MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.05.19
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


葛西 龍樹 監訳
《評 者》津谷 喜一郎(東大大学院教授・医薬政策学)
「おかえりクリエビ。でも変わったね。」
“Clinical Evidence”(CE,クリエビ)は英国医師会出版部(BMJ Publishing Group)が作成している全世界的に定評のあるEBM支援ツールである。以前,他社からフルテキスト版の日本語訳が3回発行されたが,諸事情によりその後発行が途絶えていた。このたび医学書院から,原書第16版の「コンサイス版」が日本語版として発行されたことを,まずは歓迎したい。
クリエビの原書は,IT技術を駆使して複数のメディアと構成で提供されており,そのことも革新的ではあるのだが,そのなかでの日本語版の本書の位置づけがわかりづらくなっている。ここでは,本書の位置づけを中心に述べよう。
クリエビは1996年6月から,毎月更新されるオンライン版と,半年ごとに改訂される冊子体(フルテキスト版)が発行されてきた。さらに2002年12月発行の第8版からは,エビデンスの要約のみを掲載したコンサイス版の冊子体が発行された。この「3本立てスタイル」は2006年6月発行の第15版まで続く。しかし,年々記載内容が増大し,あまりに厚くなりすぎたため,フルテキスト版の冊子体は2006年12月発行の第16版から廃止された。このため詳細なデータまですべてを掲載した「フルテキスト」はオンライン版のみで参照可能となり,冊子体の発行は簡潔なコンサイス版のみに一元化された。さらにこのコンサイス版は2007年から“BMJ Clinical Evidence Handbook”と名称が変わり,版番号(issue number)もなくなった。
今回の訳は原書第16版のコンサイス版(すなわち名称としては最後の「コンサイス版」)を基にしている。本書では臨床に携わる医師にとって一番知りたい部分,すなわちエビデンスの要約部分のみを掲載し,詳細なデータは省略されている。日々多忙な医師にとっては,知りたいことのみがすぐわかる本書の構成はありがたい。しかし原書コンサイス版では文献が掲載されておらず,“Please refer to clinicalevidence.com for full text and references”とオンライン版の参照を誘導されるのみである。クリエビの日本人読者は,おそらくはエビデンスの基になった文献を知りたいのではないだろうか。そこで,本書ではオンライン版からの文献が掲載されている。さらにフルテキスト版第15版の用語解説(glossary)の訳もつけてある。このようにコンサイス版をそのまま翻訳出版するのではなく,日本語版読者の便宜を考えたつくりであるのがうれしい。
本書では日常よく遭遇する全26領域226疾患について,その臨床上の疑問に答えるかたちですべての治療的・予防的介入の効果が「有益である」「有益である可能性が高い」「有益性と有害性のトレードオフ」「有益性に乏しい」「無効ないし有害である」「有益性不明」の6つのカテゴリーに分類されている。「有益性不明」が多いが,むしろそれがわかることが有用である。介入効果が不明なのは,自分の知識の不足ではなく,エビデンスの不足によるものだと知ることができるからである。
EBMの実践とはいっても,時間もなく,文献検索や批判的吟味(critical appraisal)などなかなか行えないのが普通である。本書はsystematic searchとpre-appraisalによって臨床の場の意思決定を支援するツールである。読者は本書に示されたエビデンスを基に,個々の患者への適用性を判断すればよい。一人でも多くの読者が本書を利用することで,よりよい医療を提供する助けとされることを望みたい。
A5変・頁1432 定価11,550円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00395-7


