知らざるを知らずとす,再び――ピカソとモンスター患者(名郷直樹)
連載
2009.02.09
名郷直樹の研修センター長日記 |
| ||
知らざるを知らずとす,再び
|
名郷直樹 | 地域医療振興協会 地域医療研修センター長 東京北社会保険病院 臨床研修センター長 |
(前回2813号)
●月□△日
6年が過ぎた。10年が過ぎた,と書いても,大して変わりはない。時は流れ,私も流れる。ミラボー橋の下,セーヌは流れる。時は流れ,私は残る,と言ったのは誰だっけ。私は変わらず,時だけが流れていくというのは,自分は不滅だとでも思ったのだろうか。近代的自我というやつか。あるいは不老不死。永遠の命。一神教。資本主義。消費社会。
途切れることのない毎日,途切れのないことは,発展のしるしか。連続的な発展を続けているだろうか。世の中は? 私は?
「いま,ここ」,漸進的な進歩。「いま」こそ,その進歩の最先端。そんなことがうそだということに,とうにみんな気がついている。むしろ,あるのは漸進的な退化。老化といえばわかりやすい。私も老化すれば,世の中も老化する。時代は,まさに成熟期を過ぎ,老化の時期。その先にあるのは,今の世の中が死んで,新しい世の中が生まれること。連続的というより,断絶した何か新しいもの。農業の時代,工業の時代,消費の時代。次は何か?
文化の時代か。高校時代,世界史を勉強していたときの同級生との会話を思い出す。なぜこんなことを思い出すのか,わからないけど。
「世界史なんか,これからは文化史だけになっていくんじゃないか」
どういう意味だかさっぱりわからなかったが,そうなれば勉強することが一気に減って,受験にとっては都合がいいなあ,そんなばかなことを思っただけだった。30年を経て,彼の発言の意味が少しはわかる。彼には,高校時代にもう見えていたのだ。消費の時代のただ中で,すでにその出口を見ていた。それは,わかるものにはわかる。わからないものにはわからない。これは100円です,と誰にでもわかるような話にならない時代だ。多分。大事なものこそ,値段が付けられない時代。
次は,文化の時代。ピカソが何億。ばかなことを言ってはいけない。値段なんかつけようがない。あんなわけのわからない...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第1回]PPI(プロトンポンプ阻害薬)の副作用で下痢が発現する理由は? 機序は?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.07.29
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
最新の記事
-
対談・座談会 2025.07.08
-
対談・座談会 2025.07.08
-
地域の皮膚・排泄ケアの質向上を実現する
WOCナースのアウトリーチ活動を全国へ対談・座談会 2025.07.08
-
FUSという新たな疾患概念
多様な体型を肯定する社会をめざして
田村 好史氏に聞くインタビュー 2025.07.08
-
インタビュー 2025.07.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。