医学界新聞

2009.03.09

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《神経心理学コレクション》
失行[DVD付]

河村 満,山鳥 重,田邉 敬貴 著
山鳥 重,彦坂 興秀,河村 満,田邉 敬貴 シリーズ編集

《評 者》柴﨑 浩(京大名誉教授/医仁会武田総合病院顧問)

臨床神経学の権威3名が「失行」を語る

 本書は,わが国におけるこの方面のエキスパートの先生方3人が座談会形式で率直に意見を交換して,それをかなり忠実に文章化したものであり,これまでに失行に焦点を絞った著書がないこともあって,極めてユニークな本になっている。神経心理学のなかでも行為は言語に次いでヒトの最も本質的な機能であるにもかかわらず,その障害の発生機序と生理学的基盤は最も謎に包まれている領域である。

 本座談会では,河村満先生が種々のタイプの失行をビデオで提示して,それに対して山鳥重先生と今は亡き田邉敬貴先生が意見を述べ,河村先生が説明を加える形式をとっている。3人の先生の特徴がよく現われていて,河村先生の豊富な経験に裏打ちされた鋭い観察眼と,山鳥先生の理論に裏打ちされた卓越した洞察,それに田邉先生の独特な解釈とが統合されて,読んでいて各先生の表情まで見えるようである。

 特にこの領域は,その現象を言葉で説明してもなかなか理解されにくいことが多いが,その点本書では河村先生が集められた典型的な失行の貴重なコレクションが映像で見事に示されており,文字通り「百聞は一見にしかず」である。

 脳機能が高次になればなるほど,現れる症候にはかなりの個人差がみられ,また一人の患者でも一種類の失行ではなくて,例えば観念性失行と観念運動性失行の要素が混在あるいは重複することもまれでないと考えられる。このような場合に,観察された現象を過去に記載された概念に当てはめようとすると困難を感じることが多く,ともすれば用語を弄ぶことになりかねないが,本書では失行の代表的タイプについて明確に定義し解説してあるので,上記のような混乱を防ぐのに役立っている。

 特に本書では,各章のサブタイトルとして,「ふれる」,「つかう」,「つかむ」,「まとう」,「はなす」,「してしまう」などの日常動作に対して平易な表現が用いられており,その理解と分類に非常に有効と考えられる。

 種々の変性性神経疾患の分類が比較的明確になってきた今日では,血管性局所傷害によって生じた古典的な失行に加えて,広汎な高次脳機能障害に重畳する形で失行がみられることが多い。本書ではそのような変性疾患としてアルツハイマー病,ピック病,皮質基底核変性症などが取り上げられているので,これらは実際の診療に役立つものと考えられる。特に失行に関しては,近年注目されている前頭側頭葉変性症という広汎な概念が重要な位置を占めることが想定される。

 種々の失行症候を理解するには,やはりその背景にある発症機序の解明が重要であることは,本座談会で繰り返し述べられている通りである。将来的には,近年著しく発展した神経科学と脳機能検索技術の発展によって得られた知見との対比,また臨床神経生理学的なアプローチとの併用によって,この方面の理解がもっと進むことが期待される。

 特に,脳磁図や種々の機能イメージング法を用いた機能局在と,コヒーレンスをはじめとする種々の領域間機能連関(functional connectivityおよびeffective connectivity)の知見は失行の理解に直結した情報を与えてくれることが予想される。この座談会が次に企画される時点では,そのような方面からの参加も興味深いものであろう。

 以上,この道の権威者である3人の先生方の座談会はまさに一読に値するものであり,いまから臨床神経学を学ぼうとする人はもとより,この方面に経験豊富な専門医にも自信を持って薦められる書である。特に,理屈っぽい教科書に比較して,口語体になっている点,気楽に親しく読めることが本書の大きな特徴である。

A5・頁152 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00726-9


肝疾患レジデントマニュアル 第2版

柴田 実,八橋 弘,石川 哲也 編

《評 者》上野 文昭(大船中央病院特別顧問))

肝疾患診療のための活きた知識の道具箱

 『肝疾患レジデントマニュアル第2版』が,このたび医学書院より上梓された。本書の初版は,肝疾患診療に携わる研修医必携の書として絶賛され,4年を経てここにバージョンアップされたわけである。新しい知見を豊富に盛り込み,さらに新たな章立ても見られるためページ数は増加したにもかかわらず,価格が据え置きなのは良心的である。編集者・執筆者に多少の変更があるものの,いずれも実際の診療で患者と共に悩み苦労している肝臓専門医という基本線を踏襲していることが,本書を肝疾患診療のための活きた知識の道具箱としている理由であろう。

 明快な構成と随所にちりばめられた多数の図表が,多忙な研修医の理解を容易にしている。若者に媚びるような無駄な漫画やイラストがないのも好感が持てる。冒頭の章,レジデントの心得は,評者も大いに参考にしたいClinical Pearlsである。お説教臭いなどと言わずに,ぜひ心に刻んでいただきたい。

 初版からの編集者代表ともいえる柴田実氏とは旧知の仲である。したがって,そうやすやすと賞賛の言葉を連ねたくない,というのが本心である。そこで意地の悪いあら探しを試みるべく,世界最高のEBM情報ツールとの評価を受けたACP PIERとの整合性を検証してみた。その結果,いくつかの疾患に対する治療に関する項では,若干の解離を指摘できる。しかしこれには理由がある。第1にわが国の保険診療の範囲を考慮しなければならない。第2に,純粋にエビデンスに基づいた記載と,わが国の診療の実情を考慮しながら専門医が意見を加えた解説に相違があるものと思われる。臨床現場で研修医がまず求めるのは後者であろう。結局あまりあら探しにはならなかった。

 本書は肝疾患診療に関する知識を即座に抽出できる実用の書である。研修医へのお奨め度はグレードAである。また,肝疾患を診る機会のある実地医家や若手勤務医にも使い勝手のよい参考書としてお奨めしたい。さらに研修医を教える立場の指導医には,研修指導のポイントを押さえる意味で一読していただきたい。

 最後に評者自身が実感した唯一の欠点を紹介したい。本書は白衣のポケットに入れて院内どこにでも持ち運べるコンパクトなサイズゆえ,眼鏡なしのわが目には文字や図表が小さすぎる。どうやらわれわれの世代は読者対象から外れてしまったようである,残念。

B6変・頁456 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00640-8


脳の機能解剖と画像診断

真柳 佳昭 訳

《評 者》中野 今治(自治医大教授・神経内科学)

神経解剖学に裏打ちされた画像の書

 本書は『脳の機能解剖と画像診断』と命名されている。脳の図譜とそれに対応する脳画像(主としてMRI)が見開き2頁で見やすく提示されている。

 しかし,本書は画像診断のための単なるアトラスではない。「最新...

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