医学界新聞

 

臨床研修の歩き方
Think Globally, Act Locally

〔連載 第2回〕
中国四国編

市場洋三
全国7か所の厚労省地方厚生局で働く臨床研修審査専門官が,全国各地の臨床研修の様子を交代でレポートします。


前回2706号

 臨床研修病院のプログラム責任者,指導医,研修医の皆さま。研修充実のため,審査専門官より3点お願いします。

救急医療は最良の教育現場

 救急医療の現場は,医師が臨床判断力を身につけるための最良の修練の場です。救急関連研修は,救急外来研修と麻酔科研修より成ります。救急外来研修では,数多くの患者の中から,重大な病態を有している患者を見逃さないだけの能力を身につけることが必要です。一見症状の軽い頭痛,胸痛や腹痛を有する患者を診察した場合,しばらく様子を見てよいのか専門家に相談したほうがよいのか(クモ膜下出血,解離性大動脈瘤,腸軸捻転症などを研修医は見逃しています)の判断力を磨くことが大切です。

 麻酔科研修は,BLSおよびACLSに必要な手技を身につけることができるでしょう。新幹線の中での急病人の放送で医師要請のコールがあれば,自信を持ってすぐに駆けつけることのできる医師になりましょう。16両編成の座席数は1321席で,医師2名が乗っている計算になります。

 審査官として各病院を回っていると,新制度を契機にER型救急体制を構築しようと努力する病院を見受けます(夜間の救急患者専用の病室を確保し,救急専用医師を配置するなど)。時間外救急件数,救急車取り扱い件数,ER専門医指導体制の有無は,研修医が病院を選ぶ際の重要な要件となっています。臨床研修病院として,救急部門の一層の充実をお願いします。

研修医のこころの管理は大丈夫ですか?

 臨床研修病院指定申請書には,研修医の処遇(給料,勤務時間,休暇,各種保険,健康管理など)を記載する項目がありますが,特に健康管理,中でもこころの健康管理をよろしくお願いします。

 研修医は,医学部を卒業して臨床研修病院の第一線で医師としての重大な責任を負わされ,かなりのストレスにさらされます。研修分野ごとに新しい対人環境に対峙し,膨大な仕事と長時間の拘束に身も心もくたくたです。中国四国管内で一期生670名中,未修了者と中断者が22名報告されました。そのうち11名が精神的理由で臨床研修休止を余儀なくされています(注:ストレスによるうつではとりあえず研修を休止して研修現場から離れ,負荷を軽くすることが良い結果に結びつくことも多い。したがって,場合によっては休止させることの利点もある)。指導医の先生方,常に研修医のこころの健康に留意してください。

へき地・離島で研修し,医療過疎問題を考えてみよう

 地域保健・医療を必要とする患者とその家族に対して,全人的に対応するために,へき地・離島診療所,中小病院,保健所,介護老人施設などで研修します。

 山陰および瀬戸内地方には多くのへき地・離島があり,医師の不在が問題となっています。へき地・離島研修を地域保健・医療研修の一環として行うことをプログラム責任者にお願いし,いくつかの病院では有意義なへき地・離島研修が行われています。

 へき地・離島医療では,あらゆる領域の診療を要求されます。何とか患者の期待に応えなければなりません。当面の救命救急が求められ,また専門家に早急に紹介する必要性の判断を迫られます。「地域医療は崩壊寸前」,「地方の医師不足は深刻」,「小児医療が危ない」,「産婦人科が消えた」などマスコミは毎日報道します。

 研修医の皆さん,へき地医療や地域医療のかかえる問題の本質を理解したかったら,若いうちに医療に恵まれないへき地・離島において研修を行い,医療過疎の問題について考えてみましょう。

つづく


市場洋三
1970年岡山大医学部卒。以後,国立岡山病院にて小児科一筋33年間勤務する。2003年より中国四国厚生局に勤務。現在は広島検疫所検疫衛生課長も兼務している。