遺書(名郷直樹)
連載
2009.03.09
名郷直樹の研修センター長日記 |
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遺書
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(前回2817号)
□月×●日
いつか,その日が来ることは,間違いない。ただ,いつかはわからない。1分後かもしれないし,5分後かもしれない。1年後かも,5年後かも,10年後ということもある。20年後ということもないではない。ひょっとすると30年後かもしれない。
しかし,いつかわからないなんて,あいまいなことを言わない方法もある。その日は,なんとなれば自分で決めることができるからだ。それはとても魅力的なやり方のようにも思える。そんなやり方のどこが魅力的なのかわからない。多くの人にとっては,多分そうだろう。
唐突だけど,死刑囚のことを考えてみる。死刑囚は,いつ刑が執行されるのか知らされない。それは不安だ。それも刑のひとつか。しかし,死刑がいつ執行されるかわからない死刑囚,というのは,実はわれわれ自身のことではないか。いつその日を迎えるのかわからない。その日がわからないという点では,誰しも死刑囚と同じである。自分の処刑の日くらい,自分で決めさせてくれよ,俺は死刑囚じゃないんだから,そういう理屈である,魅力的というのは。
そう言えば,70歳の誕生日をその日と決めて,その日までに全財産を使い果たすように,老後の生き方を計画していく,という老人を主人公とした小説があった。結末は,主人公自身がボケてきたのか,現実なのかわからないが,わけがわからない話になって,自らその日に,というのとは違う結末だったと思う。そんな遠い先のことを決めたって,結局のところ死刑囚と同じく,いつ処刑されるかわからなくなってしまうということか。自らを処刑する日は,ボケない元気なうちに設定する必要がある。そう考えると,もうどんどんそっちに考えが向かっていって,いっそのこと,まだボケていない今をその日ということにしてしまおうか,ということにもなりかねない。自分でその日を決めるというのが,さらに魅力的な考えに思えてくる。
その日を自分で決めたいという背後には,生存者の罪悪感というのもある。本当は私のほうが先に処刑されるべきではなかったか。そんなことは,誰かが死ぬたびに思うことだ。それもまた,その日を自ら決めるという方向へ自分を引っ張っていく。
そんな魅力的なやり方に対し,多くの人がそうしないのはなぜか。いつ処刑されるかわからない死刑囚のごとく,不安に駆られながら,生き続けるのはなぜか。
ひとつ目の答えは簡単だ。何をしようが...
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