医学界新聞

2008.10.27

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


消化器内視鏡リスクマネージメント

小越 和栄 著

《評 者》金子 榮藏(浜松医大名誉教授・消化器内科学)

消化器内視鏡に携わるすべての医療者に

 素晴らしい本が出た。消化器内視鏡の分野で長年指導的活躍をされてきた小越和栄先生による『消化器内視鏡リスクマネージメント』である。著者はERCPの開発者の一人であり,日本消化器内視鏡学会の各種検査やリスクマネージメントのガイドライン作成において中心的役割を果たし,さらに学会が5年ごとに行っている偶発症全国調査の委員でもあった。

 全国集計のデータにみるように,内視鏡の分野は常に事故の危険をはらんでいる。高齢社会になり,かつ消化器内視鏡の目的が診断から治療へと大きくシフトしつつある昨今,偶発症の危険は今後さらに大きくなる恐れがある。そのような背景があって消化器内視鏡学会が作成してきた,安全に内視鏡検査を行うためのガイドラインも「消毒法ガイドライン」に始まり,最近の「抗凝固剤,抗血小板薬使用に関する指針」までの6つで一応の区切りをみた。この時期にこれらすべてのガイドライン作成にかかわり,その多くで委員長を務められた著者が,ガイドラインをより深く理解し,よりよい利用法をめざして本書を著したのは極めて大きな意義を持つものである。

 全体の構成は,「内視鏡医療でのリスクマネージメント」「インフォームド・コンセント」「消化器内視鏡機器の洗浄」「内視鏡検査前の準備,前・後処置」「内視鏡治療時の抗血栓療法症例への対応」「呼吸・循環動態モニタリング」「術中の注意および事故防止策」「臨床に必要な法律」の8章に分かれている。

 内容の一部に触れると,初めの2章ではガイドラインと医療水準の意義,インフォームド・コンセントのあり方と法的根拠などが,インフォームド・コンセントの具体的な例とともに示される。続く「消毒法」では,学会のガイドラインがup-dateされ,最近の過酢酸や酸性電解水なども含めたすべての方法の得失が詳細に述べられ,安全な消毒室の設計にも触れられている。「前処置」では,降圧剤などの検査当日の服薬への対応,消泡剤の効果的な使用法,咽頭麻薬,鎮静剤の安全な投与法などが示され,日常ルーチンに行っている手技でもさらによい投与法のヒントが得られるであろう。「抗血栓療法剤」では,欧米人と日本人の抗血栓剤に対する反応性の違いから,わが国独自のガイドラインが作成された経緯と服用者への対応が具体的に示されている。

 全体の記述は極めて実践的であり,さらに各章の終わりには要点がQ&A形式でまとめられ,理解をより容易にしている。日ごろ疑問に思っている点の多くが本書によって解決されることは間違いない。著者が述べるように,ガイドラインは単に事故なく検査を行うためだけのものでなく,質が高くかつ患者が満足する医療を提供するための指針である。本書を通読し,筆者も教えられることが多々あった。本書は,消化器内視鏡に携わるすべての医療者の必読の書であることを強調したい。

B5・頁144 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00604-0


呼吸理学療法標準手技

千住 秀明,眞渕 敏,宮川 哲夫 監修
石川 朗,神津 玲,高橋 哲也 編

《評 者》松永 篤彦(北里大教授・理学療法学専攻)

呼吸理学療法の正しい理解と適応のために

 2002年度に行われたNippon COPD Epidemiology(NICE)Studyの報告によると,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の有病率は40歳以上で8.5%(男性13%,女性4%,約530万人)にも及ぶことが示されている。これは,ほぼ同時期に厚生労働省が報告したCOPD有病者数(約23万人)とは大きな隔たりがある。

 NICE Studyの報告は有用な診断法の一つであるスパイロメーターを用いた推計調査であるのに対して,厚生労働省の報告は医療機関で診断を受けた実態調査であることを考えると,約500万人近くの成人者が専門家による適切な診断とケアを必要としていることになる。

 また,日本ではCOPDのほかに肺結核後遺症者など多くの呼吸機能障害者が存在すること,さらには外科術後者の呼吸器合併症を予防する目的から,専門的な知識と技術を有したリハビリテーション(リハ)スタッフの育成が急務となっている。

 こういった社会的ニーズが拡大する中,2006年4月に大幅な診療報酬改定が行われ,呼吸機能障害に対するリハ(呼吸リハ)は脳血管疾患等,運動器および心大血管リハとならんでリハ医療の中で大きく位置づけられ,この領域の専任スタッフとして理学療法士が配置された。つまり,理学療法士には,呼吸機能障害の病態を正しく理解することはもとより,呼吸理学療法(治療手技)を正しく適応し,その介入効果を科学的根拠に基づいて検証する能力が求められている。

 このような状況の中で,この度,医学書院から『呼吸理学療法標準手技』が発刊された。監修にはこの呼吸理学療法の発展に長きにわたり貢献されてきた千住秀明氏,眞渕敏氏および宮川哲夫氏があたられ,編集には第一線の医療現場で呼吸理学療法を実践されてきた石川朗氏,神津玲氏および高橋哲也氏が担当されている。

 先に挙げた監修と編集にあたられた先生方は,日本理学療法士協会の内部障害系理学療法研究部会呼吸班のメンバーであり,私が知る限り,それぞれが個別のテーマで,呼吸理学療法に関係する著書を数多く手がけられている。本書の編集に,これらの代表者が結集してあたられたことは,呼吸理学療法の定義,用語,手技および適応を統一しようという意図が明確にうかがえる。

 また,リハ医療の重要性は疑う余地はないものの,その治療手技や適応と効果についてはいまだ不明な点が多いことが指摘されていることから,本書の発刊の意義は大きいと思われる。

 本書は,発刊の目的に基づいて忠実に構成されており,呼吸理学療法の定義と目的を明示したうえで,治療手技を目的別と項目別に明確に解説している。また,呼吸管理として「吸引」と「誤嚥の予防と対応」が詳述されていることは,他の関連書籍にはない構成となっている。そして,後半には典型的な症例を提示し,病態に対する適した(正しい)治療手技が解説されている。

 先に述べたように,社会のリハ医療に対するニーズに応えていく一環として,呼吸理学療法を正しく理解し,適応していく必要がある。本書はそれを念頭に置いた著書だけに,これから呼吸理学療法を学ぶ方はもちろんのこと,すでに呼吸理学療法の臨床経験を積まれた方も,常に本書を手元に置き,研鑽を積まれることを強くお勧めする。

B5・頁208 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00076-5


細胞診セルフアセスメント 増補版

坂本 穆彦,都竹 正文 編
坂本 穆彦,都竹 正文,古田 則行,星 利良 執筆

《評 者》福田 利夫(群馬大教授・応用検査学)

細胞診断学に携わる方々必携の書

 本書の初版は1998年に発刊されています。たかが10年前と思われますが,本書の姉妹書にあたる『細胞診を学ぶ人のために』の初版から約8年後のことです。

 『細胞診を学ぶ人のために』は病理組織学と細胞診断学とを有機的に結び付け,わかりやすく解説した教科書として,国内で細胞診を“学ぶ”人たちの新しいスタイルの教科書として好評を持って迎えられ,15年間に3回の改訂が行われて現在の4版に至っています。

 本書『細胞診セルフアセスメント 増補版』は細胞診の知識の習得度を自分で確認するための設問集という形態をとっており,『細胞診を学ぶ人のために』で学んだ知識を実際の症例と問題を用いて確認できるように五肢択一式の画像スライド問題と学科問題の2部で構成されています。

 第1部のスライド問題では,婦人科・呼吸器領域の病変に始まり,消化器,泌尿器,乳腺,甲状腺,リンパ節,骨・軟部,体腔,中枢神経系など,細胞診の対象となるすべての領域について,典型例の細胞像の明瞭な写真と明解な解説がセットで掲載されており,実際の試験形式で学ぶことができます。

 なお,今回の増補版では子宮頸部の液状検体も掲載され,ベテスダシステムでの解答と解説があり,最新の技法と診断基準についての知識の確認もできます。

 第2部の学科問題では検体処理,染色,観察,細胞形態,病変の基礎知識に始まり,婦人科領域,非婦人科領域に分けて,細胞診に必要な,解剖学的,組織学的,生理学的,病理学的知識に始まり,各種病変の細胞所見についての知識の確認ができます。今回の増補版では,問題の取捨選択が慎重に行われ,全体のおよそ3分の1の問題について,改変,追加,削除が行われ,より適切な設問を解いていくことにより,確実な知識を身につけることができます。

 本書の初版発行から10年の間に「癌(腫瘍)取扱い規約」の改訂に伴った用語の変更,腫瘍の概念の変遷も起きており,増補版では,それらを忠実に取り入れて用語の変更も行われました。例えば,腺棘癌は腺棘細胞癌に,未分化胚細胞腫は未分化胚腫に名称が変わり,消化管の平滑筋肉腫と呼ばれたものは消化管間質腫瘍と訂正され,最新の知識を確認することができます。

 今回の増補版の編集,執筆も坂本穆彦教授,都竹正文氏を中心に綿密に行われました。都竹氏が増補版の完成前に病魔により逝去されたのは残念至極ですが,日本を代表する細胞診専門医,細胞検査士の相互協力の下に初版のみならず,増補版が編集された意義は大きく,診断はもとより専門医,細胞検査士の教育にも両職種のコラボレーションがなくてはならないことを本書をもって示されたものと思われます。

 現在,細胞診に関して比較的新しい内容の教科書やアトラスが国内に数種出版されていますが,本書のように細胞検査士や細胞診専門医・指導医をめざす人々にとって,知識の習得度を自分で確認するための設問集として版を重ね,最新の内容が充実している教科書は他に類を見ないものです。編集,執筆を担当された方々の大変なご努力によって改訂されたこの『細胞診セルフアセスメント』を細胞診断学に携わる方々の必携の書としてぜひお薦めしたいと思います。

B5・頁248 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00655-2

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