医学界新聞

連載

2009.02.09

レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

〔 第11回 〕

失敗ケースから学ぶ! 最初の抗菌薬治療に失敗したら(後編)

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回よりつづく

前回に引き続き,抗菌薬初期治療が無効の場合の対応について勉強したいと思います。

■CASE

ケース(6)

 70歳女性。憩室穿孔による腹膜炎。緊急手術を行い,メロペネム投与。術中の腹水培養で大腸菌陽性のためセフトリアキソンに変更,14日間投与しいったん退院となった。退院1か月後に腹腔内膿瘍形成し経皮ドレナージ目的で再入院。

ケース(7)

 64歳男性。HbA1c12.0とコントロール不良の糖尿病あり。咳嗽,発熱あり,胸部レントゲンで浸潤影。肺炎の診断でレボフロキサシン開始。3日目になっても改善なく,胸部レントゲンの浸潤影の悪化なし。気管支鏡を行うもグラム染色,培養陰性。5日目にようやく解熱,呼吸状態も徐々に改善。この間血糖値は300台で推移していた。

ケース(8)

 60歳男性。ADL自立。急性骨髄性白血病。AMLで化学療法中。発熱性好中球減少症で発熱10日間持続。カルバペネム系抗菌薬投与するも発熱持続。主治医は真菌を考えミカファンギン追加。発熱follow-upの胸部CTで新たな浸潤影。血中アスペルギルス抗原陽性。喀痰培養,気管支鏡下BALでもアスペルギルス陽性。

ケース(9)

 80歳男性。糖尿病性足病変で入院。セファゾリンで治療を行い,いったん改善。その後,PTA施行。長期入院後に再度足病変部悪化し,セファゾリン再開するも改善なく,アンピシリン・スルバクタムに変更。2週間投与し解熱したが局所の排膿は続き,瘻孔形成。骨生検でMRSA陽性。

ケース(6) 2種類以上の起因菌による感染
 このケースでは,腹腔内膿瘍を形成しているため,腸管内嫌気性菌(バクテロイデスなど)を考慮する必要があり,嫌気性菌をカバーしないセフトリアキソンの選択は不適切だったと考えられます。特に,嫌気性菌など培養や同定が難しい微生物が感染に関与している可能性がある場合(膿瘍や腹膜炎など),嫌気性菌陰性でも抗菌薬のカバーを続けることが必要です。このケースでは2世代のセファマイシン系のセフメタゾールを使用した場合,転帰が変わっていた可能性があります。

 このときの対応としては,抗菌薬を併用もしくは変更します。

ケース(7) 免疫不全や糖尿病など宿主防御能の低下
 このケースでは市中肺炎の治療としてレスピラトリーキノロンを選択したことは間違っておらず,治療への反応に時間がかかっています。コントロール不良の糖尿病など易感染性の患者では抗菌薬選択以上に全身状態の管理(この場合,強力な血糖コントロール)が大切になります。また,免疫不全の患者へのキノロン投与は“結核をマスクする”ことも覚えておくとよいでしょう。そのため,このケースで抗菌薬中止後に肺炎がぶり返したり,微熱が持続する場合,肺結核を合併していた可能性も探る必要があります。

 このような場合は,健...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook