医学界新聞

寄稿

2007.04.09

 

【寄稿】

グラム染色は手軽で有用!

森岡慎一郎(聖隷浜松病院内科レジデント)


 皆さんはグラム染色をやったことがありますか? 読めますか? 興味はあるけどなかなか実行に移せない先生方が多いのではないでしょうか。私は2年目の初期研修医ですが,そんな先生方にグラム染色の手軽さと有用性を知り,一般診療の流れに取り入れてもらいたいと願っています。

 そこでケースを出しながらグラム染色の使い方を紹介します。研修医のあなたが以下の患者さんの担当になりました。指導するのはDr. A・Bのどちらかです。さあ,あなたはどちらの指導医と一緒に治療したいと思うでしょうか?


症例:75歳男性。主訴:咳嗽,悪寒戦慄。現病歴5日前から感冒症状あり。市販の感冒薬で様子をみていたが,2日前から症状が増悪し,本日呼吸困難感が出現したために受診した。

【指導医がDr. Aの場合】

*以下,Dr. Aと研修医の会話
Dr. A「熱があってCRPが高く,レントゲンで右肺に影がある。肺炎だな」
研修医「抗生剤はどうしましょうか?」
Dr. A「じいさんもいい年だし,CRPが10もあるからまずはMeropenemからかな。ブロードバンド時代だし,抗生剤もブロードにいかなくちゃな」
研修医「はい,わかりました」

翌日

Dr. A「おい,CRPが15まで上がってるじゃないか! 胸部レントゲンで影が濃くなってるし,Meropenemが効いていないのか。まっずいなぁー」
研修医「でもA先生,昨日のグラム染色では莢膜を伴うグラム陽性双球菌が貪食されていましたので,肺炎球菌による市中肺炎だと思います。ですので,Meropenemは効くはずですが……」

その翌日

Dr. A「おおっ,解熱したか。やっぱりカルバペネム系は素晴らしいな。でも,まだCRPが4もあるからあと10日くらいは念のために抗生剤投与だ」
研修医「はい,わかりました」

その翌日

Dr. A「おい,喀痰の培養からは肺炎球菌以外に溶連菌やCorynebacteriumも出てるぞ。まったく,グラム染色の結果なんてあてにならないなぁ。めんどくさいばっかりだ。やっぱり何でもこいのカルバペネム系だよなー」
研修医「……」

【指導医がDr. Bの場合】

*以下,Dr. Bと研修医の会話
Dr. B「この患者さんは熱があって呼吸数が多く右肺野にcrackleが聴こえるから肺炎が疑われるね。急いで喀痰のグラム染色をして来てくれるかい」

染色後

研修医「先生,莢膜を伴うグラム陽性双球菌が多く貪食像を認めました。肺炎球菌による市中肺炎だと思います」
Dr. B「肺炎球菌か。じゃあPCG(benzylpenicillin potassium)でOKだな」
研修医「でも,PRSPだったらやばくないですか?」
Dr. B「いや,PCGは量を十分使えばきちんと効くよ」

翌日

研修医「B先生,おはようございます。呼吸状態は改善し,昨夕の喀痰を染めたらGPCが著明に減少していました! ほとんど見えません!」
Dr. B「よしよし。抗菌薬効いてるな。このままでいこうか」

その2日後

Dr. B「やっぱり培養から肺炎球菌も出ているね。グラム染色の結果通りだ! 患者さんは解熱しているし,今日の染色でも菌がいないし順調だな」
研修医「そうですね」

 以上の会話を参考にして,グラム染色の特徴を説明します。

(1)迅速である
 Dr. Aはグラム染色を面倒な検査だといいますが,そんなことはありません。長くても15分,慣れればほんの10分で顕鏡まで終わります。ウイルス迅速検査と比較しても早いですね。

(2)起炎菌か常在菌かの判別とそれらの推定ができる
 Dr. Aは培養検査結果から肺炎球菌,溶連菌,Corynebacteriumがでて,どれが起炎菌なのかまったく分かっていません。実際,培養検査の結果を見るだけでは起炎菌と常在菌の判別は不可能です。しかし,グラム染色を併用することでその判別が可能となります。

 炎症は好中球とフィブリンで評価します。新しい炎症,つまり感染直後では辺縁明瞭で小さな核を有する好中球,鮮やかなピンク色で繊維のはっきりしたフィブリンを認めます。好中球による貪食像は起炎菌の可能性を示唆します。ふるい炎症では辺縁不明瞭で大きな核を有する好中球,赤色でべとっとしたフィブリンを認めます。慢性炎症では新旧の炎症が混ざって認められます。一方,常在菌ではこのような炎症所見を認めません。

