医学界新聞

2008.06.23



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


外来がん患者の日常生活行動支援ガイド

小野寺 綾子 編

《評 者》吉田 みつ子(日赤看護大准教授・基礎看護学)

患者である当事者の“リアリティ”に迫る

 3年前に乳がんの温存手術を受けた女性が,笑いながら話してくれたことがある。手術後,傷痕を見るのも触るのも恐くて,直視できるようになったのが1年後。受診のたびに,再発しているのではないかと心配で,ちょっとした身体の変化にも“再発”の文字が頭に浮かぶ。あるとき,お風呂で鏡を見ると,傷痕の近くの皮膚が黒く変色し,ザラザラしているのを見つけた。翌日受診し,緊張しながら主治医に訴えたところ,次のような一言を言われた。「これは垢ですよ。お風呂で洗ってますか?」拍子抜けしたのと同時に恥ずかしさで顔が真っ赤になった。手術後一度も洗っていなかったのだ。触っていいのかどうかも分からず,さっとお湯で流すだけだった。医師から,これからは普通に洗ってくださいと言われ帰宅した。

 この女性患者の体験について,ナースが退院前にきちんと説明しているはずではないか? などという専門職からの声が聞こえてきそうだが,実際には患者には伝わっていないことが多い。では,なぜこのようなことが起こるのか。それは私を含め,ナースが患者である当事者のリアリティに迫りきれていないことに尽きるのではないか。われわれは専門家として持っている知識は多いかもしれないが,当事者からみたときに,さまざまな苦痛や心配ごとが身体の反応としてどのように現れるのかを知らないからではないだろか。

 『外来がん患者の日常生活行動支援ガイド』を読み,改めてその思いを強くさせられた。本書の「食べる」という項の中に「食べにくい」という見出しを見て,まさにこれだと思った。専門職にとっては“摂食・嚥下困難”であっても,当事者にとっては「食べにくい」という体験として現れるのだ。食べにくいことの要因や理由は病態や治療の影響によって説明ができる。しかし,食べにくいという体験は,当事者の身体感覚に現れる今までとは違う“つっかかるような喉ごし”や,“舌のざらつき”として体験されるのである。しかし,実は患者自身にも何がどのように現れるのかは分からないことが多く,体験して初めて実感されることも多いという。胃全摘を受けた男性は「何が食べられて何が食べられないのか,毎日が実験です。身体がちゃんと反応してくれるんです。その日の体調によっても違います」と言う。

 本書には,高度な専門的知識が盛り込まれているわけではないので,物足りないと感じるナースも多いかもしれない。しかし,がん患者の支援において,もっとも重要な「当事者の視点に立つ」ということを改めて気付かせてくれる1冊である。「眠れない」「思うように動けない」「やる気が起こらない」と,その見出しは,神奈川県立がんセンターで多くの患者の体験に迫ろうと努力し,支援してきた著者らの経験に基づいたものだと思う。ナースは患者の当事者としての体験にもっと近付き,共に患者の身体に埋め込まれたさまざまな知恵を掘り起こす作業を大事にし,それらに基づいたケア方法を患者支援の学として構築していくことが課題ではないだろうか。

B5・頁132 定価2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00483-1


ベイツ診察法

福井次矢,井部俊子 日本語版監修

《評 者》日野原 重明(聖路加国際病院名誉院長)

世界に広がる名声診察法の入門書

 このたび,聖路加国際病院の福井次矢院長と,聖路加看護大学の井部俊子学長の監修により『ベイツ診察法』がメディカル・サイエンス・インターナショナルから出版された。アメリカの看護師は学生時代から,看護のレベルを上げるために患者の基本的な診察と病歴取りの技術の学習が必修とされ,基礎看護学と同時に,この『ベイツ診察法』で学習している。この種の分かりやすい診察法のテキストは,アメリカではほかに何冊も出版されているが,『ベイツ診察法』は,初版(1974年)以来版を重ねて出版され,その名声は世界に広がっている。

 本書はきわめて分かりやすく書かれてあるので,アメリカでは医学生や研修医にも読まれているが,もともとはナースのために書かれたものである。

 ナースが入院患者の看護を行う場合,まず医師に患者の身体所見や病歴の情報を提供することがアメリカでは常識となっている。本書に書かれたような診察法で得られた情報はまず医師に提供され,また医師が取った所見をナースも受ける。そのような性格の所見を患者から取ることを理解したうえで,提供する看護こそ,最高の看護となるのである。

 920頁にも及ぶ本書の中には,患者から病歴を取った後,患者の各系統の器官が示すバイタルサインをナースが的確に捉えることのできる技術が分かりやすい図解と説明によって示されている。

 ナースは,入院した患者を裸にして全身に現れるバイタルサインをどのようにして取るか,それを所定用紙や電子チャートにどう記載すべきかが実に分かりやすく書かれている。その所見を示す身体の解剖生理までもが解説されているので,診察行為の意義がナースにもよく分かるのである。

 診察法は実物の写真で示され,必要な表や数字も添えられている。身体診察を行いつつ,その意義をどうアセスメントすべきかも示され,これによりナースは看護計画が立てられるのである。

 UNIT1には身体診察と病歴取りの基礎,UNIT2には身体の部位別の診察法,またUNIT3には,小児,妊娠女性,老年の診察法が書かれている。

 この分かりやすい,微細に行き届いて書かれた『ベイツ診察法』は看護学生や医学生,さらにはコメディカルの研修生がこれをよすがに診察法のABCを学ぶことができるのである。本書が多くの看護学生,臨床ナース,研修医にいたるまでの必読の書として広く読まれることを私は強く期待している。

A4変・頁920 定価9,450円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp