医学界新聞

連載

2007.02.12

 

臨床研修の歩き方
Think Globally, Act Locally

〔連載 第3回〕
九州編

岡嶋泰一郎
全国7か所の厚労省地方厚生局で働く臨床研修審査専門官が,全国各地の臨床研修の様子を交代でレポートします。


前回2710号

 研修医の皆さん,こんにちは。今回は指導医をテーマにお話ししたいと思います。

 厚労省の省令により,指導医は研修医に対する指導を行うために必要な経験および能力を有していること,さらにプライマリ・ケアの指導方法等に関する講習会を受講していることが望ましいとされています。これを受けて,医療研修推進財団,研修指定病院,大学などさまざまな団体が主催する「指導医講習会」が全国で開催されています。 

指導医講習会の実際

 私はこの講習会のタスクフォースとして,各地で講習会のお手伝いをしています。研修医の皆さんにとっても,指導医がどのような講習を受け,それが研修の現場でどのように生かされているかを知ることは興味あることと思います。そこで,この講習会の内容を紹介してみます。

 講習会の基本となるコンセプトは,「教育とは学習者の行動に価値ある変化をもたらす」というもので,学習者とは研修医のことを指します。講習会はワークショップ形式をとり,参加者が中心となって問題解決を行うという形で進められます。講習会修了者には修了証書が渡され,厚労省が認定した指導医の資格が得られます。そのためには内容,時間数とも一定の基準を満たした講習会でなければなりません。

 受講者は同じ施設に宿泊し,朝早くから夜遅くまでみっちり討議,発表を繰り返します。まずは自己紹介ならず他己紹介(お互い隣の人を紹介する)から始まり,「印象に残った研修医」などを題材に「お絵かき」をします。多くの人はなぜこんなことをやらされるのか? と訝しがるようですが,他己紹介やお絵かきは緊張を解くice breakingの意味を持ち,その後のグループワークをスムーズに進めるための序奏なのです。ネクタイをはずし,お互い先生と呼ぶのはやめて「さん」で呼び合います(どんな偉い先生も〇〇さんと呼ばれます)。気分が和んだところでワークショップや小グループでのディスカッションの進め方が説明され,平等に発言することや時間厳守の重要性が強調されます。

 最初のグループワークは「基本的臨床能力とは」という問題を討議しますが,KJ法という小集団で意見をまとめるのに適した方法を使います。できあがったプロダクトは模造紙に書いて全体セッションでグループごとに発表し討議します。その後,カリキュラム立案の作業に入り,研修目標,方略,評価と進み,知識,技能,態度の全域が修得できるようなプログラムを作成します。

行動変容の真の対象は?

 ロールプレイも行われ,悪い指導医,良い指導医と研修医役の組み合わせで演じられ,名演技に会場が沸きます。指導医を演じた人の感想を聞くことで,指導医のあるべき姿を考えさせる貴重な体験となります。また,最近医学教育にも取り入れられている「コーチング」のビデオを供覧します。日常の生活から離れ,いろいろな人たちと経験を共有することで連帯感が生まれ,終了時には参加者の高揚した気持ちが伝わってきます。

 実は,価値ある行動の変化をもたらされたのは講習会に参加した指導医の皆さんなのです。講習会を通じて研修医教育の重要性を再認識し,それぞれの研修の現場に戻っていきます。最良の学習は教えることであると言われます。研修医を教えることで指導医も向上していくことが,日本の医療の発展につながるものと期待しています。

つづく


岡嶋泰一郎
1973年九大医学部卒。1980年同大学院博士課程修了。以後,九大病院,ドイツフライブルグ大,国立小倉病院,国立病院九州医療センター勤務を経て,現在は国立病院機構小倉病院副院長。2006年2月より九州厚生局臨床研修審査専門官(併任)。