医学界新聞

2009.04.13

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


加齢黄斑変性

吉村 長久 執筆
辻川 明孝,大谷 篤史,田村 寛 執筆協力

《評 者》岸 章治(群馬大大学院教授・視覚病態学)

AMDをめぐる「もやもや」を吹き飛ばす快書

 加齢黄斑変性(AMD)は,近年,高齢者の失明の最大の原因となり,社会的な関心も急速に高まっている。一方で,その実体を明確に説明できる人はほとんどいないであろう。AMDの概念と治療はめまぐるしく変わり,とにかくわかりにくいのである。このたび,上梓された吉村長久氏(京都大学眼科教授)執筆による『加齢黄斑変性』はAMDをめぐる「もやもや」を吹き飛ばす快書である。

 本書は5章からなる。第1章は基礎知識で,混乱しているAMDの疾患概念を明快に分類している。AMDのとらえ方は日本と欧米では異なっている。欧米ではドルーゼンの関与が大きいこと,日本ではインドシアニングリーン(ICG)蛍光造影や光干渉断層計(OCT)の新技術が導入されてからAMDを扱うようになったことがその違いであるという。例えばポリープ状脈絡膜血管症(PCV)はICG造影なくしては診断できない。このことが日本でPCVが多い一因であるという。本邦からの論文が多く,わが国の貢献度の高さがうかがえる。血管新生の項は著者の基礎研究者としての素養がうかがえる。読者は第1章だけでAMDの全体像が把握できるようになったと感じるであろう。第2章では,フルオレセインおよびICG蛍光造影,OCT,微小視野などの検査法が実践的に書かれている。第3章は鑑別疾患であるが,実は黄斑疾患学というべき内容である。中心性漿液性網脈絡膜症,特発性傍中心窩毛細血管拡張症,卵黄様黄斑変性などは,最近概念が変わってきているので注目されたい。第4章はPCVをめぐる諸問題である。PCVの病巣がOCTでどう反映されるか,PCVは新生血管なのか,血管異常なのか,ホットな話題が組織標本とともに展開される。

 最も刺激的な話題はゲノムからみたPCVとAMDである。AMDはじつはage-relatedではなく,gene-relatedであること,AMDに関与する遺伝子がコードする蛋白は視細胞内節のミトコンドリアに局在しているというくだりは,ついにAMDの正体を垣間見たようでわくわくする。最終章は治療の実際である。今までに,出ては消えていった治療法の利点と欠点が解説されている。現段階では抗VEGF療法が本命である。新規治療の導入に伴い,さまざまな大規模臨床試験が実施され,学会ではそのデータがしばしば引用される。これらの臨床試験の勘どころが整理されているのはありがたい。

 本書は基本的に個人が書いたものである。その点で近年まれな,本らしい本である。分担執筆と異なり,記述に一貫性があり,著者の主張がある。文献の引用は丁寧で,学者としての姿勢が読み取れる。キャリアの大半をAMD研究の最前線で過ごした著者でなければ,俯瞰的で,かつ細部にこだわった本書の執筆は不可能であったであろう。本書は内容が高度であるにもかかわらず,わかりやすく,楽しみながら通読できる。AMDの治療と研究にたずさわる眼科医だけでなく,一般に広く本書をお薦めしたい。

A4・頁272 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00678-1


向精神薬マニュアル 第3版

融 道男 著

《評 者》神庭 重信(九大大学院教授・精神病態医学)

最新でかつ不朽の内容を備えた本

 『向精神薬マニュアル(第3版)』は,初版(1998年)から10年目を迎える息の長い名著である。この間に第2世代抗精神病薬およびSSRI/SNRIが次々に登場し,精神科の薬物療法はそれ以前とは大きく変わった。本書はこれらの新薬情報を漏らすことなく取り入れながらも,薬物療法において変わることのない治療哲学を伝えている,最新でかつ不朽の内容を備えた本であるといえる。

 著者の融道男氏はよく知られているように,かつて東京医科歯科大学の教授の職にあり,長年にわたって統合失調症の病因・病態研究に従事。統合失調症の解明をライフワークとした研究者である。例えばその業績は,脳内グルタミン酸受容体の減少,ドパミンD2受容体遺伝子異常あるいは作業記憶の低下を説明する前頭葉D1受容体の低下の発見など,枚挙にいとまがない。氏は研究に対しては厳しい姿勢で臨み,いい加減な学会発表には鋭い批判を加えることで知られていたが,評者もかつて氏から直接教えを受けた世代に属する。融道男氏という統合失調症の一流の研究者の手によって長年にわたり丹精込めて作り上げられ,細部にわたって充実していることが他書にない最大の特徴である。

