医学界新聞

2008.08.25



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床研究マスターブック

福井 次矢 編

《評 者》堀内 成子(聖路加看護大教授・母性看護学)

忙しい医療者のための臨床研究の手引書

 コクラン共同計画が,国民保健サービスの一環として始まりEBMが浸透していった英国でこの原稿を書いている。ICM(国際助産師連盟)評議会への出張で会議漬けだが,気がかりなものをカバンに入れてきた。一つは締め切りが迫っているこの書評であり,もう一つは戻ってきたばかりの英文論文の査読結果である。指摘事項は,予測していなかった内容なので返答に時間が必要で,少し憂うつな気分だ。

 『臨床研究マスターブック』の著者7人のうち5人が所属している聖ルカ・ライフサイエンス研究所臨床疫学センターは,聖路加国際病院のグループ施設である。提供する医療の質を高めるために設置され,スタッフは自ら臨床研究を行うだけでなく,医療にかかわるすべての人々が行う研究をサポートする体制がとられている。本書は,日常診療の中にEBMの手法を取り入れ,世界中の研究成果を手中に入れながらベスト・プラクティスは何かを追い求めている著者らの力強い言葉が詰まっている。忙しい診療業務の合間をぬった研究活動は容易ではないが,世界中の医療者に引用され日常診療やケアに活用される研究成果を発信してほしいという研究者マインドを持った医療者である著者らの熱い思いが伝わってくる。

「手引書」としての実用性
 診療やケアの中からふつふつと湧き出てきた問題からリサーチクエスチョンを導き出し研究計画を作成,そしてEBMの手法に基づいて,PICOTT(Population, Intervention, Comparison, Outcome, Type of Question, Type of study design)にまとめ,情報検索に進む,など具体的な手順が冒頭に示されており入りやすい。また最新データベースの活用法がステップごとに表示されているため,業務に忙殺され図書館や研究論文の検索から遠のいていた医療者には,救いの手引である。さらに臨床疫学に必須な統計分析の章では,実例が数多く提示され,検定や解析の詳細を示す論文がリストされているのは心強い。

 再確認したのは,臨床研究の計画から実施,論文執筆まで,診療の傍らに行うには,研究チームが必要だということ。聖路加国際病院が姉妹協定を結んでいるMDアンダーソン・メディカルセンターでは,IRB(Institutional Review Board)への研究計画書の提出時には,担当する生物統計研究者のサインがないと受理されないと聞いた。既存研究では見出せなかった意味のある研究を,適正な方法論を用いて実施することが,今求められている。

臨床研究の薦めと心得
 英語論文の執筆では,剛速球のように素早さとスマートさが要求され...

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