医学界新聞

連載

2008.10.06

レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

〔 第7回 〕

抗菌薬にアレルギーがあったらどうするか?

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回よりつづく

 今回はペニシリンアレルギーの考え方とその対応の仕方について勉強します。

■CASE

ケース(1)発熱,咽頭痛でER受診した30歳男性

 ADL自立した30歳男性。1日前からの発熱,咽頭痛でER受診。診察で39度の発熱,扁桃腫脹,頚部リンパ節腫脹あり。溶連菌迅速テストも陽性。患者は以前にかぜで受診したとき,サワシリン®(アモキシシリン)で全身の発疹が出たという。

ケース(2)下腹部不快感,排尿時痛でER受診した45歳男性

 ADL自立した45歳男性。3日前からの発熱,腹痛,下痢でER受診。1週間前に生の鶏肉を食べたという。38度の発熱。臍周囲の圧痛あり。便のメチレンブルー染色で白血球+。患者はセフゾン®(セフジニル)にアレルギーがあるという。

ケース(3)右足の発赤,腫脹,熱感でER受診した55歳男性

 ADL自立した糖尿病の既往のある55歳男性。3日前より右足背から第2足趾にかけて発赤,腫脹,熱感ありER受診。右足背から第2足趾にかけて4×4cm大の紅丘疹あり。患者はオーグメンチン®(アモキシシリン・クラブラン酸カリウム)でショックになったという。

ケース(4)排尿時痛,尿意切迫感,頻尿でER受診した40歳女性

 ADL自立した40歳女性。2日前からの排尿時痛,尿意切迫感,頻尿でER受診。発熱なく,尿検査で白血球+,細菌+。尿グラム染色でグラム陰性桿菌の貪食像あり。患者はサワシリン®(アモキシシリン)でじんま疹がでたという。

ケース(5)ネコ咬傷後に発熱,前腕腫脹でER受診した25歳女性

 ADL自立した25歳女性。半日前に飼いネコに右前腕をかまれた。家で様子をみていたが,熱感,腫脹,疼痛あり。また38度の発熱もあったためER受診。

 当直のレジデントは,高圧洗浄,デブリドメントを行い,抗菌薬を処方しようとしたが,その女性は以前サマセフ®(セファドロキシル)でアレルギーが出たという。

ペニシリンアレルギー患者の前で
 「ペニシリンアレルギーがあるのですが……」と言われたときにどのようにアプローチしたらよいでしょうか。

 皮内テストをしてみますか? 残念ながら臨床現場では役に立ちません(MEMO(1)参照)。

 それでは,異なるβラクタムであるセフェムのチャレンジテストを少量から始めますか? 理論的には正しいかもしれませんが,現実の臨床現場ではこれも役に立ちません。

 そう考えると,実践的な考え方としては,「異なるクラスの抗菌薬で同様のスペクトラムを持っているものを選択すること」が重要になります。

ペニシリンアレルギー患者へのアプローチI:病歴はIgEを示唆するか?
 ペニシリンアレルギーの既往がある患者へのアプローチは詳細な病歴聴取から始まります。特にアレルギー反応がIgEを介する反応かどうかを考える上で,以下の2点を重点に聞きます。
・投与された薬剤はなにか?
・その薬剤の投与経路と症状発現までの時間はどのくらいか?

 その上で,症状として投与15秒~30分後に,(1)じんま疹,(2)上気道狭窄,(3)喘息,(4)ショックなどがあればIgEを介したアレルギー(アナフィラキシー)が疑われます(アナフィラキシーへの対応はMEMO(2)参照)。

 しかし発熱や全身性の発疹(特に紅斑や丘疹)はIgEの可能性が低くなります。

<MEMO(1)抗菌薬皮内テスト> <MEMO(2)アナフィラキシーへの対応>
・ペニシリンもセフェムも国内での皮内テストは陽性なら意味があるかもしれないが,陰性だと“まったく”あてにならない
・抗菌薬皮内テスト陰性患者でアナフィラキシーショックが起こったケースが報告されている
・そのため,約3年前に抗菌薬点滴投与前の皮内テストは廃止になった
・内服抗菌薬には当然のごとく皮内テストなど存在しない
・原因となる薬物などを服用,点滴,吸入して15-30分で起こるIgEを介したアレルギー反応をアナフィラキシーという
・症状は,(1)じんま疹,(2)気道狭窄,(3)喘息,(4)ショック,がメイン
・治療は,(1)何といってもエピネフリン!,(2)次に気道確保!,(3)次に大量輸液! 抗菌薬を頻繁に使う医師はアナフィラキシーへの迅速な対応をマスターすることを避けては通れない

ペニシリンアレルギー患者へのアプローチII:致死的な薬疹か?
 今までに,Stevens-Johnson症候群,Toxic epidermal necrolysis(TEN)といった粘膜病変を伴う薬疹――つまり熱傷様薬疹や入院加療が必要な薬疹といった病歴があれば,その薬物の再投与は決して行ってはいけません。

