医学界新聞

2009.08.10

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


地域医療テキスト

自治医科大学 監修

《評 者》武田 裕子(三重大教授・地域医療学)

「地域医療」を正面からとらえた待望のテキスト

 「『地域医療』があるのはわかるけど,『地域医療学』なんて学問,本当にあるんですか?」と質問されたのは,私が三重県の寄附講座に着任した直後であった。確かに,見わたすと教科書がない。地域医療連携や地域保健・福祉などに関する本はあるものの,「地域医療」を正面からとらえて一冊にまとめた書物はなかった。しかし,実際に地域医療に従事している仲間と会話すると,実践に役立つ知識や方法論,そして日々の悩みやジレンマにも確かに共通のものがある。何よりも,「うんうん,そうそう」と大きくうなずいてしまう患者さんやご家族とのエピソード,病院の中にとどまらない地域を挙げての活動には,伝えずにはいられない楽しさと感動が満載である。これを言語化,理論化できれば,「地域医療」のテキストになるのでは……と思い続けていたところ,ついに出た。自治医科大学監修『地域医療テキスト』である。

 医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂で新たに「地域医療」が導入されたため,大学の講義に用いる学生向けのテキストとして作成されたと聞いている。しかし申し訳ないが,この本を学生にだけ読ませておくのはもったいない。医師,大学教員に限らず,全国の地域医療関係者にもぜひお勧めしたい一冊である。特に行政の方々には,優れた入門書であると同時に問題解決のヒントが得られる本となっている。さらに言うと,地域の中で活動した経験があって初めて,この本の行間にあふれる熱い思いが心の底から理解できるのだと思う。

 実習前の学生の皆さんには,まず,冒頭の「ある地域医師の1日」と「12.外来診療」,最終章「24.ある家族に関わった経験から」を読んでほしい。個人的には最後の劇画調の挿絵にちょっと引いてしまったけれど,そこには地域医療ワールドが展開している。いよいよ地域に出かけていくことになったら,「13.入院診療」「14.在宅医療」「15.保健活動と健康増進」は読んでおこう。地域では,心の眼を開き,耳を澄まして直接に学んでほしい。書いたものでは伝えきれないのも「地域医療」なのである。現場で疑問や矛盾を感じたら,この教科書の別の章が理解を助けてくれるだろう。そして将来,いよいよ医師として地域の健康課題に取り組むようになったら,きっとこの本が頼りになる。さまざまなデータや解説,具体的な実践例が,多方面から考える枠組みを与えてくれるに違いない。

B5・頁224 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00805-1


リハビリテーション序説

安藤 徳彦 著

《評 者》奈良 勲(神戸学院大教授・理学療法学)

本来あるべきリハビリテーション理念と実際

 本書『リハビリテーション序説』(医学書院,2009)は,リハビリテーション専門医および前横浜市立大学医学部リハビリテーション科教授として,長年リハビリテーション医学・医療に貢献されてきた安藤徳彦氏の業績の集大成ともいうべき名著の一つである。

 これまでも「リハビリテーション入門・概論」に関する著書はいくつか出版されている。しかし,単著としての本書には,安藤氏自身の実践的臨床・教育・研究活動を通じて実感され,思索してこられたもろもろの課題に関して,時には鋭く,そして全体的には親身なスタンスで言及されており,これまでの安藤氏の真摯な足跡が随所に記述されている。

 さらに,世界的視点に立ち,障害のある人々が社会の中でいかにとらえられてきたかとの内省を含め,過去・現在・未来の時空間を踏まえて,本来あ...

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