医学界新聞

2007.06.11

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ダーモスコピーの診かた・考えかた

斎田 俊明 著

《評 者》土田 哲也(埼玉医大教授・皮膚科)

診療上の問題を浮き彫りにし実践に備える

 言うまでもないことだが,著者の斎田俊明先生は本邦におけるダーモスコピーのパイオニアであり第一人者である。ダーモスコピーがあまり注目を集めなかった時代からすでに世界に向けて多くの研究成果を発信するとともに,この革新的な皮膚科診断手法をわが国で普及させるために心を砕かれてきた。その普及への着実な努力の過程で,節目となる2つの出来事があった。1つは,斎田先生が中心に編集された『カラーアトラスダーモスコピー』(金原出版)の出版であり,これにより,われわれは本邦において共通の言語と所見認識をもつことができるようになった。そしてもう1つは,その有用性が認められ,少額ながらも保険適応が認められたことである。

 こういった背景のもとに,現在では多くの皮膚科医がダーモスコピーを日常診療に取り入れるようになり,診断精度の向上,ひいては皮膚科診療の専門性の向上に大いに貢献することが期待されている。

 しかし,ここで大きな問題がある。ダーモスコピーが皮膚科診断の精度を高めることは証明されているが,それは訓練された医師が診察した場合という前提がある。ではどのようにして訓練するのか。診療の場における熟練者の直接指導が期待できない場合,各地で開催されるダーモスコピー講習会での学習が第一に考えられる。しかし,時間的な制約,細部の学習の不完全さといった問題もある。また,既存の教科書での学習も,煩雑さが先にたち,全体概念の把握,そして実践的な読み取りの訓練までにはどうしても至らないことが多い。

 本著においては,そういった問題点に対する配慮が見事になされている。最初の総論はダーモスコピー診断のエッセンスが簡潔にわかりやすく記載され,初めてダーモスコピーの勉強をしようとする皮膚科医も無理なく全体概念が把握できるような仕組みになっている。そして,その基礎知識をもとに診断演習を行うことで,実際の診療上問題になる点を浮き彫りにして,実践に備えるとともに知識の定着を図る配慮がなされている。

 肉眼診断と病理診断の両者の関係を常に考えながら診断を考えてきた皮膚科医にとって,まさしくその橋渡しとなるダーモスコピーは,本来なじみやすい診断手法のはずである。そういった著者の信念のもとに作られた本著では,臨床写真,病理写真との対比でダーモスコピー所見を読み取っていく楽しみも読者に与えてくれる。そして,何よりも,所見・用語の解釈に強い説得力があるのは,欧米の教科書の単なる受け売りではなく,著者自身が多くの症例を実際に診てそこから発見してきたことを基盤に述べているからに他ならない。

 これからダーモスコピーを勉強しようとする方はもちろんのこと,ダーモスコピーに習熟した医師にとっても,本著は知識の整理,思い込みの是正,より実践的な診かたの体得といった面できわめて有益であり,手にとって今一度勉強し直してみることをぜひお薦めしたい。

B5・頁200 定価7,560円(税5%込)医学書院


神経救急・集中治療ハンドブック
Critical Care Neurology

篠原 幸人 監修 永山 正雄,濱田 潤一 編

《評 者》丸川 征四郎(兵庫医大教授・救急・災害医学/救命救急センター)

critical care neurologyの導入・体系化のために

 本書の著者に神経内科医,脳神経外科医が多いことは想像に余りあるが,救急・蘇生科医が全65名中に12名含まれている。救急・集中治療という表題にしては意外に少ない。しかし,日本救急医学会(第34回学術集会)を見ると脳蘇生,脳卒中についてのシンポジウムが各1セッションあり,脳低温療法の講演が2セッション,一般演題は5セッションと活発である。この事実からみれば,本書には神経内科・脳神経外科と救急・集中治療科の2つの世界の癒合を促そうとする編者の意図が窺える。さらに穿ったことをいえば,救急・集中治療医に神経系を専門とする医師を育成すべきとのメッセージが含まれているのかもしれない。「監修の序」には,「critical care neurologyの導入と体系化」が本書編纂の目的と述べてあり,「編者あとがき」には,「わが国には,神経系疾患全般に対して対応できる高度の施設はまだ非常に乏しい」現状への挑戦が窺える。

 本書の体裁はA5判,496頁と病棟や診察室など狭いテーブルに置かれることを意識したサイズである。その意味では,いわゆる教科書と実用書の中間に属するものと理解できる。