(3)培養結果に負けない!
 本症例では起炎菌が肺炎球菌,常在菌が溶連菌とCorynebacteriumですが,細菌により培養されやすさが異なります。起炎菌Aと常在菌Bとして例を挙げます。検体採取時に起炎菌Aが3という量,常在菌Bが1という量いたとします。グラム染色するとA:B=3:1で感染の状態を的確に示してくれます。しかし,培養では3いた起炎菌Aが5までしか増加せず,1しかいなかった常在菌Bが10まで増加したとすると,培養結果ではA:B=1:2となり,あたかも常在菌Bが起炎菌であるかのようにみえます! よって,感染の状態を的確に把握するには培養結果とグラム染色所見を併せて評価する必要があります。

 このように,グラム染色は火事の現場検証のようなものです。燃えている火事の現場を見るように,患者さんの体内で今まさに起こっている細菌との戦いをリアルタイムで見ることができます。一方培養検査では,こうしたリアルタイムの情報は得られません!

(4)効果判定に利用できる
 Dr. Bとの会話中で,研修医がPCG開始日の夕方に再度グラム染色をしています。これは感受性のある抗菌薬開始後,ほんの数時間経てばグラム染色で著明に菌量の減少を認めるからです。本症例では昼からPCGを開始し,夕方のグラム染色で肺炎球菌が著明に減少していました。こんなに早く治療効果判定ができるなんて,素晴らしいと思いませんか?

 ところで,感染症に限らず「診断した項目=効果判定の項目」という鉄則があります。肺炎の場合,その項目として呼吸数,グラム染色所見,聴診所見,喀痰の量と質,全身状態,体温,胸部レントゲン所見などが挙げられます。Dr. Bは呼吸数,グラム染色所見,聴診所見,体温で肺炎と診断し,この4項目で治療効果判定を行いました。このようにグラム染色を用いて診断したならば,その後も継続して行う必要があります。

 ここで上記項目について肺炎に特異的なマーカー(呼吸数,グラム染色所見,聴診所見,喀痰の量と質)ほど治療効果を迅速に反映するという特徴があります(図)。Dr. Aは抗菌薬開始翌日のCRP値上昇のため治療効果判定に戸惑っていますが,これは見るべきものを間違っているからなのです。グラム染色で著明な菌量減少を確認していれば早目に安心することができたでしょう。

(5)経済効果がある
 両医師がこの患者さんを治療するのに使用した額を計算し,比較してみます。Dr. AはMeropenem1g/日×13日=5万8084円であるのに対し,Dr. BはPCG×800万単位/日×7日=1万3384円でした。治療費に4倍以上の差があるわけです。また,たとえ『サンフォード感染症治療ガイド(熱病)』を参考に治療したとしてもグラム染色を行わなければ,(Ceftriaxone2g/日×3日=7284円)+(Azithromycin0.5g/日×3日=1923円)+(PCG800万単位/日×4日=7648円)合計1万6855円となり,グラム染色を行うDr. Bの1万3384円にはかないません!

【実際に行う際のポイント】

グラム染色を行うタイミングは2つ!
(1)抗菌薬治療開始前
(2)抗菌薬開始または変更後に,治療効果判定として

染色液は信号機(最も簡便な西岡の方法で行う場合)!!
 グラム染色の染色液は信号機と同じ。検体にかける順番は青→黄→赤で,待つ時間はそれぞれ10秒,5秒,15秒です。10秒+5秒=15秒と覚えて下さい。また,黄色信号が交差点事故を防止するように,グラム染色でも黄色がいちばん短く,かつ大切です。青色が溶け出さなくなるまで黄色のピクリン酸アルコールをかけてから5秒間待つ脱色の過程がグラム染色の最大のポイントです。

See one, do one, teach one.
 軽快なフットワークは研修医ならではです。担当患者さんのところへ足を運ぶような感覚でグラム染色をして下さい。その手軽さと有用性を知り,実際に興味を持って行い,後輩に伝えて,グラム染色が医師臨床研修の「屋根瓦」作りの一助となれば嬉しいです。


略歴/2005年浜松医大卒。静岡赤十字病院,浜松医大附属病院で初期研修を行い,07年4月より現職。頭のてっぺんからつま先まで診る点で感染症に魅力を感じ,全体を見渡すバランス感覚を大切にしている。非医療人の感覚も大切にし,時間があれば病院外の世界へ飛び出す。医師である前にまず人として,社会人としてもっと成長したいと思う今日この頃。将来は東南アジアで働きたい。写真は小児科研修中の筆者(右)と学生さん。

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