医学界新聞

2007.03.19

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


脳血管内治療のDo's & Don'ts
第2版

吉田 純,宮地 茂 編

《評 者》伊達 勲(岡山大大学院教授・脳神経外科)

発展著しい分野の最新知識の情報源

 脳神経外科に限らず外科系の治療全体にいえることであるが,より低侵襲に治療を行う,というコンセプトが求められる時代になっている。脳血管内治療はこのコンセプトに沿う治療法として発展の著しい分野の一つである。

 この治療法に新しく取り組む医師の数も年々増加している。このような状況下で,名古屋大学脳神経外科の吉田純教授と宮地茂助教授の編集により,『脳血管内治療のDo's & Don'ts』の第2版が出版された。新しい分野の治療では,「何をすべきか(Do's)」という点以上に,「何をしてはいけないか(Don'ts)」という点が,より安全で確実な治療を行ううえで重要であり,タイムリーな内容である。

 3年前に出版された第1版が368頁であったのに対し,今回の第2版では520頁と約1.5倍近くに増えており,この分野の発展の度合いが頁数にも表われている。内容を拝見してまず目につくのが「Side memo」の充実ぶりである。どの教科書でも,この「Side memo」のコーナーは,ちょっと視点を変えた話題が提供されているため,興味深く読めることが多い。本書では「Side memo」は面白い読み物風になっているわけではないが,実際に脳血管内治療を行ううえでの実用的な問題がリアルに記載してあり,臨床上大変役立つものと期待される。

 画像誘導下に行われる脳血管内治療においては,個々の症例の記載が実際の臨床に有用である。その点,本書に掲載されている臨床例の多さ,具体的な手順に沿った写真のクリアさは,賞賛に値する。それぞれの図に添付されている説明文もコンパクトでわかりやすく,図の中の矢印などの符号を見ながらすっと頭に入ってくる。教科書を支える重要な要素の一つが参考文献であるが,本書では巻末に多くの参考文献が章毎に記載されており,必要ならばその文献を調べることでより深く学ぶことも可能である。欲を言えば,それぞれの文献がどの文章に対応しているかについて,可能な範囲で記載してあれば,読者にとってはより好都合であろうが,本書が雑誌論文ではなく教科書であるということを考えると,そこまで望むのは酷かもしれない。

 本書のもう一つの特徴は,インフォームドコンセントの章であろう。編者の1人である宮地茂先生の執筆による部分であり,時代を反映して第1版に追加して項目も増えている。この章は同一著者による執筆であるので,文章の流れも一定しており,読者にとっては大変参考になるものと思われる。また,巻末付録の脳血管内手術用代表的器材に関する説明も大変詳しく,実用的である。この分野では新しい器材の開発が目白押しであるが,現時点で使用可能な多くの器材について具体的記載があることは,実際に脳血管内治療を行っている読者にとってはありがたい。

 以上のように,本書は脳血管内治療を行う医師にとって最新の知識の情報源として大変有用であり,かつ実用的な教科書である。皆さんが本書を参考にしながら,より安全で正確な脳血管内治療を行われることを祈る。

B5・頁520 定価12,600円(税5%込)医学書院


地域診断のすすめ方
根拠に基づく生活習慣病対策と評価 第2版

水嶋 春朔 著

《評 者》山田 隆司(宮崎県日南保健所長)

目から鱗が落ちる疫学・健康政策学の良書

 保健行政や健康政策立案を生業とするもの,保健学を修学しようとするものにとって,座右の書となるべき指南書が,ここに一つ装いを新たに誕生した。

 わが国の健康増進計画である健康日本21の基本的理念に「ポピュレーション・ストラテジー」と「ハイリスク・ストラテジー」の概念が導入されていることは周知のことである。この理念の実証的学理基盤を提唱したのが,ジェフリー・ローズ博士である。著者の水嶋春朔氏は,この先駆者の合理性にいち早く着目し,わが国の関係者へその健康政策理念を紹介した気鋭の疫学者の一人である。

 水嶋氏は本書第1章で,ローズ博士が提唱したこれらの政策理念を,どうすれば現実の健康政策へ展開できるか具体的に例を挙げる。さらに政策評価の技術論へと読者を丁寧に導く。

 第2章では,「地域集団は,自分の状態をしゃべれない赤ん坊」であり,医師が患者の状態を適切に把握することが,正確な診断や治療につながるがごとく,「地域診断」が,健康政策立案の中核技術であると論じ,具体的にその進め方を説く。

 さらに疫学情報リテラシーがどうして必要かという理説に続き,「わからない」ということがわかるようになる,という鳥瞰的視座による科学的理性のありかたに言及する。また,難解な統計学をとてもわかりやすい図表を駆使して,読者の頭を整理させる。

 評者の注目は,相対リスクと寄与リスクなど政策疫学では死活的に重要であるにも関わらず,初学者には難解な概念を,ものの見事にかみ砕いてみせる点にある。

 最終章では,健診データを例に,エクセルによる統計処理が誰でも取りかかれるように解説され,読者を実務者へと進化させる。

 評者は,保健所長として政策疫学を実践する立場にあるが,行政の構造的傾向として,前例踏襲や「上からの指示」で政策決定が行われることを日常経験している。水嶋氏は,本書を通じ,このような「権威の意向」“Opinion-based”による意思決定に対し,「根拠に基づく」“Evidenced-based”政策立案を提唱し,行政に対し切々と行動変容を迫っている。

 ところで,水嶋氏の講演を聴講したことがある方はきっと同意されると思うが,健康政策学,応用疫学のような一見難解な学知を,独自の視点から,楽しく面白く解説され,聴講空間は水嶋ワールドと化す。このような学者はまれである。評者は,非常勤講師として看護学部学生に教える立場にもある者として,著者のその教育能力に脱帽する。

 その意味で,初学者のみならず,疫学・健康政策学を,どのように教えたら学生は眠らずに聴いてくれるだろうかと,悩んでおられる指導的立場の教官たちも,目から鱗が落ちる一冊である。

A5・頁192 定価2,835円(税5%込)医学書院


神経内視鏡手術アトラス

石原 正一郎,上川 秀士,三木 保 編

《評 者》寺本 明(日医大大学院主任教授・脳神経外科)

安全かつ確実な技術を得るための必読書

 日本脳神経外科学会は1948年の創設であるので来年60周年を迎える(ただし,学会の開催数はもっと多い)。数え年で言えば既に還暦を迎えているわけである。この間,学術的にも技術的にも,さらには政治的にも一貫して右肩上がりの発展を来たし,時には既に完成形に近づいたかと思われる分野もあった。細かいことを言えばきりがないが,臨床的にはMicroscopeと

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