 本書は抗精神病薬,抗うつ薬(抗躁薬を含む),抗不安薬と睡眠薬の3章からなる。各章は,薬物発見のストーリーから現在の主流となっている薬物の開発までの歴史をひもとくことから始まる。続いて病態仮説,薬理作用,各種薬物の種類と特徴がきめ細かく紹介され,詳細な副作用解説で完結する。症例報告にまで目配りが行き届いた引用文献が充実しており,必要に応じて原典を調べることができる。『治療薬マニュアル2008』(医学書院)から抜粋された向精神薬のDI集が付録として掲載されており,処方に際して,投与方法,禁忌,副作用,薬物相互作用を確認したいときに,本書は診察室においても活用できる。

 圧巻で読み応えがあるのは,本編の約半分を占める抗精神病薬である。本書は,著者が大学を退任される頃から取りかかった仕事であり,言うまでもなく本書にはこうした氏の研究経歴が色濃く表れている。特に統合失調症の神経伝達仮説の節では,著者とそのグループによる研究が諸仮説の展開に及ぼした大きな影響の軌跡を読み取ることができる。

 薬物は,疾患の基本的な生物学的病態の理解と薬物の薬理学的特徴を併せて理解して初めて,合理的な使い方ができる。加えて,薬物を処方する医師はまず副作用を知るべきである。副作用は,たとえ一例であっても,重篤なものが報告されているならば,それを記憶しておかなければならない。副作用に関して徹底して一例報告を拾い上げている本書は貴重な資料となっている。

 次々に新薬が登場する時代となった。時代に遅れない最適な薬物療法が広く行われていくためにも,本書が多くの方に読まれ,活用されることを期待したい。

A5・頁496 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00599-9


《シリーズ ケアをひらく》
発達障害当事者研究
ゆっくりていねいにつながりたい

綾屋 紗月,熊谷 晋一郎 著

《評 者》内山 登紀夫(よこはま発達クリニック所長・児童精神科医)

これは単なる私的記録ではない。普遍的な価値を持つ「研究書」だ。

 著者の綾屋氏は,2006年にアスペルガー症候群の診断を受けた二児の母,熊谷氏は脳性まひの当事者で小児科医である。

 自閉症スペクトラム概念を提唱したWingは,社会性・社会的コミュニケーション・社会的イマジネーションの偏り,すなわち「Wingの3つ組」が発達期から存在することで定義した。自閉症スペクトラムの人は,「3つ組」に加えて感覚情報処理や認知機能の偏り,不器用,実行機能障害などがしばしばみられる――というのが,現在の医学的説明であろう。アスペルガー症候群は自閉症スペクトラムの中核に位置する。

専門家が手をつけにくい感覚情報処理の領域に切り込む
 著者は「当事者自身の内部感覚から出発して,新しい自閉観を記述しなおす」ことを意図した。そして「体の内側の声を聞く」ことのわかりにくさの解説から本書は始まる。「おなかがすいた」といった多数派の人々には自明の感覚が,著者にはわかりにくい。身体外部からの情報に加えて,身体の内部から届けられる大量の情報が「等価」に届けられるために,大量の情報を絞り込み,空腹という意味にまとめあげ,「食べる」という具体的行動に移すことがとても難しいという。

 感覚情報処理の問題は従来,自閉症スペクトラムに比較的特異的な特性であるとされながらその診断学的位置づけが明確にされず,本格的な研究も少なかった。その理由としては,感覚情報処理の偏りが客観的に観察できる事象(例えば,耳ふさぎ)にとどまらず,主観的に語られる場合が多く「客観的なデータ」が得られにくいこと,感覚の偏りの在り方が非常にまちまちで年齢や個人によるバリエーションが大きいことなどが挙げられよう。

独りよがりにならない文章に乗って著者の感覚を追体験できる
 このように専門家には手をつけにくい領域に著者は果敢に取り組み,自己の内部感覚を綿密,冷静に観察し,思索を重ね,多数派にも理解可能な文章という形を与えることに成功した。文体は感覚的で明晰であり,独りよがりの部分は全くなく,読者は著者の体験を実感とともに追体験できる。例えば,育児のなかで著者の行動に子どもが反応するときの著者が語る内的体験。

