栄養管理のプランニング
連載
2007.09.10
レジデントのための 栄 養 塾
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第2回 栄養管理のプランニング |
今月の講師= 大村 健二 |
(前回よりつづく)
今回は,栄養管理のプランニングにとりかかります。プランニングでは,栄養管理の目的をしっかり認識し,病態にあわせた栄養投与経路の選択と必要栄養量の算出を行います。
【Clinical Pearl】
・栄養アセスメントの結果と栄養管理の目的を念頭においてプランニングを行おう。
・消化管はできるだけ利用しよう。
・完全静脈栄養では,グルコースの過剰投与とアミノ酸の不足に注意しよう。
・発行されたガイドラインの内容を尊重しよう。
【練習問題】68歳,男性。身長165cm,体重55kg。胃体上部小弯の2型胃癌に対し,胃全摘術を施行した。術後7日目までは問題なく経過したが,翌日に38.3℃の発熱を認めた。血液検査所見(術後8日目):RBC 455×104/mm3,WBC 11,000/mm3,Hb 13.8g/dL,CRP 12.8mg/dL,TP 6.8g/dL,Alb 3.6g/dL。 術後造影検査所見(術後8日目):食道空腸吻合部から右側へ4cmの髭状の造影剤漏出を認め,食道空腸吻合部のリークと診断した。 |
本例に行う栄養管理の目的は,吻合部を安静に保ち,リークを早期に治癒に導くことです。
Q この症例では,消化管を利用できるでしょうか?
A いわゆるマイナーリークをきたした症例です。吻合部の安静を考慮して完全静脈栄養(total parenteral nutrition,TPN)が適応となります。
【Check】
・経口栄養や経腸栄養と比較してTPNは非生理的な栄養法であるが,TPNが栄養管理として最適である病態は多数ある。
・問題なのは,適応を考慮せず漫然と施行するTPNである。
栄養投与量を算出してみましょう。
1)総エネルギー必要量
総エネルギー必要量は,Harris-Benedictの式によって求めた基礎エネルギー消費量(basal energy expenditure,BEE)に,活動係数とストレス係数を乗じて求めます(表)。
本症例のBEEは1,189kcal/日です。また,活動係数は1.3,ストレス係数を1.3とすると総エネルギー必要量は
1,189×1.3×1.3=2,009≒2,000(kcal/日)
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2)蛋白必要量
入院患者の蛋白必要量(g/kg)には,通常ストレス係数と同じ数字を用います。本症例の蛋白必要量は
1.3×55=71.5≒72(g/日)
3)非蛋白エネルギー量(non-protein calorie,NPC)
NPCとは,総エネルギー量から蛋白質(アミノ酸)のエネルギー量を引いたものです。蛋白質のエネルギー量は4kcal/gですから,NPCは
2,000-72×4=1,712≒1,700(kcal/日)
4)NPC/N比
NPCを投与される窒素の量で除したものがNPC/N比です。平常時のNPC/N比は150-180,侵襲が加わった状態では120-150,血液透析導入前の腎不全では病期によって180-300に設定します。
総合アミノ酸製剤中のアミノ酸6.25gにつき1gの窒素が含まれていますので,ここまでの組成では
NPC/N比=1,700÷72×6.25=147.6
5)総エネルギー投与量に占める脂肪の割合
脂肪の投与量は通常,総エネルギー投与量の20-25%に設定します。ここでは,20%脂肪乳剤を250ml(500kcal)用いることを想定します。
Q TPN開始時から脂肪乳剤を使用して何か害はないのですか?
A TPN開始時には,生体に侵襲が加わっていることがほとんどです。そのような状態では,中性脂肪の加水分解は促進されます。一方,耐糖能は低下しているので,インスリン非依存性のエネルギー源としてむしろ脂肪乳剤を投与すべきです。
【Check】
・血液中のトリグリセリド(triglyceride,TG)を加水分解するリポ蛋白リパーゼの活性は,アドレナリンにより高められる。
・TGの血中からのクリアランスを考慮し,脂肪の投与速度は0.1g/kg/時以下とする。
6)グルコース投与量
NPCから脂肪のエネルギー量を差し引いたものをグルコースとして投与します。グルコースは4kcal/gなので,その投与量は
(1,700-500)÷4=300(g/日)
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これで下記のようになります。
総エネルギー量 1,850kcal/日
蛋白(アミノ酸)投与量 75g/日
グルコース投与量 260g/日
グルコース投与速度 3.3mg/kg/分
Na 100mEq/日
Cl 100mEq/日
K 40mEq/日
投与量は,モニタリングの結果をみながら徐々に増加させます。3-7日で目標量に到達できれば十分です。
【Check】
・米国静脈経腸栄養学会(A.S.P.E.N.)では,侵襲下にある生体へのグルコース投与速度の上限の目安として4mg/kg/分を推奨している。
・平常時の投与速度の上限の目安は5mg/kg/分であるから,侵襲が加わった場合にはグルコースの投与速度を2割減ずる。
・侵襲時にTPN基本液の2号液,もしくはN液の2本全量投与すると,これを超えることが多い。
Q 「実際の処方例」では総エネルギー量が少し不足しているのでは?
A Harris-Benedictの式で算出されるのは基礎エネルギー消費量の推計値です。それをもとに求めた総エネルギー必要量はひとつの目安と考えてください。また,算定したとおりの輸液組成にすることはしばしば困難です。それに近似した組成を探しましょう。
【Check】
・侵襲下にある症例の栄養管理に市販の高カロリー輸液基本液を何も添加せず全量使用すると,グルコースの過剰か窒素源不足のいずれかに陥る。
・グルコースの過剰投与が原因の高血糖は避ける。
・急性期では,必要栄養量の早期充足に固執しない。
・侵襲から脱すると,必要栄養量を容易に投与できることが多い。
各種病態に対する栄養管理のプランニングを行う際,既刊のガイドライン(A.S.P.E.N等)に記載されている事柄は推奨度も加味して尊重しましょう。
ひと言アドバイス・今回の稿で強調されているように,過剰なカロリー投与による,エネルギーの「不完全燃焼」には十分注意しましょう。基本は「控えめ」からスタートすることが,栄養管理を成功させるコツです。(加藤)
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(つづく)
この記事の連載
レジデントのための栄養塾(終了)
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