3年目を迎え病院全体に根づいた臨床研修(東京都立府中病院)
2008.06.23
3年目を迎え病院全体に根づいた臨床研修
東京都立府中病院(東京都府中市)
東京都では2006年度に府中,墨東,八王子小児の3都立病院で,入職後3か月間の新人看護師臨床研修を導入した。各施設が機能特性を考慮しながら独自のカリキュラムを立案・実施した結果,離職率が大幅に低減した。研修期間中は病棟にはいても定員外の扱いになることから,現場の負担は決して軽いものではないが,その教育効果から現在ではすべての都立病院(11施設)に臨床研修が導入されている。研修3年目を迎えた都立府中病院にお話を伺った。
――研修導入の背景をご紹介ください。
岩品 当院に「東京ER・府中」が設置された2002年頃から看護師の離職が急増し,問題となりました。対策として5年目以上のベテランをプリセプターとしましたが,歯止めがかかりませんでした。2005年度には新人看護師の離職率は23%(26名採用,6名退職)と非常に高いものでした。
本間 そこで2006年度から,離職防止を最大の目的に,正規職員の新人看護師に対する3か月間の臨床研修をスタートしました。
2005年までは約10日間の東京都による局研修と院内での集合研修が終了するとすぐ病棟配属になっていました。教育は病棟のプリセプターに任せられていましたが,いきなりプリセプターによるOJTでは,昔ながらの徒弟制度になってしまうという反省から,段階的な研修プログラムを立案し,プリセプター制度は残しながら,専任体制ではなく病院全体での育成を目標にしました。
3か月間は定員外,そして最初の1か月は病棟に配属せず,研修を通じてどの病棟に適性があるかを自分自身で判断してもらい,希望をもとに配属を行います。
岩品 研修プログラム(表1)の内容ですが,最初に技術に関する集合研修を5日間行います。安全・感染管理,採血や与薬・輸液などを時間をかけてトレーニングします。その後2週間の基礎研修では2-3人1グループで,患者は受け持たずに内科・外科系病棟を1週間ずつローテーションして,基礎研修期間に習得を目標としている技術項目(表2)を,先輩の後について繰り返し練習します。
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表2 基礎研修で習得する技術項目 |
本間 期間は短いですが内科・外科をローテーションするところが特徴です。06年の導入当初は2週間ずつ計4週回っていましたが,期間が長く病棟の負担が大きいという評価がありました。そこで思い切って期間を半分に減らして,新人に技術を得た喜びを感じてもらうことを主眼に,技術項目に絞って集中的に学ぶことにしました。
技術項目は看護基礎技術のなかからすぐに必要となる9領域36項目をプリセプターが中心になって選定しました。この項目や効果について新人にアンケート調査したところ,たった2週間でも自信がついたという結果が出て,2週間の技術習得率は83%という結果が出ています。ここで自信がついた技術は,将来にわたって残っていくと考えています。
岩品 この2週間の終わりに配属発表があります。配属希望は基礎研修2週目の中ごろに取ります。本当は基礎研修が終わってから取りたいのですが,翌週から配属病棟で臨床研修に入りますので,現状がぎりぎりのタイミングです。
杉浦 配属直後,5月上旬の1週間は,臨床研修Ⅰとして1名の患者さんを受け持つことからスタートします。その後,5月末までに段階的に複数の患者さんを受け持ちながら,看護の優先順位の感覚を養います。3か月目の6月には休日勤務,夜勤を先輩と一緒に経験して,ひとり立ちとなります。
本間 臨床研修導入前・後の新人を対象に,研修終了後の技術習得状況をアンケート調査したところ,導入前よりも習得率のばらつきが少ないという結果を得ました。新人全員に格差なく技術指導ができていることの現れかなと分析しています。
――院内の評価はいかがですか。
本間 昨年6月末に行った「基礎研修中の病棟ローテーションの有効性」に対する5段階評価では,新人4.7,指導者(プリセプター)3.8とかなり高いポイントを示しています。しかし,実は導入初年度の指導者からの評価は2.1ととても低いものでした。
杉浦 以前は,すぐに配属になるので病棟の特徴に合わせた指導をすることができたという思いが強く,「なぜ4週間も無駄にするの?」などという声が初年度は大変多く聞かれました。研修の意義が病院全体に伝わっていなかったのですね。
当時,私は受け入れ側の病棟看護長でしたが,配属された1年生の顔が以前とはまったく違っていました。配属前のローテーションで病院の雰囲気に慣れているし,研修を通して職員ともかなり面識があり,余裕が生まれていたのですね。
それに,基礎研修の2週間で採血などの基礎的な技術をトレーニングしているから,配属早々に褒められることがあるんですよ。...
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