ペニシリンアレルギー患者への抗菌薬処方が必要なときの対応
 上記の2点にあてはまらなければ,患者の言う「ペニシリンアレルギー」の可能性は低くなります。

 しかし,ERや一般外来など,病棟と違って常に医療従事者の監視下にない状況で,不十分な患者の記憶や限られた時間の中で抗菌薬処方を行わなければならない場合は,万一の場合も考慮して可能な限りアレルギーを起こす抗菌薬(ここではβラクタム系といわれるペニシリンやセフェムを指します)を避けるべきと考えます。

 ペニシリンアレルギー患者への抗菌薬処方がどうしても必要な場合,同様の抗菌スペクトラムを持つ他のクラスの抗菌薬を処方することが重要です。そのため想定している感染臓器,起因微生物に十分活性がある抗菌薬として第2選択,第3選択として何があるのかを常に考えておく必要があります。

 βラクタム以外の内服抗菌薬を表1のようにスペクトラムごとに整理しておくと非常に有用です。

表1 臨床での抗菌スペクトラムごとの抗菌薬分類

a.グラム陽性菌用内服抗菌薬
マクロライド系:クラリシッド®(クラリスロマイシン)
テトラサイクリン系:ビブラマイシン®(ドキシサイクリン),ミノマイシン®(ミノサイクリン)
リンコマイシン系:ダラシンカプセル®(クリンダマイシン)

b.グラム陰性菌用内服抗菌薬
ホスホマイシン:ホスミシン®(ホスホマイシン)
ST合剤:バクタ®(トリメトプリム・サルファメトキサゾール)
ニューキノロン系:シフロキノン®(シプロフロキサシン)

c.グラム陽性+グラム陰性菌用内服抗菌薬
ニューキノロン系:クラビット®(レボフロキサシン)
マクロライド系:ジスロマック®(アジスロマイシン)

d.嫌気性菌用内服抗菌薬
リンコマイシン系:ダラシンカプセル®(クリンダマイシン)
メトロニダゾール:フラジール®(メトロニダゾール)

e.グラム陽性+グラム陰性+嫌気性菌用内服抗菌薬
ニューキノロン系:アベロックス®(モキシフロキサシン)

ケースをふりかえって
 各ケースでの想定される起因菌,選択すべき抗菌薬,について表2にまとめます。微生物ごとのスペクトラムに注意し,ペニシリン,セフェムといったβラクタム系ならどの抗菌薬か,それ以外の選択肢として何があるかを注意しながら考えてみてください。

表2 各ケース((1)-(4))での想定される起因菌と選択すべき抗菌薬
  ケース(1):急性咽頭炎・扁桃炎 ケース(2):急性細菌性下痢症 ケース(3):蜂窩織炎 ケース(4):急性膀胱炎 ケース(5):動物咬傷-ネコ咬傷
想定される起因菌 GPC:A群溶連菌 GNR:赤痢,サルモネラ,カンピロバクター GPC:黄色ブドウ球菌,A/B群連鎖球菌 GPC:腐性ブドウ球菌
GNR:大腸菌
GPC:A/B/C群連鎖球菌,黄色ブドウ球菌
GNR:パスツレラ
嫌気性菌:フゾバクテリウム
選択すべきβラクタム抗菌薬 サワシリン® ,サマセフ® フロモックス® ,セフゾン® ,メイアクト® サマセフ® サマセフ® ,フロモックス® ,セフゾン® ,メイアクト® ,オーグメンチン® オーグメンチン®
選択すべき非βラクタム抗菌薬 クラリシッド® ,ダラシンカプセル®
※マクロライド処方の際は連鎖球菌の耐性率70%以上であることを意識する!
シフロキノン® ,クラビット® ,ジスロマック® ,バクタ®
※微熱,腹痛,血便のE. coli O-157では抗菌薬は原則禁忌
ダラシンカプセル® ,クラリスロマイシン®
※マクロライド処方の際は連鎖球菌の耐性率70%以上であることを意識する!
シフロキノン® ,クラビット® ,バクタ® ,ホスミシン® ビブラマイシン® (+ダラシンカプセル® ),アベロックス® ,バクタ® +ダラシンカプセル®

Take Home Message

●ペニシリンアレルギー患者の病歴聴取は「IgEを介する反応かどうか」,「致死的薬疹かどうか」の2点にフォーカスを絞る。
●ペニシリンアレルギーといっても,上記2つに合致しない場合の発熱,薬疹は基本的に問題にならない。
●しかし,“Do no harm”の姿勢で,抗菌薬を処方するすべてのレジデントは,ペニシリン・セフェム以外の代替薬を,(1)微生物スペクトラムごとに,(2)各臨床感染症ごとにきちんと整理しておきたい。

つづく

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