 本書の特徴は,5章,56項目と内容が豊富なことである。第1章には編者の基本的な考え方が述べられており,本書への熱い思いが伝わってくる。これに続いて,第2章は症候,第3章は疾患,第4章は合併症,第5章は管理と構成されている。本書の魅力は,豊富な内容に加えて各項目が実用的に構成されていることである。特に,第2,3章では管理とコンサルテーションすべき科目が示されており,第4,5章では具体的な全身的管理が示されている。

 記述は,いずれも簡潔,明瞭であり,神経救急・集中治療に携わる臨床医は,たとえ研修医であっても基本的知識として本書のレベルは把握しておくことが望まれる。さらに,救急医療の現場に専従する医師は,本書の内容をしっかりと習得し,加えて,外傷性中枢神経障害,脊椎・脊髄損傷,小児神経救急疾患,妊娠に伴う神経系疾患,そして中枢神経疾患に関わる救急蘇生ガイドラインなどについて学習することが望まれる。

 本書は,神経救急・集中治療に携わる初期研修医,後期研修医に必読の書であり,救急・集中治療医にも座右の書として,強く推奨したい一冊である。

A5・頁496 定価5,775円(税5%込)医学書院


臨床と病理よりみた
膵癌類似病変アトラス CD-ROM付

山口 幸二,田中 雅夫 著

《評 者》船越 顕博(第38回日本膵臓学会大会長/日本膵臓学会理事 国立病院機構九州がんセンター消化器内科)

診断・治療の理解を深め早期膵癌発見の一助に

 膵癌は早期発見が困難で「21世紀に残された消化器癌」とも呼ばれている。しかも,予後不良な“膵癌”の診断法について詳細かつ正確にわかりやすく説明することは大変困難である。一方,厚生労働省研究班や各学会による癌の診療ガイドラインが最近続々と作成されている。しかし,これまで国内には,膵癌診療の全領域に関する科学的根拠に基づいた診療ガイドラインは存在しなかった。日本膵臓学会が,膵癌診療ガイドライン作成小委員会を設けて作成にあたり,2006年3月に『科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2006年版』(金原出版)を発行した。本ガイドラインでは,対象を“膵癌”診療にあたる臨床医とし,一般臨床医に効率的かつ適切に対処できるよう配慮されている。さらに,患者さんや御家族など一般市民の方が“膵癌”への理解を深め,医療従事者と患者側の相互が納得したうえで医療が選択され実行されることも意図されている。しかしながら,このガイドラインをもってしても膵癌の早期診断にはほど遠い現状である。

 膵癌診断の現場では画像診断で膵癌との鑑別診断に迷う腫瘍様病変を体系的にまとめたアトラスは少ないと思われる。九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科の山口幸二先生,田中雅夫先生による『臨床と病理よりみた膵癌類似病変アトラス』を活用することにより,前回上梓された『小膵癌アトラス』の姉妹版として(著者らも序文で記載しているように),小膵癌を含めた膵癌診断の一助となるものと思われる。

 著者らは豊富な経験を有する膵臓外科医であり,膵癌の診断と治療の本邦における第一人者である。本書は膵癌と鑑別困難な膵癌類似病変を第1章で総論的に整理し,第2章以降各論では腫瘤形成性膵炎・自己免疫性膵炎・血流に富む膵腫瘤(膵内分泌腫瘍,膵漿液性嚢胞腺腫,Solid-pseudopapillary tumor,Gastrointestinal Stromal Tumor,パラガングリオーマ,膵過誤腫)・転移性の膵腫瘍・リンパ節病変(悪性リンパ腫,結核症,Castleman病,成人T細胞白血病)・膵管の限局性狭窄病変(膵管融合不全,膵管狭窄)・その他各病変(膵脂肪性腫瘤,膵臓の動静脈奇形,膵腫大と消化管誤認)等の病像を鑑別診断とともにわかりやすく説明したうえで,自験症例の画像診断及び病理所見を含め詳細にまとめ上げている。その所見がCD-ROMに添付されているのは読者にとっても大変便利である。

 膵癌の診断法について詳細かつ正確にわかりやすく理解することは大変困難であり,本書と『小膵癌アトラス』は今後の膵臓病診療に大変役に立つ良書であり,膵臓病の診断・治療に関する理解を深めるに役立つと確信し,早期膵癌発...

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