奈良 勲 シリーズ監修
網本 和 編
《評 者》杉本 諭(つくば国際大教授・理学療法学)
エビデンスに基づいた物理療法学の最新テキスト
標準理学療法学シリーズの『物理療法学』が3年ぶりに改訂され,このたび第3版が出版された。理学療法の臨床現場において,牽引装置やホットパックをはじめとした物理療法機器を目にすることは多く,物理療法は運動療法とともに理学療法の両輪をなす治療法である。しかしながら昨今の医療保険制度の改定により,消炎鎮痛の保険点数の削減や運動療法の治療期間の制限の影響を受け,理学療法における物理療法の実施頻度は以前よりも少なくなっているように思われる。このような医療保険点数の削減は,全体的な医療費削減の流れによるものだけではなく,物理療法の治療効果に対する科学的根拠が少ないこと,物理療法機器が理学療法士以外の職種において使用されていることが多いことなども原因であろう。
たとえば頸椎牽引の指示を医師から受けた際に,まずレントゲンや医師カルテによる傷害髄節レベルの確認,神経症状に関連した髄節レベルの予測などを行い,目的の頸椎に適するように牽引方向を考慮している理学療法士が,はたしてどのくらいいるのであろうか?「まずは温めながら,とりあえず軽めに引っ張って様子をみましょう」というように,機器の操作が可能であれば誰でもできるような治療を行った経験のある者は多いのではなかろうか?
冒頭でも述べたように,物理療法は運動療法とともに理学療法の両輪をなす治療法であり,今後もそのことに変わりはないであろう。したがって使用する物理療法機器が,生体にどのような影響をもたらし,どのような治療効果が期待できるのかについて,科学的な根拠に基づいて治療に用いられなければならない。
本書は牽引療法,水治療法,温熱療法,寒冷療法,電気療法,光線療法に章立てされ,各治療に用いられる物理療法機器の生理学的作用や治療効果について,文献や自験例を取り入れながら,可能なかぎり科学的根拠をもとに説明されている。さらに最近の新しい治療法である「経頭蓋磁気刺激法」が追加され,基本的理解と適応について紹介されている。今後の臨床応用への発展が期待される領域であり,覚えておきたい知識の1つである。また特別な機器を使用せず,実施頻度の高いマッサージ療法について,その基本的な知識,治療効果および実際の方法について図説されており,臨床において非常に参考になるものであろう。
このように本書は,これから理学療法士をめざす学生の標準的な理学療法学のテキストとして利用価値が高いのはもちろんであるが,すでに理学療法に従事している者にとっても,経験則で曖昧なまま行っていた物理療法の治療について,その方法や効果を再認識し,より適切な治療を行うための手がかりとして大いに参考となる一冊であろう。
B5 頁328 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00486-2


大野 重昭,木下 茂 編
水流 忠彦 編集協力
《評 者》田野 保雄(阪大大学院教授・眼科学)
節目の改訂にふさわしい内容と最新の知見
記念すべき『標準眼科学』第10版が発行された。3年ごとに必ず改訂されている教科書なので,次の11版がお目見えする頃には,『標準眼科学』の歴史は30年を数えることになる。これだけの長期間,本書を支えてこられた関係者の方々に,まずは敬意を表したい。
さて,言わずもがな,本書はわが国を代表する眼科学教科書の1冊である。これまで多くの医学生がこの本で眼科学を学んできたし,またその中から眼科に入局し,研修医になってからもお世話になったという人も少なくないであろう。ここまで多くの読者に支持された『標準眼科学』の魅力を,10版を手にして改めて考えてみた。
まず,内容がシンプルでわかりやすい。実はこれが言うは易しで,実際は難しい。改訂によって本の厚みが増えないようにバランスを取りながら編集するのは並大抵の努力ではできないと拝察している。医学生や研修医は忙しい。彼らが欲しているのは,まさに本書のような,最新の知見を加えつつ,読み通せるだけの分量で眼科学全体を見渡せる教科書であろう。記述そのものも冗長な説明を排しており,非常に読みやすい。
次に,改訂の間隔である。3年ごとに必ず改訂されていることにより,常に新しい情報が載っている。これは,読者が安心してその教科書で学ぶために重要な条件であるが,実現するのはこれもなかなか難しいことである。これまで都合9回の改訂をすべて3年間隔で発行してきたことは驚嘆に値する。編著者,出版社ともに相当の熱意で取り組んでいることの表れであろう。
そして,美しい。今でこそ眼科の書籍はオールカラーのものが多くなったが,『標準眼科学』はカラー印刷がまだまだ高価であった時代から4色刷りであった。紙面構成もビジュアルに作られており,眼底写真などの美しさも特筆すべきものがある。読者が手に取りたいと思うのも当然である。
以上,述べたことは,過去の版も含めこれまでの『標準眼科学』すべてに共通する特長であるが,さらにこの第10版では,益々重要性が高まる「神経眼科」章の新設や,付録の国試問題解説など,節目の改訂にふさわしい魅力的な内容が加わった。新進気鋭の新しい執筆者も多く加わり,まさに磐石の構えである。昨今,医学生の教科書離れが進んでいると言われているが,こと眼科に関して言えば,今後も『標準眼科学』にお世話になる読者は多くなりそうである。
B5・頁384 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00380-3


茨木 保 著
《評 者》木村 政司(日大教授/サイエンティフィック・イラストレーター)
日本の科学リテラシーの
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