医学教育(4)
連載
2007.01.15
| 連載 臨床医学航海術 第12回 医学教育(4) 田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長) | 
(前回よりつづく)
臨床医学は大きな海に例えることができる。その海を航海することは至難の業である。吹きすさぶ嵐,荒れ狂う波,轟く雷……その航路は決して穏やかではない。そしてさらに現在この大海原には大きな変革が起こっている。この連載では,現在この大海原に起こっている変革を解説し,それに対して医学生や研修医はどのような準備をすれば,より安全に臨床医学の大海を航海できるのかを示したい。
医学教育の第4の問題点として,今回は評価方法の問題を取り上げたい。
試験絶対主義
医学教育理論によると,教育・学習には目標・方略と評価がある。評価方法は大きく受験者の成長を促すための形成的評価と受験者のある時点での達成度を判定する総括的評価に分類される。その教育・学習の評価方法の一つとして試験があるが,試験以外の評価方法としては,実技やロール・プレイなどがある。このように評価方法には多くのものがある。しかし,ここで疑問なのは「日本人は試験を絶対的な評価と考えていないだろうか?」ということである。日本では,難しい試験に合格した人や難関校の学生やその卒業生は尊敬される。確かに難しい試験で高得点を取ることや難しい試験に合格することは賞賛に値する。難関大学出身者や司法試験などの難関試験合格者は偉い人と尊敬されるが,逆にそうでない人はあまり評価されない傾向がある。
しかし,試験という評価方法は,医学教育理論の教育目標分類taxonomyの認知・情意・精神運動という3つの領域のうちの「認知能力」という1つの領域を評価するものでしかない。したがって,試験という評価方法は,人間の認知能力しか判定せず,それ以外の情意や精神運動などの能力についてはほとんど評価していないのである。試験とは元来このように認知能力を判定する評価方法であるはずなのに,問題なのは試験はあたかも情意・精神運動能力の判定までも兼ねていると誤解している人がいることである。
実際の医療の現場では知識などの認知能力も大切であるが,それにも増して重要なのが生身の患者さんと触れ合う情意能力や現場で動ける精神運動,すなわち,実技能力である。したがって,医師国家試験が選択肢問題のみで実技がないことからわかるように,日本では医療現場で最も重要な情意や精神運動能力について医学生や研修医をほとんど評価していない...
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