医学界新聞

連載

2008.05.19

 〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第127回

緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療(8)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2779号よりつづく

 本シリーズをここまで読まれてきた方には,もう私の結論はおわかりだろうが,日本の医療を本当に持続可能なものとしたいのであれば,百害あって一利もない「小さな政府」路線と訣別する以外に道はないのである。

応益負担でなく,応能負担を

 これまで何度も述べてきたように,西欧諸国の実例を見る限り,「大きな政府」にしたからといって,自動的に国民の負担が重くなるわけではない。国民の負担を重くせずに「大きな政府」を運営する秘訣は「応能負担」の原則を徹底することにあるのだが,「持てる者・余裕のある者が社会のために多くを負担する」という,ごく当たり前の原則に徹しさえすれば,平均的国民が重税に喘ぐことなく,財源を手当てすることが可能となる(註1)。

 しかし,非常に情けないことに,いまの日本では,「自己責任(=応益負担)」ばかりが声高に唱えられ,「余裕のある方に相応の負担をしていただく」という,応能負担のやり方があることがすっかり忘れられてしまっている。しかも,ただ忘れられているだけでなく,「相応の負担」を拒否する人々に政策決定の権限を与え,「(自分たちが相応の負担をしなくとも)持続可能な社会保障制度」を構築することを許してきたのだから,国民が「幸福」と感じることができない国になってしまったのも当然だろう。

幸福度世界第88位!?

 日本の国民が幸福と感じていないと書いたが,英国レスター大学が世界各国における「主観的幸福度」調査(註2)の結果を発表,当地で話題になったのは昨年のことだった。話題になった理由は,「幸福の追求(pursuit of happiness)」を独立宣言で謳った歴史があるというのに,幸福度世界第16位とランクされ,「ランクが低すぎる」と米国民がショックを受けたことにあったのだが,この調査によると,日本は幸福度世界第88位,「ランクが低すぎる」とショックを受けた米国よりもはるかに悪い評価だったのである。ちなみに,幸福度ランキング世界第1位はデンマークだったが,同国の国民負担率72.5%(2004年)は,OECD加盟国中(そして恐らくは世界)第1位,「大きな政府にすると,国民......

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