医学界新聞

寄稿

2008.01.07

 

【資料編】

『今日の治療指針』の50年を振り返る


『今日の治療指針』は1959年6月20日に創刊されました。本頁では資料編として,50巻の歴史や創刊当時の医療を振り返ります。


■『今日の治療指針』創刊号(第1巻)の序文

 『今日の治療指針』第1巻の序文には刊行の精神が述べられています。この刊行の精神はまさに「プライマリ・ケア」そのものであり,日野原重明先生をはじめ創刊に携わられた先生方の先見性の現れといえます。当時のわが国において指針としうる治療書は本書のみで,創刊翌年には早くも1万部の発行を達成しています。

 診療の第一線にある我々が,診察室で,いつも困却するのは専門外の疾患に対して適切な治療方針を要請されることです。殊に,内科学の分野では,新しい薬物や治療法が次から次へと現われ,どのものをどの病のどの時期に用いてよいか戸惑うことがあります。

 最近のように,各研究の領域が細かく分派して来ると,一般医家が適切な加療を行うことが,益々困難になって来ますので,ついつい従来の姑息的な治療法に依存することになります。これでは患者にとっても,診療医自身にとっても少しも進歩発展がなく,学会での貴重な研究とその成果である治療法が分離し,しかも知らず知らずの中に大切な治療法が等閑視されてしまいます。

 そこで,編者らは,このような弊害を少しでも除きたいと思い,全国の権威ある諸専門家にお願いして,平常,患者に対して行っている最も信頼できる治療法を記述して頂きました。これこそ,現在のわが国の治療学の集大成とみて差支えないもので,臨床医家各位が座右に具えて開巻直ちに役立つ治療法であるものと自負しております。

 このような書物は多年,多数の方々から要望されながらも,色々の困難のため実行に移し得なかったものであります。日進月歩の医学に対し,治療法も亦,改訂し,補充していかなければなりません。真摯なる読者諸賢の忌憚なき御意見と御教示により,本書がわが国のCurrent therapyとなるよう念願して止みません。

■『今日の治療指針』編集内容の変遷を振り返る

 時代の変化に応じ,社会における疾病構造も変化してきました。『今日の治療指針』で取り上げてきた疾患項目の推移にも時代相が反映しています。また診療報酬の改定,編集委員の交代などに伴い,章立て・付録の内容の改訂,充実が重ねられてきました。

『今日の治療指針』歴代の総編集者
 ――各先生方のご尽力により,50年もの長きにわたり,年鑑としての発行を続けている。
1959-1972年版 石山俊次先生・日野原重明先生・渡辺良孝先生
1973-1988年版 石山俊次先生・日野原重明先生・阿部正和先生
1989-2000年版 稲垣義明先生・多賀須幸男先生・尾形悦郎先生
2001年版 多賀須幸男先生・尾形悦郎先生・山口徹先生・北原光夫先生
2002年版- 山口徹先生・北原光夫先生・福井次矢先生(06年より)

発展を続ける『今日の治療指針』
 各巻の執筆者数,章・疾患項目数,総頁数,定価一覧
第1巻(1959年版) 250執筆者,15章・285項目,496頁,定価:2,000円
第10巻(1968年版) 464執筆者,21章・529項目,840頁,定価:4,000円
第20巻(1978年版) 603執筆者,29章・688項目,914頁,定価:10,000円
第30巻(1988年版) 891執筆者,27章・932項目,1360頁,定価:14,000円
第40巻(1998年版) 935執筆者,28章・972項目,1616頁,定価:18,000円(デスク判),14,500円(ポケット判)
第50巻(2008年版) 1075執筆者,27章・1099項目,1896頁,定価:19,000円(デスク判),15,000円(ポケット判)
*90年より,ポケット判の発行を開始。

■1959(昭和34)年当時の医学・医療,社会のすがた

 第2次世界大戦の軍事統制下,医薬品は配給物資となっていましたが,60年前の1948年に「薬事法」(旧薬事法)が制定され,医薬品業は戦時中の経済統制を脱却し,日本の医学・医療の戦後が始まりました。その後,国民皆保険の実現をめざし『今日の治療指針』創刊年の59年には,「新国民健康法」が,翌60年には現行の「薬事法」が施行されました。

1959年の医学・医療-国内

  • 新国民健康法公布,即日施行
  • 国民年金法公布
  • 小児まひが指定伝染病となる
  • 熊大が水俣病の原因を有機水銀と発表
  • 第1回短期人間ドック発表会(現・人間ドック学会)を聖路加国際病院で開催
  • 日本腎臓学会,日本老年医学会,日本胃カメラ学会(現・消化器内視鏡学会),日本看護連盟設立

1959年の医学・医療-海外

  • ノーベル生理学・医学賞
    オチョア,コンバーグ(米):RNAおよびDNAの酵素的生合成機構の発見
  • ピンカス(米),経口避妊薬ピル開発
  • ペニシリン耐性を持つ細菌に有効な抗 生物質セファロスピリンCを発見(英)
  • ヤーロウ(米),ラジオイムノアッセイ(放射免疫測定法)の開発
  • ソンズ(米),冠動脈造影法を開発
  • 世界初の脳死の臨床報告「死の昏睡」がなされる(仏)

1959年の社会事象

  • メートル法実施
  • ドル為替の自由化実施
  • キューバ革命
  • 皇太子(現・天皇陛下)ご成婚
  • 伊勢湾台風が東海地方を直撃

1959年に医学書院から出版されたおもな書籍・雑誌

  • 医学書籍
    Virus性疾患の病理-Virus病学を学ぶ人々のために』(新保幸太郎),『発生学総論』(谷口虎年),『医学領域における生化学実験法』(浅田敏雄他編),『内科診断学・第5版』(冲中重雄・高橋忠雄・大島研三),『結核患者の精神衛生-実態と指導』(国立療養所結核精神衛生協同研究班編),『無尿と乏尿-急性腎不全』(渋沢喜守雄・丹後淳平・西沢康男)『外科診断学』(浜口栄祐・石山俊次),『写真解説外科臨床の手引』(河村謙二・篠田正昭),『全身麻酔法-理論と実際』(高橋長雄)
  • 医学雑誌
    『精神医学』創刊
  • 看護書籍
    『結核外科と看護の実際』(須賀井忠男),『看護基準』(国立東京第一病院看護研究会編)

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