医学界新聞


「家庭医のやりがい」を語ろう

2007.07.16

 

「家庭医のやりがい」を語ろう

第22回日本家庭医療学会開催


 第22回日本家庭医療学会が6月23-24日,白浜雅司会長(佐賀市立国民健康保険三瀬診療所)のもと,損保会館(東京都千代田区)にて開催された。学会テーマは「家庭医のやりがい」。会長講演では,白浜氏が「三瀬村で学んだこと」と題して,診療所における地域住民との交流や,これまで見ることのなかった患者の生活全体を知ることの面白さを語った。白浜氏は,地域で学んだ医療の役割として,早期診断・早期治療だけでなく,「病気があっても上手に生きていくことを支えること」と述べ,患者と医療者との信頼関係が地域の医療を支えるやりがいと語った。


 ワークショップ「学会発表が『楽しく!!』なるプレゼンテーションのコツ」(コーディネーター=関西リハビリテーション病院・佐藤健一氏,東医大・斎藤裕之氏,亀田ファミリークリニック館山・岡田唯男氏)では,スライドを使用したわかりやすいプレゼンテーションの方法をレクチャー。まず,会場から数名が,1人3分以内でスライドを用いて発表,それに対して他の参加者やコーディネーターがスライドの見やすさ,内容の伝わりやすさ,間の取り方などについてコメントした。

 その後,佐藤氏がスライド作成のコツを講義。専門外の聞き手にも研究の目的を正しく伝えるため,「はじめに」の部分をしっかり作ることが大切と述べた。スライド作成のカギは「ポイントは最小限に」「演者が伝える」「認知心理学」の3点と説明。これだけは言いたい,ということを中心に全体を構成すること,スライドはあくまで発表者のサポートであり,自分自身が伝える意識が重要であること,聞く側の目の動きや脳の予測する動きに反しない,違和感のない視線の誘導が大切であると強調した。また,1行内の適切な文字数(12-15文字/行)や,箇条書き,視覚的な統一感,図や写真の活用など細かいポイントを挙げた他,色使いについても説明。「色覚異常を持つ人は意外に多く,男性で20人に1人,女性は500人に1人の割合。どんな人にも見やすいスライド作りを心がけることも必要では」と述べた。

 シンポジウム「家庭医のやりがい」(座長=日本生協連医療部会家庭医療学開発センター・藤沼康樹,三重大・竹村洋典)では,はじめに内山富士雄氏(内山クリニック)が登壇。家庭医開業の魅力について,田坂佳千氏の言葉(JIM14,p298,2004)を引用し,その中でも大きいのは「自分の納得のいく医療ができること」「すべてに関して自分で決定できること」ではないかと述べた。

 研修医から,先端治療から遅れるのではという問いを受けることもあるが,「自分はこれまでPEG療法やインフルエンザワクチンなどを早期の段階から積極的に取り入れてきた。むしろ自分が正しいと思うことは,何でも自分の一存でできる」と開業家庭医の柔軟性を強調。そのほかにも病院のアメニティや診療の時間管理,従業員への待遇(頑張っているコメディカルを昇格させるなど)や,金銭的に余裕がない患者への援助,自分のライフサイクルに合わせた診療が行えることなども開業の利点として挙げ,「開業とは自己実現である」と締めくくった。

頼まれたら行く,聞かれたら答えられることの幸せ

 生坂政臣氏(千葉大)は,家庭医のやりがいとは「診療所に持ち込まれるすべての問題に対して,何らかの回答を出すことができるプロとしての喜び」と説明。また,ジェネラリストの専門性は,ひとつの物差しでの比較ができることと述べた。たとえば,複数の症状を呈する患者が来院した際,複数科にコンサルトして,いくつか鑑別疾患が挙がっても,それぞれの可能性は10%以下で「完全に否定はできないが確率は低い」という場合がある。しかし実は各科の物差しが違うので,10%の確率といってもみんな違う。総合診療部ではそれらをひとつの物差しで比較することができる。それがジェネラリストの真骨頂であると述べた。最後に,「私は以前臓器専門医だった。臓器専門医の喜びは,いかに対象を絞り込めるか。対してジェネラリストの喜びは対象疾患が年々増えていくこと。どちらもうれしい」と語った。

 西村真紀氏(川崎医療生協あさお診療所)は,「女性家庭医のやりがい」と題して口演。日常診療における患者とのやりとりから,家庭医療の持つmedical home(患者がよりどころとする,医療における「家」)の役割を実感した経験を紹介。また,開業してから「女性医師だから話しやすい」という患者の声や何科にいけばいいのかわからない女性の問題を目にするようになり,潜在的なwomen's healthのニーズを認識。自身も意識して診療していると述べた。また,自分自身の結婚・妊娠・出産の経験が患者の理解や,病の背景の理解に役立っていると語り,すべての自分の経験は家庭医としての糧となるとの考えを示した。

家庭医を育てる場をつくる

 草場鉄周氏(北海道家庭医療学センター)は,医学生時代に「ひとの心」は科学ではない,という思いから,幅広い健康問題に心と体の両面からアプローチすることに魅力を感じたと家庭医療を志したきっかけを紹介。主訴を聞き,鑑別を挙げ,検査,治療を行うという臨床決断のプロセスは医師として難しくもあるが本当に楽しいところと語った。また,自らの経験した症例を例に挙げ,「容易に解決できない問題でも,あせらずに患者と一緒に一つずつ対応することが必要。それも家庭医の魅力」と述べて降壇した。

 大橋博樹氏(川崎市立多摩病院)は,家庭医をめざす人は多いが,診療所のみでの研修では幅広い「技術」を学ぶには難しく,総合病院には家庭医を理解する指導医が少ない現状を見て,「家庭医の研修施設を作りたい」と,多摩病院で家庭医療後期研修プログラムを立ち上げた経緯を紹介。プログラムはブロックローテーションに加え,小児科,外科系を含めたERの研修を3年間継続して行い,診療所研修も重視している。大橋氏は,「家庭医の強みは包括性。臓器専門医がやりたがらない仕事が意外と家庭医の得意分野となる」と述べ,今後総合病院でも家庭医を育てられるというモデルを作りたいと述べて降壇した。

 林寛之氏(福井県立病院)によるワークショップ「発熱コモンエマージェンシー 感冒or not」では,まず「喉の痛みを訴える患者が救急外来に来ることは多い。たいていの場合は風邪が多いが,worst case scenario と,commonなものは何かをまず考えること」と述べ,咽頭痛から考えられるworst case scenario と,commonを参加者に列挙させるところから始まった。インフルエンザと感冒との見分け方,咽頭炎で抗生剤を処方するタイミング,ウイルス感染と細菌感染の違いをどう患者に説明するか,一般的に考えられている熱への不安を理解したうえで,どのように患者教育を行うかなどが,グループごとに話しあわれた。林氏の軽快でユニークな講義に会場からは何度も笑い声が上がった。

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