マーケティング(1) マーケティングって何?(井村洋)
連載
2009.03.16
医長のためのビジネス塾
〔第2回〕マーケティング(1) マーケティングって何?
井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)
(前回からつづく)
今回からは,ビジネス界で活用されている考え方や手法について,私が受講した内容をもとに,主たる対象を中間管理職的立場の勤務医に想定して,伝えていく予定です。
焦点を,開業や院長クラスではなく中間管理職に当てた理由は,次のとおりです。医長クラスになれば,科の運営や将来計画について経営陣と相談・交渉する機会が増えます。その場合に,経営に関するさまざまな考え方・用語・手法などの意味をつかむことができなければ,相互理解の効率性を下げる危険性があります。医長は,「常に何かが起きている現場の課題」と,「常に何かを判断・決断しなければならない経営陣との間」を上手につなぎ,組織の方向性を一定にするための重要な役割を担っています。その医長と経営陣との意思伝達における齟齬は,組織にとっての損失になりかねません。そのような損失をさけるためには,経営陣の視点を共有できるようになることが必要です。
ビジネスで使用されてきたフレームワークの認識は,その目的を達成するために有用なことだと思っています。ビジネス向けの本格的な解説書は,書店にあふれていますので,本稿はあくまでもそこまでのお手伝いをめざそうと思っています。つまり,これまでビジネス雑誌や本に関心を持っていなかった方々が,「役に立つかも? ちょっと参考にしてみよう」という気持ちになっていただくことが目標です。
マーケティングとは
製造販売業に関与していない私たちにとっても,マーケティングという単語を目にする機会は増えています。けれども,「その意味は?」と聞かれると,どう答えますか? 私はよくわかっておりませんでした。社内研修受講中に「マーケティングとは何ですか?」と聞かれたとき,思いついた答えは「上手な売り込み方」「市場調査」「顧客のつかみ方」「販売促進活動」などでした。
日本マーケティング協会が提示している定義は「マーケティングとは,企業および他の組織がグローバルな視野に立ち,顧客との相互理解を得ながら,公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」となっています。が,これでは今ひとつつかめません。
講師から「マーケティングとは,特定市場(顧客)のニーズを理解して,売れる仕組みをつくること」と聞き,ずいぶんすっきりした気分になったことを覚えています。マーケティングの本質は,顧客と企業を双方向的につなぐものであることが,理解できたからです。
医療でも応用が可能なように少し単語を入れ替えてみると,「患者のニーズを理解して,納得できる医療(診療)の仕組みをつくること」になります。昨今の,Patient Centered Careそのものになってきます。
マーケティングの神様的存在である米国のフィリップ・コトラー教授の「人々が求めているものは何か,自社は何を提供するべきか,その答えをあらかじめ探るのが,マーケティングである」というコメントにも,どこかしら医療に通じるものを感じるのは私だけでしょうか。
「売り込む方法」と「売れる仕組みづくり」
表 セリングとマーケティング |
このような差はどこから来たのでしょうか? 時とともに企業と生活者・顧客との関係が変化してきたことが,その理由のひとつのようです。冷蔵庫や車などがまだ一般的ではなく,商品化された当初は,それらを製造して宣伝するだけで,人々の購買意欲をかきたてることが容易でした。その後,これらが必需品として充足してくるにつれて,買い換えてもらわなければ,販売規模は縮小してしまうようになりました。そうならないためには,新たな購買意欲をかきたてる付加価値を探しあてる必要が生じてきたのです。「作れば売れる」から「求められているものを発見(創造)し,顧客にとって価値のあるものを継続して提供する」ようになったのです。
マーケティングの概念を考えると,私は有名なカジュアル衣料品店を想起してしまいます。「広い店舗で内装は明るい,店員は若くてフットワークも愛想もよい,安価で平均点をクリアしている商品が多い,多彩な色を揃えて楽しめる。数種類買ってみようかな,また来てみよう!」。そこには,かなり強力なマーケティング能力を感じる...
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