MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.04.07
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


渡邉 英夫 著
《評 者》山本 澄子(国際医療福祉大大学院教授・福祉援助工学)
臨床の場でよりよい装具選択と機能調節を行うために
はじめから私事で恐縮であるが,筆者が下肢装具に関する研究を始めたのは約20年前である。当時,装具に関する研究を調べたところ,九州地方でたくさんの新しい装具が開発されていることを知った。それらの研究開発の中心が佐賀医科大学にいらした渡邉英夫先生であった。装具の教科書にはいつも,渡邉先生が書かれたわかりやすい図解による装具の分類が掲載されていた。本書は渡邉先生の半世紀におよぶご研究の集大成である。
本書では,短下肢装具を足関節の動きに関する機能から分類している。すなわち,背屈,底屈それぞれについて固定,遊動,制限,制動,補助とし,その組み合わせで種々の装具を示している。さらに,制動の強さをリジット,セミリジット,セミフレキシブル,フレキシブルと分類することにより,多くの装具の機能が一目でわかるように工夫されている。さらに本書の特徴は装具自体の機能分類だけでなく,使用する片麻痺者の身体機能によって,個々の使用者の状態に適した装具の機能を示していることである。使用者の機能としては,足関節底屈背屈の筋力とROM,歩行時の膝折れや反張膝,接地の状態などさまざまな観点から検討し,可能性のある装具の選択肢が図表で提示されている。特に足関節角度や硬さを調節できる装具については,使用者の底背屈筋力の組み合わせに適した装具足関節角度と硬さを示した表が示されている。
現在,多くの片麻痺者が短下肢装具を使用していると考えられるが,身体機能に合わせてここまで細かく装具の機能を調節している施設がどのくらいあるだろうか。どのような装具であっても装具なしよりは歩きやすいことが多いので,残念なことに多くの施設では各使用者に合った装具の選択と細かい調節がなされてはいないのが現状ではないだろうか。筆者は歩行分析の立場から,装具の機能が使用者の歩行に大きく影響すると考えているが,本書は機能調節による装具の大きな可能性を示すものである。
本書では豊富な写真とわかりやすい図によってたくさんの装具が紹介されている。特に最後の「各AFOおよび継手の機能」の章では,48種類ものAFOと継手について,きわめて客観的な説明がなされている。おそらく誰もが,世の中にこれほどたくさんの装具があったのかと驚くとともに,こんなにあってはどれを選んでよいかわからないと感じるのではないかと思う。48種類すべてを試すことは不可能なので,まず身近で手に入る装具について本書に書かれている機能調節を試みられることをお勧めしたい。本書はそのような臨床の現場で使用しやすいハンドブックである。臨床の場で使用され,本書をもとによりよい装具の選択と機能調節の方法が形作られていくことこそ,著者である渡邉先生の希望されていることではないかと考える。
B6変・頁208 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00518-0


「治らない」時代の医療者心得帳
カスガ先生の答えのない悩み相談室
春日 武彦 著
《評 者》池田 正行(国立秩父学園・内科医)
「究極の生物兵器」に悩む人々へ
「人間は究極の生物兵器である」と私が言っても,仕事場で,家庭で,そういった事例を嫌というほど経験しているあなたは決して驚かないだろう。その究極の生物兵器自身が,病気や怪我になったら,医師がその手当てを担当する。つまり,医師とは,手負いとなって攻撃力が高まった究極の生物兵器と常に対峙せねばならない商売である。
通常,血を吐いただの,骨が折れただのといった体の傷への対応については,われわれはしかるべき訓練を受けている。対応マニュアルも,医学書院をはじめとする出版社から数多く出ている。ところが,究極の生物兵器たる所以の「感情,言語,行動」に対しては,われわれはきわめて貧弱な装備しか持ち合わせていない。
ボディブローのように効いてくる
究極の生物兵器が仕掛ける攻撃がやっかいな理由は山ほどある。まず,弾が飛んでくる方向が一定ではない。病者本人やその家族はもとより,同僚,上司,部下,ひいては自治体議員や地元マスコミからの攻撃に晒されることもある。それでも,直接に自分目がけて来るだけならまだいい。とんでもない方向から流れ弾が飛んでくることもしょっちゅうだ。
ところが,究極の生物兵器から受けた心的外傷の自覚症状は,意外にもしばしば軽い。なんのこれしきでその場を凌ぎ,身体疾患の治療に注意力を集中してしまう。ブラックジャックに憧れ,あるいは救急救命室のエースよろしく,5ラウンドあたりまで頑張ったとしても,ボディブローのように反復される心的外傷の結果,不幸にも戦線離脱と相成るケースが後を絶たない。
「逃げる」でもなく,
「迎え撃つ」でもない方法
かくして,この種の心的外傷が,医療現場における離脱兵の増加,ひいては戦線崩壊の最大の原因になっている。私も,現場に出た途端,究極の生物兵器の怖さを思い知った。しかし,私のとった行動といえば,砲声に耳を塞ぎ,ひたすら逃げ回ることだけだった。
本書は,究極の生物兵器対策を説いている。とはいっても,派手な迎撃ミサイルの類はいっさい登場しない。著者が示すのは,やり過ごし,肩すかし,放置,武装解除といった,一見敗北主義に見える戦略である。
一方,本書に採用された質問者の年齢は多くが二十代で,一部三十代前半が混じっている。本書を通読しても,同様の比較的若い年齢層を読者として意識していることが伺われる。しかし,この年齢層のうちいったい何割が,上記のような戦略を自分だけで理解し,実践できるのか,疑問が残る。
ベテランこそがみずからの傷を語れ!
究極の生物兵器対策としての本書を有効活用するためには,本書を研修医だけに独占させるべきではない。
医療現場由来の心的外傷の深さは,経験年数と正の相関関係がある。究極の生物兵器の怖さを嫌というほど知っている指導医,あるいはそれよりも年上の医師が本書を手に取れば,自分の傷の受傷機序や,対処法,その後の経過が自験例として想起される。それが本書への共感を生み,みずからの傷を教育の糧として研修医と共有したいと思うだろう。手柄話なら聞かされるほうはたまったものではないが,現場で受けた傷の話,それも自験例となれば,話すほうも聞くほうもおのずから真剣勝負となる。
かくして本書は,年齢,性別に関係なく,医療現場で究極の生物兵器対策に悩む人々に共通した学習資源となる。
四六判・頁196 定価1,470円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00519-7


田野 保雄,樋田 哲......
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