新春随想2007(岸本忠三,藤原研司,政田幹夫,杉町圭藏,廣橋説雄,森口隆彦)
第27回日本医学会総会に向けて
2007.01.01
新春随想
2007
第27回日本医学会総会に向けて
岸本忠三(第27回日本医学会総会会頭/大阪大学前総長) 21世紀の始まりとともにポストゲノムの時代が幕を開き再生医療や遺伝子診断,治療が現実のものとなりつつあります。日本人の寿命は80歳を超えるようになりました。しかし一方では医学,医療の進歩は20世紀には考えもしなかったような問題をわれわれの前に提起しています。“祖母が孫を生む”“病気で摘出した腎を移植する”“死んだ父の子供が生まれる”法律も予期しなかったことにわれわれはどのように対応すればよいのか。平均寿命の予想を超えた伸び,急速な少子高齢化は医療費や年金の問題にも大きな影響を与え始めています。
“発見の上に発見を重ねる”“論文の上に論文を重ねる”ことによって科学は,われわれの“知識”は飛躍的に進歩します。しかしわれわれの“知恵”はそれに比例しては進歩しません。100年前の科学は古くなりますが250年前のモーツアルトを超える音楽は生まれません。“知識”と“知恵”にどのように折合いをつけていくかがどの分野にも求められていますが,われわれの“いのち”を守る医学・医療の世界において最も大きな課題といえるでしょう。
4年に一度の医学会総会は今年の4月,24年ぶりに大阪で開かれます。最先端の“知識”を世界と競いさらに進歩させる医学研究には,専門家の集まる夫々の分科会がその役割を果たします。医学会総会は研究者も,一般の臨床医も,コメディカルスタッフも,専門や職種を異にするいろいろな方が集まります。そうした人々が共通に抱えている課題を,領域を超えた形でディスカッションする,そこに医学会総会の1つの意味があると思います。一般の市民の方に企画展示を通して医学・医療の進歩とその問題点を考えてもらうことも重要だと思っています。
医学の発展を振り返ってみますと,20世紀は生命を組織,細胞のレベルから分子,遺伝子のレベルへと分析していく時代でした。その結果ヒトのゲノム30億個の文字も解読されました。21世紀はそれを土台に生命のプログラムを再現していく,いわば還元から統合へと進む時代だといえると思います。それが“いのち”の仕組み,それが乱れることによって引き起こされる病気の発症機構の解明,新しい治療法や薬の開発につながっていくと思われます。
しかし“知識”とともに“知恵”が伴わないときには技術だけが一人歩きする危険性もあります。医学医療の原点はいのちの大切さ,ひとの尊厳を守ることにあります。分析から統合へと進む医療のなかで,それがなおざりにされていないかもう一度初心に戻って“いのちとは何か”“ひととは何か”を見つめ直してみようというのが今回の医学会総会のメインテーマです。
◆第27回日本医学会総会開催日程
会期:2007年4月6-8日
URL=http://www.isoukai.jp/
専門医制度の未来図
藤原研司(日本専門医認定制機構代表理事/横浜労災病院院長) 無邪気にはしゃぎまわる子供たちに平和な日本の姿を見る。幸せな人生を歩ませてあげたい。しかし何時かは病にも向き合うことになろう。恵まれた医療環境を構築しなければならない。日本専門医認定制機構に問われている命題である。
医学・医療の進歩は加速している。診断・治療面ばかりでなく,現代社会では心の病も注目され,それだけに個々の医師が得意とする専門領域も細分化し,さまざまな医学会が設立され,夫々に技量の熟達度による医師のランク付けが独自の認定医・専門医等の名称を付して行われてきた。しかし,当初は医学の発展に貢献した医師の研究業績面なども資格条件とされたため,診療面での実績とは必ずしも一致していないこともある。
戦後のわが国では医師が免許取得して医業を営む際に標榜できる診療科名が幅広く認められてきた。しかし,今や一人の医師が外科・内科・小児科など複数の診療領域において現代の医療レベルを保つことは困難となっている。また,45年前に実施された国民皆保険制度も定着し,加えて,4年前からはそれまでは医療法で規制されていた専門医の広告も緩和された。
近年は国民の立場に立った医療の実践が求められ,患者が自己決定するための医療情報が必要とされている。病人となれば,誰もが安心して飛び込める医療施設の診療科は何処かを考え,担当医の技量が担保されていることを願う。最善の策としては,医療者の視点からだけでなく,一般国民も参画した信頼度の高い第三者機関が公認する専門医制度の確立であろう。
一方,担当医がより専門性の高い治療法を要すると判断した場合に紹介する専門医の情報も必要である。これら患者-医師,医師-医師の合理的な連携図こそが専門医制度の未来像である。長年の習慣を変革するには,歴史を検証して現在の問題点を現場から挙げ,それらを整備することが基本である。日本専門医認定制機構では専門医制度の抜本的な見直しが着実に進められている。
ジェネリック医薬品使用促進に向けて
政田幹夫(福井大学教授・医学部附属病院薬剤部長) 2006年9月の出来事である。公正取引委員会の「医療用医薬品の流通実態に関する調査報告書」の中に,“医療機関が後発医薬品を使用する契機で最も多いのが,赤字経営の改善(65.6%)”との報告を見た。国民がこの事実を知れば怒りだしはしないかと正直不安である。さらに“後発医薬品の使用に当たり,後発医薬品自体の安全性・安定供給・情報量等が不安だという医療機関が多数(84.6%)を占めたのに対し,医薬品の選択が可能な場合,必ず又は場合によっては後発医薬品を選ぶという消費者が多数(96.7%)”と医療機関と消費者の間に乖離のある矛盾に満ちた結果も報告された。
また,日本医師会からは「後発医薬品に関する緊急調査結果」で“後発医薬品の使用に慎重あるいは懐疑的な意見”が67%であることを示し,“問題のあるものが現場にあることを厚生労働省に知ってもらいたい”とのコメントも出された...
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