医学界新聞

2009.03.30

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医療福祉士への道
日本ソーシャルワーカーの歴史的考察

京極 高宣 著

《評 者》村上須賀子(県立広島大教授・人間福祉学/MSW)

鋭い時代認識に基づく“覚悟の書”

 本書の発行を知らされたとき,耳を疑った。「国家資格の『医療福祉士』への道だって?」 20年前に旧厚生省から提示されながら,日の目を見ずにお蔵入りし,以後,死語ともなった「医療福祉士」を真正面に据えた書籍が出版されるとは! 大いなる驚きとともに,なにやら歴史的な地殻変動を感じた。

 本書は数々の謎解きの書である。「医療ソーシャルワーカー(以下MSW)として社会福祉士を雇用しても資質のバラツキが大きいのはなぜか」「MSWは必要なのに,なぜ人件費確保分の診療報酬上の補填が得られないのか」「そもそも,MSWにはなぜ国家資格がないのか?」

 20年前,「社会福祉士及び介護福祉士法」制定に旧厚生省社会局社会福祉専門官として直接かかわった著者が“今だから語れる”行政の現実推移を押さえつつ,以下のように述べている。

 当時,(1)厚生省は縦割り行政で,社会局で医療分野を除いた資格として社会福祉士法を,他方,医政局で医療福祉士法を準備していた。(2)日本医療社会事業協会(MSW協会)は,学問的基盤は社会福祉だと,福祉の世界にこだわった。(3)当初医療福祉士法案はコメディカルスタッフと同様高卒3年の学歴で資格化されようとしていた。社会福祉士案も最初は高卒2年案からのスタートで,結果的に4年制大学卒となったが,MSW協会の執行部はいち早く現行の社会福祉士だけでよい,新しい資格(医療福祉士)は求めないと決議し,いまだにこの路線を固持している。(4)社会福祉士法制定から瞬時の遅れはあるものの,旧厚生省は1989年2月,「医療ソーシャルワーカー業務指針」をまとめ,大学4年制の資格化に向けた地固めをしていたが,当事者団体の反対で国会に提出できなくなった,などなど。

 行政側の瞬時の遅れがボタンの掛け違いを起こし,今に続く問題を残すことになった経過が豊富な注で肉付けされ,わかりやすい。

 今の40歳代未満のMSWたちはかつて資格制度成立寸前までに至った事実を知らない。ましてや国家資格者集団の医療関係者にとっては国家資格を拒否した歴史は不可解の一語であろう。謎解きは興味深い。事実MSWの間では勢いよく読まれ始めている。

 しかし,本書の意図は死んだ子の歳を数えるような回顧の趣ではない。本来医療と福祉は表裏の関係にある。生活習慣病,難病,ターミナルケア,しかりである。ことに在宅医療は医療(いのち)と福祉(生活)の保障なしでは成立しない。医療と福祉のサービスを統合してつなぐ専門職としてのMSWは必要不可欠である。その資質を国民に担保するのが国家資格であると,MSWの“天の時”来(きた)るとの主張である。日本社会事業大学学長の職を終え,現職にあるは“地の利”であると明言し,国家資格創りの熟達者はカリキュラム案まで提示し,説得力抜群である。介護保険の導入時にケアマネジャーの誕生をみたように,本書が在宅医療時代にMSWの国家資格が誕生する幕開けの役割を果たすことになるのであろう。

 5年前,京極先生にお会いしたときの第一声は「MSWの国家資格? 資格創りは命がけの仕事だ,(俺は)死んじゃうよ」だった。「残しておられる仕事があるでしょう」と私は迫った。本書の既出論文一覧で,MSWの資格化の旗を一貫して掲げておられたと改めて知ることができた。鋭い時代認識の上の覚悟の書と拝察する。私個人としては京極先生の身が案じられる本書の出版である。

A5・頁116 定価1,680円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00687-3


AO法骨折治療 Internal Fixators
LCPとLISSによる内固定
[英語版DVD-ROM付]

田中 正 監訳

《評 者》進藤 裕幸(長崎大大学院教授・整形外科学)

豊富なイラストで学ぶ骨折治療学のバイブル

 骨折治療学のバイブル的存在といえる『AO Manual of Fracture Management』シリーズの最新の出版書である“Internal Fixators(内固定器)”の日本語訳が上梓された。

 わが国においてAO(Arbeitsgemeinshaft fur Osteosynthesesfragen)の存在を知らない整形外科医は存在しないであろうが,AO Foundationは骨折治療学における基礎医学的研究や骨折治療用device研究開発のメッカとしてつとに有名である。この機関の重要な機能として,その出版部の業績は骨折治療学において幾多の成書を生み出しており,歴史的評価に値しよう。

 1958年にAOグループが発足し,AO Manualシリーズは1963年に出版された『Interfragmentaly Compression(骨片間圧迫)』として強固なORIF(観血的整復内固定術)法を世に知らしめた初版に始まる。1969年に出版された『AO Manual of Internal Fixation』は,生物学的骨折治癒機序の理論的解明と機械工学理論に基づいたAO法骨折治療の基本原理を明示し,かつ実践的な手術手技をわかりやすく解説したもので,まさに骨折治療学のバイブルとしての礎が築かれた。

 私がAOシリーズを直接手にしたのは,1977年に発行となった改訂版原書(ドイツ語版)が英訳改訂された『Manual of Internal Fixation』(1979年版)であった。いかにもゲルマン系民族らしい論理性を重視した内容でありながら,豊富なイラストが収載され,当時の教科書の類にはみられなかった斬新さに感嘆したことを思い出す。

 近年AO Foundation出版部門からは毎年3冊程度の本が出版されており,本原著は2006年5月に出版された,Locking Compression Plate(LCP)とLess Invasive Stabilization System(LISS)による“Internal Fixators”の基本理念と実践法を解説した最初の包括的教科書である。本書の構成は11章からなり,前半4章は歴史的背景に基づいて理論的に変遷する骨折治療学への基本理念が総論的に解説されている。後半の7章では,国際的レベルで活躍中の整形外科医による110を超える症例を基にLCP,LISSの適応となる全身の骨折を網羅。各症例ごとに明快なイラストによる図示とX線写真が必要十分に盛り込まれて,術前計画,進入法,整復と固定,リハビリテーションに至るまで丁重かつ簡潔に解説されている。さらに“手術のコツ(Pearls)と陥穽(Pitfalls)”まで網羅されている。骨折治療の初級者から上級者までの幅広い対象をめざしているAO Foundation出版部の良質なプロ意識がくみ取れる。

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