 《このようなときに,私は「ヒトとつながっている」という実感を得る。自分のみぞおちがギュッとつかまれてドキドキして満たされる感じがして,子どもが自分にしゅっと乗り移って,じわじわと自分のなかに溶けていく感じだ。》

 このような魅力的な文章が満載されているだけでも,本書は十分に読む価値があるのだが,もちろん自閉を語る際にも著者の才能は発揮される。自身の体験をもとに〈身体の自己紹介〉〈したい性〉〈せねば性〉〈夢侵入〉など,著者独自の魅力的な概念が提唱される。

 このような独自の概念は独りよがりになりやすいのだが,第三者が理解できるように体験談を交えた丁寧かつ明解な解説が加えられているために,ことごとくわかりやすく「なるほど,なるほど」とストンと腑に落ちる。優れた知性と誠実な思索の積み重ね,心理学など関連諸科学の知識の存在を確かに感じる。熊谷氏が脳性まひ当事者の視点から,綾屋氏の経験と対話を重ねたことも本書に深みを与えた。

あの患者さんが言っていたのはこういうことかもしれない……
 評者は本書を読みながら,「この体験は○○さんに似ている,××さんが言わんとしていたことはよくわからなかったけど,もしかしたらこういうことかも知れない」「あの症状は〈したい性〉が立ち上がらないことで説明がつくかも」などと,実際に関わっているアスペルガー症候群の人を連想することがしばしばあった。

 本書は当事者の私的体験の記録ではなく,書名のとおり優れて普遍的な価値をもつ「発達障害当事者研究」である。ぜひ一読を勧めたい。読書の快楽を味わいながら障害の意味について,「多数派とは,少数派とは何か」について考えさせられる刺激的で貴重な体験になるだろう。

A5・頁228 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00725-2


《神経心理学コレクション》
ピック病
二人のアウグスト

松下 正明,田邉 敬貴 著
山鳥 重,彦坂 興秀,河村 満,田邉 敬貴 シリーズ編集

《評 者》兼本 浩祐(愛知医大教授・精神科学)

臨床に対するくめども尽きぬ愛着があふれる対談

 眼前に酒とさかなが目に浮かぶような何とも楽しそうな対談集である。臨床に対するくめども尽きない愛着がなければこのような対談とはなるまい。

 二人のアウグストというのは随分としゃれた題名だと思う。ピック病とアルツハイマー病というわれわれが精神科で出会う二大認知症の第一報告例が,いずれもアウグステとアウグストという同じ名前を持つ男女のペアであるなどというのは何という歴史の偶然であろうか。

 ピック病を知り尽くした田邉先生と医学史的な陰影をそこに添える松下先生の掛け合いが,本書に深い余韻を生んでいる。ピック病という1つの疾患をめぐる議論をお二人と共にすることで,精神科医がある1つの臨床像を本当の意味で学んでいくということの奥行きの深さを,われわれはこの対談を通して教えられる。

 松下先生も触れられているように本書は半ば田邉先生の遺稿という意味も担うことになった。私が田邉先生と最初にご一緒したのは,大橋博司先生の失語症の症例検討会でのことであった。気さくさと率直さ,これと信じた人(当時は大橋先生)への一直線な姿勢が先生からは感じられ,ともかくも自分の学問のためにはどこへでも真っすぐに通って来られる様子がとても印象的であった。

 田邉先生は直言の人でもあったと私は思う。しかし時に辛辣な内容の意見を直言されているにもかかわらず,その私心のなさと立ち居振る舞い全体が醸し出すユーモアのために,田邉先生に本気で怒っている人を私はあまり見かけたことがない。語義失語を通じてのピック病の診断など,本書にも随所に田邉先生が自らの体験の中から取り出された「田邉節」とでも表現すべきであろう言い回しが見受けられる。松下先生の絶妙の受けが,まるで田邉先生が本当にそこで話されているかのような雰囲気を本書に与えている。一読してさまざまに臨床の味わいを深める一冊であることは間違いない。

A5・頁300 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00635-4


パニック障害ハンドブック
治療ガイドラインと診療の実際

熊野 宏昭,久保木 富房 編
貝谷 久宣 編集協力

《評 者》笠井 清登(東大教授・臨床精神医学)

