コミュニケーションスキル(3)
傾聴の意味
連載
2007.10.22
ストレスマネジメント
その理論と実践
[ 第19回 コミュニケーションスキル(3) 傾聴の意味 ]
久保田聰美(近森病院総看護師長/高知女子大学大学院)
(前回よりつづく)
コミュニケーションスキルの基本として,カウンセリング技法の中でも最初に出会う技術が「傾聴」です。積極的傾聴法として講義を受けた方も多いでしょう。この「傾聴」を通して相手を「受容」するというメッセージを送ることが効果的なコミュニケーションの第一歩となります。しかしこの技術は頭で理解していても,いざ実践するとなるとなかなか難しいようです。
相手の思いを耳と心できく
「聞く」と「聴く」の違いは,単に「耳」できくのではなく,「耳と心」できくという字にも表現されています。患者さんや部下の話に耳を傾ける時にあなたは何をきいているでしょうか?言葉や事実関係ばかりに捉われて,相手の思いに耳を傾けることを忘れていませんか。うまくコミュニケーションがとれない場合やトラブルにまで発展する事例では,多くの場合その背景にあるのは,「わかってもらえなかった」という思いです。話し手にとってみれば,切ない思い,悲しい思いや時には怒りさえ感じながら,必死の思いで話したのに,聞き手がただその言葉や事実関係の整理に追われていては,コミュニケーションとしては成立しません。では,その「傾聴」を阻害するのは具体的にはどんな要因なのでしょうか。
ある病棟での出来事をみてみましょう。その病棟では,日頃から何かとうるさいことを言ってくると有名な患者Aさんが,血相を変えて詰所にやって来ました。それをみた詰所のスタッフは,そそくさと逃げるようにその場を離れて行ってしまいました。
A(患者)「Bさん! 私の主治医を変えてください!」
B(看護師)「Aさん,急にそんなことをいっても無理ですよ」
A「だいたい,C先生ではなくて,D先生に診てもらいたくてこの病院に来たのに,どうしてC先生みたいな頼りない医者が主治医なんですか!」
B「いえ,当院の受け持ちのシステムはですね。D先生ももちろんいっしょに診ていますけど,お忙しい先生なんで,C先生が毎日の検査とか点滴とか細かな治療の担当をしているだけでね」
A「私はどうでもいい患者だから若い医者で十分だということですね」
B「そういうわけじゃなくて……」
とここまでいくと,典型的なかみ合わない会話ともいえます。横でみていても,Aさんの表情は険しくなる一方です。しかし,B看護師の対応が特に問題があるとも思えません。一見,医療従事者側からすると問題がないと思えるこの会話のどこに問題があるのでしょうか?
ラベリングから始まるすれ違い
この事例のコミュニケーションの出発点は,Aさんの言葉以前にあります。「日頃から何かとうるさい患者」とラベリングされたAさんが,血相を変えてやって来た段階からスタートです。その時あなたがBさんならどう思われますか?「まいったなあ,またあのAさんがクレームつけに来たかなあ……」とか,「あ~あ,みんな逃げちゃったよ」と思って自分も逃げ出したい気持ちにならないでしょうか? もしかしたら,なんとかAさんにつかまらないようにできるだけ会話を短く終わらせようという気持ちの準備さえできているのではないでしょうか。
しかし,こういう思いを持った段階でAさんの怒りへの注意はなくなってしまいます。もちろん看護師も人間ですから,苦手な患者さんもいるでしょう。Aさんとはできれば関わりたくない気持ちを抱いてしまうことまで否定するつもりはありません。問題なのは,そういう自分自身の感情に蓋をしてしまい,そこから逃げてしまうことです。さらに問題なのが,「誰だってそう思っているんだから,どこが悪いの」と開き直ることです。そうなると,Aさんの思いや感情を「聴く」ことは難しくなってしまいます。
感情と説明のすれ違い
そして,会話の最初からAさんは感情をぶつけているのに対して,Bさんは,その感情には目を向けず,言葉に反応し,説明に終始しています。Bさんの怒りに向き合うことは,相手の感情に巻き込まれ,相手をさらに感情的にしてしまう可能性が高いため,冷静に説明に終始するほうが賢明な対応だという思いもあったのかもしれません。しかし,現実には,Bさんが冷静に説明しようとすればするほど,Aさんの怒りは収まるどころか,高まる一方でした。Aさんは「わかってもらえない」という思いが募る一方であったであろうこの会話を,よい方向へ修正するこの記事はログインすると全文を読むことができます。
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