医学界新聞

連載

2008.03.10



連載
臨床医学航海術

第26回

  医学生へのアドバイス(10)

田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)


前回よりつづく

 臨床医学は大きな海に例えることができる。その海を航海することは至難の業である。吹きすさぶ嵐,荒れ狂う波,轟く雷……その航路は決して穏やかではない。そしてさらに現在この大海原には大きな変革が起こっている。この連載では,現在この大海原に起こっている変革を解説し,それに対して医学生や研修医はどのような準備をすれば,より安全に臨床医学の大海を航海できるのかを示したい。


 読解力の最後にやはりハリソン読破にもう1回挑戦してみたくなったので,報告する。

人間としての基礎的技能
(1)読解力――読む
(2)記述力――書く
(3)聴覚理解力――聞く
(4)言語発表力――話す,プレゼンテーション力
(5)論理的思考能力――考える
(6)英語力
(7)体力
(8)芸術的感性――感じる
(9)コンピュータ力
(10)生活力
(11)心

読解力――読む(5)

ハリソン読破作戦
 これだけ読解力について書いておいて,やはりハリソンを読んでいないでは済まないような気になってきた。そうなれば,やはり一気にハリソンを読んでしまおう。しかし,いったいいつどうやってハリソンを読もう? 筆者はアメリカ留学時代に一度ハリソンを毎日1章読もうと思ってすでに挫折している。それならば,今回はハリソンを一気に短時間に読んでしまえばよいのだ。しかし,ハリソンを一気に読んでしまうだけの時間はどこにあるのであろうか? 1冊の本をじっくり集中して読む時間などほとんどないではないか!

 そういえば,昔Paul MarinoのThe ICU Bookを,大阪で専門医の試験を受験しにいったときに,東京から新大阪の往復の新幹線の中で通読した覚えがある。そうだ! ハリソンを新幹線の中で読めばよいのだ! そうすれば誰にも邪魔されずに読むことに集中できるはずである。ちょうどこんなときに大阪に学会に行く機会があった。博多から新大阪の往復の新幹線の中でハリソンを1冊読めるかどうかわからないが,読めるところまで読んでしまおう。1冊2600ページを全部読むのは無理だとしても,せめて半分まで読めば何とかそれ以後に時間を見つけて惰性で最後までハリソンを通読することができるかもしれない。

 そう考えた筆者は,「博多新大阪往復新幹線ハリソン読破作戦」を計画した。もしもこの計画を実行するとして,ちなみにどのくらいの速さでハリソンを読まなければならないか試しに計算してみた。博多から新大阪まで新幹線の「のぞみ」で片道2時間28分あった。往復で4時間56分,つまり,約5時間である。もしもハリソン1冊2600ページを往復の新幹線で読むとすると,1時間に520ページ読まなければならない。ということは,1分に8.6ページで,10秒で1.4ページである……。いざ計算してみて思った。

 「絶対に無理だ!」と。

 字面だけ目を通すのなら可能かもしれないが,それでは内容が理解できない。ハリソンをただ単に通読したと自慢するために読むのならば別だが,内容が理解できないならばわざわざハリソンを通読する意味がない。

 しかし,人間初めから無理だと思うこともあえてやってみて,やはり無理であることを確かめたくなるときがある。どこまでできるかわからないがやってみることにした。

作戦失敗
 新幹線が博多駅を発車した。ハリソンの前書きから読み始めて第1章に入った。1分経過。もしもハリソン1冊通読するならば,もう8,9ページ読んでいなければならなかったが,まだ1ページも読んでいなかった。ということは,往復の新幹線で1冊通読するのは無理ということである。それならば,できるところまで読もう! そう思って読んだが,なかなか集中できず進まなかった。Paul MarinoのThe ICU Bookは簡潔明瞭な文章で内容もおもしろく新幹線の中でもスイスイ読めた。しかし,ハリソンはそうはいかない。章によって書いている...

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