パニック障害の正しい知識と治療指針の普及に向けて

 パニック障害は,青天の霹靂のように生じるパニック発作で初発し,その自覚症状は動悸,息苦しさ,胸痛等の循環器・呼吸器症状が主体であるため,精神科や心療内科ではなく,内科や救急外来を初診する場合が圧倒的に多い。また,「パニック」は一般的な外来語として「精神的に取り乱す」といった意味で用いられているため,パニック障害の病態を一般の方はもちろん,医師ですら理解していないことがまれではない。しかし,パニック障害は,生涯有病率が一般人口の数パーセントと非常に頻度の高い疾患であり,すべての医療従事者に正しい知識と治療の指針を普及させることが必要である。このハンドブックは,そのような主旨から作成されたが,結論を先に申し上げると,大成功の書であり,その目的を達成するに違いない。

 本書は,心療内科・精神科・臨床心理の第一人者が結集し,生物-心理-社会的な見地から非常にバランスよく記述されている。いわゆるEBM(evidence-based medicine)の羅列だけでは,実践知とならないこともあるが,本書はもう一つの“EBM”(expert/experience-based medicine)が随所にちりばめられており,その意味でも大変バランスよく,実践的である。私は編者・編集協力者の方々を個人的によく存じ上げているが,彼らは常に集い,議論し,最新情報に敏感であり,非常に科学的で実践的なバーチャル研究所を形成している。本書の内容に,信頼性・一貫性を感じるのはそのためであろう。

 本書は構成にも優れている。プライマリケア従事者や,若手精神科・心療内科従事者の研修にとってのminimal requirementが,前半の第1章「A」と第2章にまとまっている。指導者にとっては,この内容でクルズス・講義を行えば完璧であろう。後半は,専門家が認知行動療法的アプローチを行うときの実践的ガイドラインとなっている。

 臨床評価尺度類の充実も目を引く。臨床研究に取り組もうとしている人には大変便利であり,執筆者らが読者の側に立ち,労力を惜しまない姿勢に感銘を受ける。心理教育についてのスライドの提示も斬新な試みで,大変わかりやすい。可能なら,CD-ROMで付録にできれば,患者・家族の心理教育に,臨床場面で広く普及するだろう。薬物療法や妊娠時の留意点,研究成果の部分は,情報の更新が著しい分野であるので,頻回のアップデートを期待したい。

 装丁も爽やかで,中も大変読みやすいデザインである。こうした意味でも,ハンドブックとして常に手元に置くのにふさわしい。このようなすばらしいハンドブックが,他の各種精神障害にも取り揃えられればと願う。多忙な業務の間を縫って,このような本当に役立つ本を作られ,それがわが国のパニック障害の診療を標準化し,レベルを向上させ,当事者の福祉につながる。こうした静かで誠実な社会貢献に心から敬意を表する。

B5・頁168 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00537-1


保健医療福祉
くせものキーワード事典

保健医療福祉キーワード研究会 著

《評 者》近藤 克則(日本福祉大大学院教授・リハビリテーション医学)

言葉の多義性を知ることで異なる価値観に気づく

 本書でいう「くせものキーワード」とは,医療や介護の現場でよく使われるが,使う人によって意味が違うことがあり,どれが正しいとは一概に言えない言葉である。

 例えば,「一般医」はgeneral practitioner(またはphysician)の訳だが,1990年代以降は「総合医」と訳されることが増えている。つまり両者は同じ意味であり,「技術に着目した名称」である。一方,「主治医」は,患者を治療する医師の中で主な者である。主治医は入院中も必要で専門医がなることもあるのに対し,「かかりつけ医」は主に通院を想定しており,日本医師会が多用している言葉である。そしてこれらは技術内容でなく「患者と医師との関係性」に着目している,という。

 これは単なる言葉の遊びやウンチクではない。総合医を含め医師は,自分の持つ技術や専門性に存在価値を見いだし,患者の持つ(客観的な)疾患に着目しがちである。他方,患者は医師の技術や専門でなく,疾患の的確な診断治療だけでもなく,主観的な苦しみをも受け止めてくれることまで期待している。健康にまつわる,いや時には健康と直接関係のないように見える不安すら和らげてくれる「信頼できる関係性」を求めているのだ。このズレを自覚しなければ,医師は患者の期待に応えることはできない。言い換えれば,たとえ医師の間では知られた医師であっても,患者にとって「かけがえのない名医」にはなれないのだ。

