医学界新聞


シリーズ 看護基礎教育改革を考える Part2

対談・座談会

2007.02.26

 

【座談会】

シリーズ 看護基礎教育改革を考える Part2
基礎教育と臨床のギャップを埋める

草間朋子氏(大分県立看護科学大学学長)
杉尾節子氏(都立府中病院看護部長)
辻本好子氏(NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)


第1回よりつづく

 シリーズ「看護基礎教育改革を考える」。第2回では,基礎教育と臨床のギャップを埋める具体的方策について,大学,臨床,そして患者の立場からの出席者による座談会を行う。日本看護協会の調査では「基礎教育で到達すべき103項目中4項目しか,新卒看護師が自信を持ってできると答えた技術がなかった」と報告されるなど,深刻なギャップの存在が指摘される基礎教育と臨床だが,本座談会ではその実態と問題点を,患者の視点を含めて議論する。


■基礎教育と臨床のギャップ その実態

年々削減される実習時間

草間 本日は,シリーズ「看護基礎教育改革を考える」の第2回として,基礎教育と臨床のギャップを埋める方策について考えてみたいと思います。第1回の座談会でも話題になりましたが,基礎教育で到達すべき103項目のうち,新卒看護師が自信を持ってできる技術が4項目しかなかったという日本看護協会の調査に象徴されるように,新卒看護師が臨床に出た際に直面するギャップが問題視されています。

 現場サイドの認識として杉尾先生にお聞きしましょう。実際,昨今の新人看護師はどのような印象でしょうか。

杉尾 調査で上がった4項目というのは,ベッドメーキング,リネン交換,血圧測定,身長・体重(測定)ですが,現実的には「その4項目については,まったく人の手を借りないで自信をもってできる」ということであって,実際の新人看護師はもう少しできると考えてよいと思います。

辻本 そうでしょうね。いくらなんでも(笑)。

杉尾 ただ,この調査から私たちが読み取らねばならないのは,新人がそれだけ不安を抱いているということではないかと思います。日本看護協会の調査でも早期離職率の高さが指摘されていましたが,そのことは私どもにも強い実感があります。

草間 基礎教育と臨床で求められることの間にギャップがあり,そのことが新卒看護師の不安を生んでいるという問題は,前回の座談会でも大きく取り上げられていました。今日はその具体的な中身に踏み込んでみたいと思うのですが,やはり外せないのは実習の問題であろうと思います。

 看護基礎教育の歴史の中で,実習時間は削減され続けています。1967年改正の指定規則では,1770時間の実習が義務づけられていましたが,その後,指定規則改正のたびに実習時間は減り続け,いちばん最近行われた96年の改正では1035時間になりました。

 またその内容についても67年の時点では基礎,成人,母性,小児看護の4領域だったものが,96年からは精神,老年,在宅看護の3領域が追加され7領域となりました。領域が増えたうえに,時間数も4割程度削減されたというのが,基礎教育における実習の現状です。

実習を取り巻く最近の状況

杉尾 実習の現状についてさらに付け加えますと,近年の在院日数短縮の流れの中で,ゆとりをもって病院実習を行うことが難しくなっているという問題もあります。かつては20日以上あった平均在院日数が,今では多くの病院で2週間前後となっており,慌ただしい医療環境の中で,実習に来た学生がトータルに患者さんと関わることが難しくなっています。

草間 医療環境の変化ということでいうと,最近では7:1基準が導入されました。全国的に看護師不足が言われる中で,臨床指導者の確保が難しくなったということはありませんか。

杉尾 指導者の確保という点では,7:1の影響はそれほど感じていませんが,看護師不足によってシフトが組みにくくなり,結果として同じ学生に同じ臨床指導者についてもらうことが難しい,というケースはよく生じます。

 臨床指導者が変わってしまうと,実習の継続性や質が落ちてしまうので,臨床指導者は基本的には日勤に入ってもらうなど,なるべくよい実習環境を提供できるよう,工夫しています。

草間 実習から戻った学生は,ほんとうにいきいきしているように感じます。基礎教育のなかで例えばコミュニケーション技術について講義や演習をやっても,やはり臨場感に欠ける。しかし,実際に現場に出てみて,患者さんから直接感謝されたりすると,それだけで人間として変化・成長がはっきりと見られます。現在議論されている看護基礎教育の改革でも,あらためて実習に関わる問題を重く捉えていただきたいと思います。

■患者の立場から教育を考える

実習の意図をきちんと伝える

辻本 私は患者の立場から医療を変えていこうと活動するCOMLの代表という立場におり,普段から看護や医療の実態について,患者からも現場からもお聞きすることが多い人間です。今の看護基礎教育と現場との乖離といったお話をうかがっても「本当にたいへんだな」あるいは「やっぱりそんなことが起きているんですか」と受け止められます。

 しかし,一般の患者は,おそらく看護学生の実習といってもほとんど実感がありません。電話相談でも,患者の奥さんから,「学生が担当するのを断ってくれと主人が言うんですが……」という問い合わせが少なからずあるくらい,実習の意義を含めた,看護教育が抱えている今日的課題は一般の方に理解されていません。

草間 個人情報保護法施行以降,多くの病院では書面でのインフォームド・コンセントをとっていることと思いますが,そういった形式的なこととは別に,社会的な承認が必要ですね。

辻本 患者が納得していなければ,それはインフォームド・コンセントではありませんからね。おそらく,そこに不足しているのは,枠組み的な問題というよりは,些細なコミュニケーションであろうと思います。

 ただ,一方で患者のほうに問題がある場合も少なからずあるだろうと思います。COMLの電話相談も17年が経ちましたが,患者の意識は,それこそ言葉を持たないヨチヨチ歩きの幼子から,自分の権利を声高に主張する思春期・反抗期の青年のような変化を見せています。

 思春期の青年が成熟した人間になるかどうかは,その時期に周囲の人間がいかに関わるかによると思いますが,医療現場でもそれは同じ。思春期の青年のように自らの義務を棚にあげて権利だけ振りかざす患者の背中を,看護師さんがどう支えるかによって,これからの患者の意識が大きく変わってくる。その意味で,私は看護に大きな期待を抱いているし,あえて厳しいことも言わせていただきます。

患者から見えない看護の姿

辻本 電話相談を受けていていちばん感じることは,今のところ患者・家族のニーズは,クレームも含めて,ほぼ100%医師に向いているということです。これは,よいことも,悪いことも含めてです。私個人は,医療の中で医師が担っているのは30%くらいで,あとの70%はチーム,中でもその多くを看護が担っているのだと考えていますが,一般の患者さんはそのように捉えていません。医療=医師が行うこと,なんですね。看護に何を,どれくらい期待していいのか,多くの患者さんは理解していないのです。

草間 一般の方が医療現場の現状や,看護の仕事をご存じないというのは当然なのですが,例えば1回入院を経験されればその人は看護の価値というものを強く実感されるだろうと高をくくっていた部分がありました。

 しかし,辻本さんのお話からわかるのは,入院経験のある患者さんでも,看護師の役割,業務というものを十分に認識していないということですよね。私は,看護をよくしていくためには,社会が看護をどう認識してくださるかということにかかっているとかねがね考えてきましたので,これは非常に重要なご指摘だと思いました。

「ありがとう」が起こす正のフィードバック

草間 患者側の理解を求めていくためには,具体的にどういったことに取り組むといいでしょうね。

辻本 私は,やはり看護もイ...

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