医学界新聞

連載

2009.03.02

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第146回

有保険患者を待つ落とし穴「差額請求」(2)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2818号よりつづく

前回のあらすじ:差額請求とは,サービス供給側の請求額と保険会社の支払い額の差を,供給側が患者に請求する行為である。いま,米国ではこの差額請求が広範に横行,保険に加入しているにもかかわらず無保険者と変わらない多額の医療負債を抱える患者が急増している。

 差額請求の実例として,前回,ニューヨークの卵巣癌患者の例を紹介したが,2008年,カリフォルニア州では,差額請求をめぐって,州政府と州医師会とが法廷で争う事態が現出した。

 もともと,カリフォルニア州は,救急患者に対する差額請求がさかんな州として知られていた。例えば,同州医療保険協会の調査によると,2004-2005年の2年間に救急受診した患者のうち145万人が差額請求をされ,請求総額は5億7800万ドルに達したとされている(差額請求をされた患者のうち,6割が支払いに応じたという)。いったい,なぜ,カリフォルニアでこうも広範に差額請求が行われるようになったのか,以下,その背景を説明しよう。

カリフォルニア州で差額請求が横行する理由

 本欄で何度も紹介してきたように,米国の医療保険のほとんどは「マネジドケア」と呼ばれる仕組みで運営されている。保険会社が医師・医療施設の選別に始まって医療行為の内容にまで介入する仕組みであるが,そのプロトタイプとなったHMO(health maintenance organization)型の保険の場合,ネットワーク外で医療を受けた場合は一切保険給付をしない決まりとなっている。しかし,救急の場合は,患者に医師や医療施設を選んだり,保険会社のネットワークに所属しているかどうかを確認したりしている余裕はないので,どこの州も,「救急医療の場合はネットワーク外でも保険給付をしなければならない」と保険会社に義務づけている。

 しかし,ここで問題になるのはネットワーク外の医師・医療施設は保険会社とは契約していないので,保険会社が決める料金表に従う義務を負っていないことである。保険会社の支払いが「不当に低い」と思ったら,本来ならば保険会社に対して「もっと払え」と交渉するのが筋なのだが,個々の医師や医療施設が巨大なリソースを誇る保険会社を相手に争ってもなかなか勝ち目はない。そこで,「あなたの保険会社は全部払ってくれなかったから残りをお支払いください」と患者に請求する慣行が生まれたのである。しかし,救急の場合,上述したように患者に医師・医療施設を選別している余裕はない。そこで,ほとんどの州で,救急受診の場合,医師・医療施設が患者に差額請求することを禁じているのだが,カリフォルニア州の場合,州法の規定があいまいであっために差額請求が横行する事態を招来,救急受診後,高額の請求書を送りつけられてびっくり仰天する患者が続出するようになったのだった。

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