 こうした「くせものキーワード」の由来や多義性を知ることは,医師と患者,あるいは医師と看護師,理学療法士,作業療法士,ソーシャルワーカーなど専門職間,そして医療と介護・福祉などの領域間における立場の違いによって,異なる価値があると気づくことである。言葉の多義性,そして異なる価値に気づくことは,コミュニケーションの質を高め,相手の価値を認め,医師患者関係やケアチームにおける関係性をよくするであろう。

 本書で取り上げられている言葉(と関連する言葉)の例を挙げれば,寝たきり老人(寝かせきり老人,寝ていたい老人),社会的入院(社会的転院),障害受容(自己受容,社会受容),ターミナルケア(緩和ケア,ホスピス),往診と訪問診療(定期往診,臨時往診),呼び寄せ老人と遠距離介護,ADL(できるADL,しているADL),生活習慣病(成人病),老人ホーム(小規模・多機能,第3カテゴリー),ソーシャルワーカー(介護支援専門員,社会福祉士)など,多岐にわたる28の言葉である。いずれについても,それがなぜ話題になっているかを紹介し,その言葉が登場する場面を描き,基本概念の説明,いくつかの見方を示して多義性をすくい取っている。

 医療・福祉の連携が必要な領域で仕事をしている人,患者や家族,他職種に言葉がうまく伝わらず悩んだ経験のある人にお薦めの本である。そんな経験はないと思っている医療職も手にとってほしい。医療職,特に医師・看護師の発言に威圧感を感じ質問すら控えている患者・家族・福祉職は少なくないからである。

A5・頁256 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00616-3


消化器内視鏡スタッフマニュアル

光島 徹,田辺 聡 監修
松本 雄三,木下 千万子 編

《評 者》田中 信治(広島大教授・内視鏡医学)

医師・コメディカル双方に役立つ内視鏡診療の書

 このたび,消化器内視鏡の大家である光島徹先生と田辺聡先生の監修のもと,松本雄三氏,木下千万子氏の両氏の編集により『消化器内視鏡スタッフマニュアル』が発刊された。

 これまで多くの消化器内視鏡診療に携わるスタッフのためのマニュアルは発刊されているが,その多くが医師あるいはコメディカルを対象としたものである。本書の最大の特徴は,医師・コメディカル全体を対象としたマニュアルであり,医師が読んでもコメディカルが読んでも非常に参考になるガイドブックであることである。しかもその内容が素晴らしい。一般に,医師の興味は内視鏡診療の実際に,コメディカルの興味は診療のサポート面に傾きがちであるが,本書は,内視鏡検査室の環境整備,医師とコメディカルのコミュニケーション,患者の心情・プライバシーを含めて,リスクマネジメント,最先端の内視鏡診療の実際まで細部にわたってわかりやすく記述されている。

 近年の内視鏡医学の進歩により,内視鏡や周辺機器は複雑で多彩なものとなっているし,内視鏡診療の内容も非常に高度で専門的なものになっている。また,高齢化社会に伴い合併症をもった患者さんや種々の薬剤を内服している患者さんも多い。内視鏡診療に関する問診やインフォームドコンセント,クリティカルパスなども非常に重要な時代になっている。本書は,とかく内視鏡診療の実際のみにのめり込みがちな医師にとっては,ついうっかりしがちな内視鏡室全体の環境整備や患者さんに対する気遣いが痛いほどよくわかる内容であるし,コメディカルにとっては,現在の高度な内視鏡診療の実際が平易に確実に理解できる簡潔な解説がなされており,医師とスムーズな連携をとるための知識が確実に習得できる構成になっている。

 内視鏡診療の内容が日々進歩し高度な技術を要するとともに,常に偶発症と背中合わせで診療しているなかで,医療に対する社会の目も厳しくなっており,医師・コメディカルに要求されている負担はますます大きなものになりつつある。このような背景において,本書はまさに時宜を得た発刊である。医師もコメディカルも本書を熟読することで初心に帰り,不足している知識を補い,新鮮な気持ちのもと,かつベストコンデションで内視鏡診療の現場に従事できることを確信する。つまり,患者さんにとっても,医師・コメディカルにとっても幸せになれる一冊である。本書が多くの内視鏡診療従事者に利用され,本邦の内視鏡診療の内容の充実と質の向上に寄与することを切に期待する。

B5・頁328 定価4,620円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00397-1

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