医学界新聞

連載

2007.07.23

 

ストレスマネジメント
その理論と実践

[ 第16回 ナースのタバコとストレス ]

久保田聰美(近森病院総看護師長/高知女子大学大学院)


前回よりつづく

 2001年の「看護職とたばこ・実態調査」(日本看護協会)によれば,看護職全体の喫煙率は25.7%でした。これは一般女性の喫煙率よりも高いという結果であり,保健医療従事者としては真摯に受け止める必要があります。看護協会でも「看護者のたばこ対策行動計画」等で積極的な対策を進めていますが,地域や施設間で温度差があるのが現状のようです。その背景には,タバコとストレスへの誤解が影響しているのではないでしょうか。

タバコはストレスコーピング?

 「ナースはストレスフルな仕事だから喫煙率が高いのは仕方ない」そんな思いを持っている人はいないでしょうか。この言葉の向こうにあるのは,「喫煙がストレスコーピング」であると言っているのと同じです。タバコがストレスコーピングになるのであれば,タバコをたくさん吸う人ほど,ストレス要因は減っていることになります。果たしてそうでしょうか。

 そこまで明確でなくとも,「なんらかのストレス要因があるからタバコを吸う」と言っているようでもあります。そのストレス要因はどんなストレスでしょう。多くの場合,職場の人間関係や患者との関係,厳しい労働条件,そして家族の問題などがストレス要因として挙げられますが,これらがタバコを吸うことによりうまく対処されるのでしょうか。ただ一つだけ確実に対処されるものがあります。それは,「ニコチン切れのストレス」です。

わかっているけれど
 「タバコが身体に悪い,そんなことはわかっている」という声をよく耳にします。しかし,人は自分に都合の悪い情報はできるだけ聞きたくないものです。冷静に考えてみると,毎日のようにタバコ関連疾患の患者さんのケアをする機会を持つナースにとって,自分がタバコを吸うというのは,理解しがたい行動のはずです。裏を返せば,これがニコチン依存症のなせる業なのかもしれません。「タバコの害は十分わかっている,でも自分は大丈夫」という思いがどこかにあるのでしょうか。

他人に迷惑かけなければ個人の自由
 「私は別に長生きしたくもないし,自分の生命だから好きにさせてほしい。他人に迷惑をかけているわけじゃないし,個人の自由ではないの?」これもよく耳にする誤解です。

 タバコは,副流煙という有害ガスを発生します。また,直接煙に暴露されなくとも煙により付着した臭い成分の素である化学物質により健康障害を引き起こす可能性がある物質です。喘息や化学物質過敏症の患者にとってタバコの臭いだけで病状悪化することはまれではありません。時には生命に関わる重篤な状態を引き起こすことさえあります。医療従事者であるナースが,タバコくさい手で採血したり,タバコの臭いが染み付いた白衣でケアをすることが,患者さんやご家族にどのようなメッセージを送っているのかを考えれば,上記のような言葉は出てこないはずです。

日本の制度の歪みと被害者意識

 日本でも遅ればせながら,たばこ規制枠組み条約に批准すると同時に健康増進法,がん対策基本法も施行され,医療機関の施設内禁煙をはじめとする公共の場における禁煙化が進んできています。しかし,急速に進んだ禁煙運動であるがゆえに,同時に存在する日本社会の制度上の歪みの悪影響も感じられます。社会の構造的な問題が喫煙者への正しい知識の普及を阻害している一面があるのです。

 たばこ事業法を基盤として,財務省がJTと協力して税収の財源確保を理由に,厚労省の施策に対峙する形になってい

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