serious bacterial infectionと呼び,これには敗血症・髄膜炎・上部尿路感染症などが含まれます。また,急速に悪化しないまでも,発熱以外の症状がない時点で既に菌血症を来していることがあります。この状態を,OB: Occult bacteremiaといい,SBIに進展してしまうこともあります。FWLSは,早期の対応が必要になるという点で,ある程度時間がたってもフォーカスの見つからない状態を指すFUO: Fever of unknown originとは異なります。
FWLSの診療プロトコル
FWLSの診療プロトコルは,年齢によって違います(図1,2)。3歳以上は,特に決まったアプローチはありません。3歳以下の場合は図に示したようなアプローチで診療を行いますが,特に3か月未満は注意が必要です。その理由は,BBB(血液脳関門)が未成熟で,菌血症からすぐに髄膜炎に移行してしまうからです。また,生後3か月を境に起炎菌が異なります。3か月未満は,母親からの垂直感染が多く,起炎菌はGBS,E. coli,Listeriaが多くなります(新生児は「下痢GELi」と覚えます)。抗菌薬は,スペクトラムの広いCTX(セフォタキシム:第3世代セフェム)に加え,ListeriaをカバーするABPC(アンピシリン:広域ペニシリン)を使用します。
図1 3か月未満児のFWLSの診療プロトコル |
図2 3か月-3歳児のFWLSの診療プロトコル |
3か月以上の場合は,起炎菌は市中感染のものへと変わり,多くは肺炎球菌・インフルエンザ桿菌です。よって,FWLSで抗菌薬を選択する場合は,CTXやCTRX(セフトリアキソン)といった,第3世代セフェム単剤で問題ありま...
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