モニタリング
連載
2007.10.08
レジデントのための 栄 養 塾
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第3回 モニタリング |
今月の講師= 岡田 晋吾 |
(前回よりつづく)
栄養療法の効果には個人差がでます。計算上で適正と判断された栄養療法でも,必ず定期的にモニタリングしていきましょう。特に高齢者や,PEGなどによる強制栄養を受けている方には注意が必要です。
【Clinical Pearl】
・栄養プランに基づいて栄養療法を行ったら,定期的に栄養療法の効果を評価し,見直そう。
・入院中の栄養管理だけでなく,高齢者では退院後にも外来,在宅でのモニタリングを行うことを心がけよう。
・通常の経腸栄養剤を投与していると低Na血症をきたすことを覚えておこう。
・在宅でも身体計測や血液検査はできるので,栄養アセスメントを定期的に行おう。
【練習問題】72歳,女性。身長158cm,体重55kg。脳梗塞を起こし,救急車で脳神経外科の専門病院に運ばれた。広範な脳梗塞であったが,幸いにも一命をとりとめた。しかし右半身不随,摂食嚥下障害が残ったため栄養摂取のためのルートとして胃瘻(PEG:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)が造設された。本人,家族の希望があり,在宅で訪問看護師,ヘルパーの援助を受けて生活をすることになった。退院に向けて主治医,病棟看護師,管理栄養士で話し合いがもたれて栄養ケアプランが立てられた。Harris-Benedictの公式に当てはめるとBEE(基礎エネルギー消費量)は1,136kcal/日であり,これに活動係数1.2,ストレス係数1.0として求められた総エネルギー必要量は1,363kcal/日となった。そのためラコール(R)(200kcal,200ml)を1日7パック(朝2パック-昼2パック-夜3パック)として1,400kcal/日とした。退院時にPEGに伴うトラブルは認められなかった。 血液検査所見(退院時):RBC460×104/mm3,WBC8,600/mm3,Hb12.9g/dL,CRP1.0mg/dL,TP7.0g/dL,Alb3.8g/dL,Na135mEq/L,Cl1037mEq/L,K4.0 mEq/L |
3か月後定期受診されたため,身体計測,血液検査および診察を行った。その結果体重59kg(+4kg),Na115mEq/L,Cl90mEq/L,であった。またPEG挿入部の皮膚の発赤を認めた。
Q どうして体重が3か月で4kgも増えたのでしょうか? 栄養ケアプランが間違っていたのでしょうか?
A 栄養ケアプランはいわば計算上で求められただけのものです。実際の必要エネルギー量は個人や環境,リハビリの程度により変化します。栄養療法を実施したら定期的な評価,すなわちモニタリングが必要になります。
【Check】
・栄養療法は個人差や病態の変化により効果が変わってくる。定期的な評価(モニタリング)を行うことが必要。
・定期的にチェックして栄養療法の内容を患者さんに必要なものに変えることで,安全で効果的な栄養療法を行うことができる。
体重が1か月で1kg増えるのには,エネルギー量が約7,000kcal/月余分に必要と言われています。この方は3か月で4kg増えているので,3か月で20,000kcal以上多く投与されたことになります。少なく見積もっても,1日あたり200-250kcal多かったと推察されます。同じエネルギー量を投与し続けると1年で15kg以上も増えてしまいます。
この結果から必要エネルギー量は1,100-1,200kcal/日と推定されるので,ラコール(R)を1パック減らして1,200kcal/日にして,3か月後再度モニタリングのための栄養アセスメントを行うことが必要です。特に寝たきりの患者さんでは過栄養によって除脂肪体重(脂肪を除いた筋肉・内臓・骨などの重さ)の増加は期待できず,むしろ体脂肪が蓄積します。退院時には皮膚とPEGカテーテルの外部バンパーとの間に余裕があったものが,皮下脂肪がついてしまったために余裕がなくなり,少しの動きでバンパーが皮膚を圧迫するようになり,瘻孔周囲の皮膚の発赤を招いたものと思われます。
Q 医薬品の経腸栄養剤が十分なカロリーのぶんだけ入っていたのに,どうして低Na血症になっていたのでしょうか?
A 経腸栄養剤は塩分が控えめに入っています。このような異常を早期に見つけるためにも,定期的なモニタリングが大切です。
【Check】
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レジデントのための栄養塾(終了)
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